種【下】
種【上】をお読みでない方はそちらを先にお読みになられると良いかもしれないです。具体的には作者のモチベが上がります。
「はぁ…はぁ…っ、」
森を抜けるのがこんなにキツいのはいつ以来だろう。肩で息をするのも。汗で服がびしょ濡れになるのも。震える足で大地を踏みしめて歩き、1歩進めるのはいつ以来だろうか。
少なくとも人を背中に乗せて運ぶのがこんなにキツいだなんて村の本には書いてなかったのに。
「っ、…はぁ…!あ、と少し…!」
森を抜けたら村外れの道に出る。そこを道なりに進めば村には戻れるというところで目の前に大声を出しながら人が駆け寄ってきた。
「お嬢様!!!」
「……っ、はぁ…はぁ…貴女は…?」
荒れた呼吸を整えるため深く呼吸をして駆け寄ってきた女性に質問を投げかけた。
女性の方も慌てて呼吸を整え、僕の質問に答えてくれた。
「……ふぅ、失礼致しました。わたくし、マイオソタス家で侍女長を務めておりますデイジーと申します。」
そう言うとデイジーと名乗る女性は慎ましくお辞儀をした。
マイオソタス家。ここら一帯の領主の家名だ。先程まで薬草を摘んでいた森の持ち主であり僕が住んでいるミノット村もマイオソタス家の領地だ。
「僕の名前はコルチカムです。コルチと呼ばれています。」
「コルチ様、まずはお礼を申し上げます。お嬢様を見つけてくださりありがとうございました。」
礼を告げるとデイジーさんは僕の背中にいる彼女をお姫様抱っこの要領で抱えた。
引き渡す際に、ご迷惑をおかけしたこと申し訳ありません。と言われたが、彼女が倒れてしまったのは自分のせいだったので少し気まずい気持ちになった。
「こちらこそありがとうございますデイジーさん。あともう少しで僕の体力の方が尽きていましたし…デイジーさんが探しに来てくれていなかったら僕も倒れていたかもしれません。」
「いえ…当然の務めですから。」
淡々と僕の言葉を当然のことだと切り捨てたその表情はとても安堵に満ちたものだった。服の汚れ、乱れた髪の毛。額の汗。デイジーが彼女のために必死に探し回っていたことからこの人はとても優しく思いやり深い人間なのだろうなと僕は思った。
「それと、」
思い出したことがあったので、村に帰りながらの道中デイジーさんに話しかけた。
「なんでございましょうか?」
歩きながら返事をして後ろを歩く僕の言葉に耳を傾けてくれた。
「彼女、裸足で森の中を歩いていたようで、足の裏を切ったりしていました。菌の侵入と繁殖を防ぐ目的で持ち合わせていた薬草をすり潰して足の裏に塗ってあります。あと半刻ほどしたら様子を見て大丈夫そうなら拭いてあげてください。」
僕の説明に驚いたデイジーさんが抱えた少女を起こさないように僕に礼を言った。
「…本当にありがとうございます…!後日、薬草の代金を改めてお届け致しますので…」
「そんな…代金なんて大丈夫です。元々今日は薬草を摘みに森に入っていたんです。多めに採った分を使っただけなので…。それよりも靴が見つけられなかったので…」
僕はたまらず苦笑した。
するとデイジーさんは釣られて苦笑して申し訳なさそうな僕に気になさらないでくださいと説明を始めた。
「ふふ…お嬢様のお履物の事なんですけれど、実は御屋敷の庭に2つとも転がってました。抜け出すには少々邪魔だったのでしょうね…」
「えええ…」
さすがに言葉を失った。
「ところで、とても薬草にお詳しいですが何かなされているのですか?」
今度はデイジーさんが僕に問いかける。
「村医者の見習いをしています。」
「!だから、薬草を摘んでいらしたのですね。それでは近々またお世話になるかもしれませんね。」
「薬をお求めに?それでしたらどのような薬が必要なのか教えてもらえれば先生に伝えておきますよ。」
「まあ!でしたら、風邪薬の備えとハーブの種を2,3種類お願いしても宜しいでしょうか?」
「領主様に仕える侍女長様の注文ですから、断りませんよ。」
冗談交じりに伝えておきますね。と笑ってみる。 するとデイジーさんも軽く微笑んでくれた。そうして談笑しながら歩いていると、村に続く分かれ道が見えてきた。
「やっと見えてきましたね。」
「ええ、そのようですね。」
「それじゃあ、僕はこっちなので。」
「はい。本日はありがとうございました。お気をつけてお帰りくださいませ。」
お互いに軽くお辞儀をして別れを済ませた。
1人で帰りながら長かった今日の出来事を思い出す。
「あははっ」
思い出したらまた笑えてきた。
今日は日記に書く文字が多そうだ。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
ここから2人を中心に物語は進んでいきます。
ちなみに最終話をどのような形で終わらせるかは既に決めてあります。長いかもしれないし短いかもしれませんが、お付き合いいただければなと。