第94話 悪魔の右腕。
今回は戦闘なしで、専門用語が出てきます。
あまり覚えなくていいかもしれません。
(自分から怪しい人物って名乗ってるから、物凄い変わった人だ!)
木戸の桐崎に対する評価は、怪しい人物から変人へと変わっていた。
「…品川は眠ってるか。まあいいだろう…よいしょっと」
焚き火の前で桐崎は重い腰を降ろし、リラックスしながら座った。
「……」
沈黙という気まずい空気が、ただただ流れるだけだった。
木戸は何を話そうかと思いながら、動きがアタフタしていた。
「…お前、品川の弟子か?」
「は、はい」
こちらから話す手間が省け、木戸は動揺しながら返答する。
「弟子になって何日だ?」
「え? えっと…六日です」
木戸は桐崎の質問に対して、何かしら違和感を感じた。
「六日にして何処まで出来た?」
「…今、『覇気』を扱う修行を…」
「少しやってみろ、俺が見てやる…」
「は、はい!」
少量発汗させ、緊迫した表情の木戸は両掌で『覇気玉』を形成した。昨日とは全く違い、素早く球体に形成されていた。
「…よし、もういいぞ。木戸、一つ質問していいか?」
桐崎は途中で木戸を静止させて、思い詰めた表情で質問をした。
「は、はい」
「この小さい玉を作るのに、修行を始めて何日目だ?」
「二日です」
「…修行予定期間は?」
「一週間です。三日間は筋トレばっかでした」
一応、必要かと思い木戸はトレーニング内容も話した。
「三日で筋肉を作り、四日で『覇気』を操作させる物か…木戸愛菜、お前は良い師匠に恵まれているな」
桐崎は真剣な面持ちで顎に手を添えて、深く考え込む。そして修二の狙いが理解できると感心し、褒めていた。
「え?」
木戸は何があったのか理解できず、怪訝そうな表情で少し困惑した。
「この三日間、お前を筋トレさせたのは身体作りなのは理解してるな?」
「はい。それは二人の師匠からも説明されてました!」
木戸は桐崎の見事で的確な推理で、自然と正座になり、真面目に返答する。
「そして、この三日間が肝だ。この三日間は筋肉で『覇気』を安定させる。もう一つは、飽きさせない為だ。」
「飽きさせないため?」
「大体、人っていうのは三日間でどちらか決まる。飽きて止めるか、継続して頑張るかのどちらかだ。だが、品川は三日間を無駄にしない為、早めに区切りつけて最も難しい『覇気』の扱いに移ったんだろうな…まあ、知らんけど」
関西人特有の間違ってはいけない為、保険として最後に知らんけどという言葉を使い、考察していた。
(最後の所が無かったら格好良かったのに…)
最後の最後で保険として言った単語で、全て台無しとなり、木戸は呆れてしまった。
(…意外と面白いなコイツ。昔の品川は反抗しまくって手を焼いたからな…)
木戸は面白く弄りがいがあり、それと昔の修二と比べて頭が痛くなるほど呆れるしかなかった。
「さて、俺は馬鹿が目覚めるまで少し寝るからな。なんかあれば起こしてくれ…じゃあ!」
桐崎は挨拶すると木戸のテントへ遠慮なく入り、ぐっすりと眠ったのだ。
「…あ! それ私のテントですよ!」
それに今、気付き木戸は桐崎を引き摺りだそうとテントへ勢いよく突入した。が、大きく激しくテントは揺れて、テントの入口から木戸が叩き出された。
「…ひ、酷い。師匠に買って貰ったテントなのに…」
「先に入った者勝ちだ」
木戸が買って貰ったテントを奪われ深く落ち込んでいる。と、桐崎が顔を出して、得意気な表情で暴論をかざしていた。
桐崎は素早くテントの中へと避難した。
「…なんか師匠が反抗したくなる理由が分かった…」
桐崎の暴君と呼べる横暴な態度に、修二が嫌がり反抗的な態度も納得した木戸だった。
そして木戸は仕方ないので、気絶している南雲のテントへ入り、指示があるまで休むことにしたのだ。
そう真ん中で気絶している南雲を誰もが放っておいて……。
暫くして落ち着いた修二が先にテントから出て、気絶している南雲を見た。
「おい、誰だ! この…なんだか形容し難い…状況を説明してくれる奴は!?」
修二は何故、仮眠してる間に南雲が倒れて気絶しているのか、気になった。
「それは俺が倒した。理由はなんか態度と言葉使いにカチンときてボコった」
聞き覚えのある横暴な声に、修二の身体はビクンと震えビクつき、冷や汗を流していた。
「…アンタ、何やってんだよ。人の…しかも女の子のテントで…」
「まあアレだ…成り行き?」
桐崎はテントから顔だけ出し、怪訝そうな表情で返答した。
「成り行きでセクハラ行為に至ったるなら警察や弁護士いらねぇんだよ!」
修二は落ちていた少し大きめな石を右手で拾い、桐崎へ勢いよく当てる気で投げた。
豪速球で投球された石は発砲音と共に空中で砕け、桐崎には当たらなかった。
それは桐崎が気だるげな表情で拳銃を取り出し、発砲したからだ。
「おいおい、半年振りに会った師匠だぞ? なんだ、その態度は? そこ座れ、少量の石を敷き詰めて座れ。正座して脛が石が食い込むまで座れ。そして謝れ、今まで育て上げた師匠に無礼を働いたことを述べて、そして座れ」
「サーセンでしたぁ~」
修二は巻き舌で適当と棒読みな謝罪で返答した。そして胡座をかきながら真剣な表情で、桐崎の目前へと座ったのだ。
「…元気そうで何よりだ。その右腕の調子はどうだ?」
気を取り直し、テントから出て桐崎も真剣な表情で対応する。
「まあ、不気味なほど調子がいい…」
「ちゃんと閻魔から貰った手袋を着けているんだな? 安心した。悪魔から一部の肉体を移植しただけで、感情が徐々に失うからな?」
宗春が理由も教えず、手袋を渡された理由を桐崎から聞いて、修二は納得した。
否、納得したより実感していた。激しく荒ぶる感情、そして急にやってくる冷えた感覚が支配していた。
それも勢いよく極端に…
「心当たりあるんじゃねぇのか? 理解してる筈なのに感情が表に出たり、軽く殴っただけで何かが崩壊したりとか?」
「力を制御できないとかじゃいんだな?」
「力なんて物は使い方で、どうにでもなる物だ。だが、力を使う者が振り回され、魅力に取り付かれたりすると面倒だ…けど、お前は大丈夫だろ」
「大丈夫?」
「閻魔光は魔神と神のハーフであり、極道でもある。そんな他人様を迷惑かけることをすると思うか? 閻魔は悪魔の右腕でもあり、神魔の腕をお前に与えた」
「神魔の…腕…?」
魔神なら分かるが、逆となる神魔となり修二は困惑していた。
「悪魔の右腕、つまり悪魔とは違い、再生能力を高める神、そして力を強める魔、両方を兼ね備えた便利な右腕だ。まあ、感情と引き換えに欲しくはねぇけどな…!」
そして桐崎は何かに気づいた。気づいたより、何か心当たりがある様子だった。
(…まさかな。いや、あり得ん話ではない)
桐崎は誰かを思い浮かべて、その状況を思い返していた。深く細かい所まで正確に、記憶を掘り起こす。
(まあ、それは直接本人に聞くとしよう。東京にいるらしいからな)
桐崎は再生能力の件は置いて話を続ける。
「…そんな可哀想でモテなさそうな貴様に、俺が久し振りに牧師として、右腕に祝福を与えてやろう」
「喧嘩売ってるんですか?」
桐崎の崩さない高圧的な態度に、修二は右拳で殴ろうとしていた。
「まあ、コレが最後になるかもしれないからな? 師匠として最後の贈り物かもしれない物だ」
曖昧で意味不明なプレゼントを貰う気は無かったが、修二は渋々と受けとるのだった。
「じゃあ、右腕を出せ」
修二は桐崎の指示通りに手袋を取った。手袋を取った瞬間、右腕の肌は全体へ素早い速度で青白くなった。
「……」
修二は青白くなった右腕を見て、突如と悲しい気持ちに支配された。
「確かに、人間の腕じゃないな。だけど、気にするな。お前がちゃんとしてたら、力に飲み込まれる事はない」
「…なんだろうな。幻魔を思い出した…アイツと一緒の存在になったんだなって感傷的になっていた」
「アイツ等と一緒と考えるな。アイツ等は純粋な悪の悪魔だ。閻魔光達みたいな悪魔は稀だと考えろ…そうじゃないと、この先誰を信用するのか迷うぞ」
「…そうだな。何時までも油断してたら忍にも勝てねぇ…」
「大丈夫だ。そう言う考え方してる、お前なら忍にも強敵にも負けない。俺が嘘ついた事あるか?」
「嘘ついた事は無いが、ムカつく事は大抵されている」
「気にするなハゲるぞ?」
師匠と弟子の会話は大いに盛り上がり、右腕の祝福は終わった。
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