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こーちゃんふられる

「やっぱり 無理 ごめん」

「………分かった」


 水木(みずき) 幸太郎(こうたろう)は彼女にフラれた。といっても、付き合い出したのは3日前だった。

 少しばかり理由も気になるところだが、感情の起伏が無く、よく言えば穏やかな彼はそのままその場を立ち去った。

 何を探すわけでもなくポケットに手を入れゴソゴソしてみたのは少し動揺したのであろう。

 彼にとっては人生初の彼女であった。72時間足らずで終わりを告げた理由は、彼がなんにもアクションをしなかったからかも知れない。


「あぁ こーちゃん、失敗じゃんかっ。僕が絶対付き合えるようにもってったのにっ。あのバカタレ。欲はないのか……。男のくせに。」とがっかり呟くのは彼を日頃からストーカーとも呼べるほどに尾行するクラスメイトの 斉木 天音(さいき あまね)(女子♀)である。


 幸太郎は人生やり直し逆行転生を果たし、適当に高校時代に戻されたのだが、何かのエラーで持っているはずの前世の記憶がない。やり直している事すら分かっていない。



 エラーが出た場合には付添人が同伴される。付添人はやり直し権を獲得できなかった者から適当に選ばれる。ターゲットが目標達成出来れは付添人は新たにのぞみ通り自分の人生をやり直す権利を得る。


 僕を一人称とし独り言を言っていた同じクラスの同級生女子 天音が付添人である。


 天音は幼馴染のポジションで転生させられ送りこまれたらしい。が、本人に正体を明かすのも、前世や転生の話も御法度なのである。

 天音も自分の前世の記憶はない。しかし、あろうことか前世は男であっただろう感覚だけは僅かばかり残っていた。


 きっと今回の逆行転生管理人は仕事ができないタイプかもしれない。


 天音は日々、こっちがエラーやろっと怒るのも無理はない。ちゃっちゃと目標達成させて、天音は自分の番を迎えたいのだ。



 幸太郎の朝はいつも決まっている。バナナを食べココア味のプロテインを飲み。歯磨きする。鏡に映る姿はパッとしない普通の男子高校生だ。ブサメンでもない、イケメンでもない。学年では〇〇の兄ちゃんとか〇〇の友達と言われる程度である。


「行ってきます」「行ってらっしゃい、あんたぼーっとして車に引かれるんじゃないよっ」

 彼は二駅歩いて通学する。よってかなり早い出発である。


「おはよう 今日も早いね〜」近所のお年寄りとも顔馴染みだ。「おはようございます いい天気ですね」



 うっすら汗をかいて教室へ入る幸太郎は挨拶を欠かさない。


「おはよう」


 ガヤガヤみんなおのおの話題が尽きないようで朝から楽しい高校の朝だ。

 幸太郎のさりげない『おはよう』には誰も気付きもしない。あえてみんなの邪魔をしない『おはよう』は、計算されたボリュームで発されるのだ。


 ただ隣の席の天音だけは元気よく「おはよう」を言ってくれる。

 いつもの朝だ。


「おまえっなんで弁当忘れんだよ ん!」

「ああ 悪いな ありがとう」


 幸太郎の目の前に半ギレで弁当を置いた男子生徒に視線が集まる。

 控えめにもざわつく女子の声。

 人気男子 水木(みずき)勝太郎(しょうたろう)だ。弁当を持ってきた理由は、彼が双子の弟だからである。


 きっと胎内でイケメンパーツを全て先取りされたのだとは心得ているが、母ちゃんは二人の寝顔はそっくりよという。ということは、大きな差はきっと目だと納得している。

 そんなことは物心ついた頃には分かるもの。その起きてるか寝てるかも分からないほどの一重瞼を今じゃ気にもしていない。


 そんな幸太郎は21歳で他界した。

 大学進学は弟に譲り、弟のローンの保証人になり早くに亡くなった父に代わり母を助け、地獄のように正社員とアルバイトを掛け持ちし働き、ある日通勤の朝いつもの交差点で小さな子供がボールを追ってトラックにひかれかけたのを助け自分がひかれこの世を去ったのだ。


 やり直しの彼の目標は、いたってシンプルだがぽわんともしていた。

 それは、自分の為に人生を生きることだ。

 見事逆行転生の権利を勝ち取ったのに、前世の記憶がないのである。

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