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マグナムブレイカー  作者: サカキマンZET
第3章 西と東 赤の書編
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第90話 基礎こそ支え。

遅くなりました。申し訳ございません

 木戸は修二の指示通りに、コツコツと腕立て伏せをしていた。顔からは大量に汗を発汗させて、苦しそうな表情だった。


「やってるな」


 そこへ遅れてやってきた南雲が森林の奥から現れた。手には荷物と太い針金を持っていた。


「あぁ、『覇気』を鍛える前に基本値を調べておこうと思ってな?」


「今、何処まで進んだ?」


「まだ腕立て伏せ三十回程度だ。目標はアイツには言ってないがな…」


「目標設定値は?」


「全てで最低五十、最高で二百だ」


「それを休みなしでやる訳か…半日で五十は終わるか?」


「必要最低限の事ができなければ、俺達に心配することも同情させることも絶対に許さんさ。一週間も時間を使うんだ。ならば出来て当然までやってもらわないとな?」


「…お前、意外と真面目で厳しいんだな? 少し見直したよ」


 珍しい所を見られて、南雲は修二へ感心を示していた。


「俺等にも色んな師匠がいた。桐崎師匠、柏木師匠、神崎輝師匠、それを継承して次の弟子へと受け継いでいく。まあ、こんなのバトル漫画みたいなこと言ってるがよ…何かぐらいは残せるだろ? こんなろくでなしな俺等でも?」


「自分を卑下して言うな。だが、その夢には賛同できる。まあ、俺もなんとか協力するからよ」


 南雲は修二の夢を聞いてジーンとしており、一緒に目指そうと思ったのだ。


「……なんか嫌いな奴に褒められるのも嫌だけど…いつも喧嘩してるテメェに褒められると…悪寒しかしねぇな…」


 修二は表情は青ざめ、南雲の行動に対して嫌悪感を示していた。


「折角、人が褒めてんのに無駄にしやがって! こっちだって恥ずかしい思いで頑張って言ってんだぞ!」


 南雲は羞恥心を承知で話したのに、修二が全て台無したので憤怒を露にした。


「俺だってな! 男から気色の悪い言葉並べられて、背筋がゾクッと伝わって来た感覚受けたら、そうなるだろうが!」


「なんだと! テメェ、ここで生き埋めにしてやろうか!?」


「テメェこそ、あんま調子こいた事ばっか抜かしてると帰る時、放置してやるからな!」


 素直になれない気色の悪い男、二人は何時も通りに喧嘩を始めた。

 そのアホな二人を背後から、残念な目で見ている木戸がいた。腕立て伏せのノルマを終わらせた報告をしようとしたら、二人が喧嘩していたので、終わるまで待っていたのだ。


「…爪、手入れしないと」


 木戸は二人の喧嘩に早速慣れてしまい、もう何も動揺する事もなくなった。寧ろ、二人の喧嘩がウザイくなる時があるが、邪魔をすると変な空気となるので止めなかった。

 数分後に二人は喧嘩を止め、木戸へ腹筋を命じる。


「私が生意気なこと言うのもなんだけど、『覇気』だっけ? それを扱う訓練とかしないの?」


「これ全て終わってから判断する。ここで答えを言ってしまったら台無しだ。だから、このままやる」


 修二は答えは言わず、トレーニングメニューだけに集中しろと木戸へ返答した。

 一週間しかない時間に木戸は焦りを感じていた。「このまま一週間で強くなれるのか?」と疑問に思っていた。

 そして無我夢中で木戸は腹筋を五十回で終わらせた。普段あまり鍛えない所なので、流石に疲労が現れてきた様子だった。


「よし、次は背筋。それが終わり次第、スクワットを忘れるなよ?」


「は~い」


 木戸は疲れながらも修二の指示通りに背筋とスクワットを上手くこなして行き、なんとか終わらせた。

 辺り一面は真っ暗となり、もう夜となっていた。木戸は集中し過ぎて修二を見失っていた。


「師匠、何処ですか~?」


「ここだ」


 ちょっとだけ恐怖心に煽られた木戸が修二を大声で叫び呼ぶ。

 すると左手を天へ翳し、小さな太陽を作り出して、ランプ代わりにしている修二がいた。右手には縄で縛った大量の薪を持っていた。


「いや、悪いな。少し暗くなると思ったから、ちょっとだけ薪を集めてた。」


 修二は薪を降ろし、片手のみで焚き火の準備をしていた。

 大きい石で囲ませ、風が通る道も作り、そこへ薪と枯れ葉を入れた。そして左手に灯していた小さな太陽をゆっくりと落とす。

 太陽は薪と枯れ葉に触れると激しく燃え上がり、徐々に火は大人しくなり小さくなった。


「す、凄い…」


 木戸は修二の綺麗な『覇気』の使い方に魅了されていた。


「今日はお疲れさん。明日も少し厳しくなって辛いと思うが、ゆっくり休め。」


 修二は近くにあった自販機で購入した缶コーヒーを木戸へ渡す。

 木戸が貰った缶コーヒーは山の寒い夜風には凌げる程の温かい物だった。


「暖かい…」


 木戸は缶コーヒーを両手に持ち、温もりを感じていた。


「よいっしょっと…」


 修二は木製のベンチを取り出した。


「座れ、今日は疲れたろ?」


 疲労しきっている木戸を労い休ませようと修二が持って来た様子だ。


「これって師匠が作った椅子ですか!? ありがとうございます!」


 木戸は修二に感謝して、ベンチへ深く腰を降ろした。


「違げぇよ。高尾山の頂上に色々とあったから、必要な物だけ掻っ払って来た」


 修二の犯罪行為を馬鹿みたいに呑気に発言していた。

 それにより木戸の表情は石みたいに固まり、大量に発汗していた。


「こ、これって…東京の税金で…作られた…ベンチですか?」


「だろうな。けど、大丈夫だ。誰にも見つからなかったし、もしカメラで確認する時には俺達の修行は終わってるからな!」


 堂々と犯罪を隠蔽する事もなく自慢し、サムズアップして木戸を安心させようとしていた。


「馬鹿じゃないですか! もし私達が今捕まったら、この修行の意味もなくなるじゃないですか! 早く返しに行ってくださいよ! 私、この年で全科者(ぜんかもの)になりたくないですよ!」


 木戸は動揺した様子で修二の両肩を掴み、強くグラグラと身体を激しく揺らして、怒りを露にしていた。


「まだ少年法があるだろ? 人殺し以外なら、まあ俺も少し弁護できるが…」


「アナタはもう弁護士辞めたでしょ!」


「事務所を辞めただけだ。それに、まだ弁護士だ。弁護士バッジと認定証がある限りな…」


「…信用できない。一応、聞きますけど師匠は、この一年で勝訴した案件は幾つあるんですか?」


 木戸は修二の弁護士っぽくない部分が垣間(かいま)見えて、疑心暗鬼となり、今までの勝訴を尋ねたのだ。


「あ~二十件ぐらいかな? 痴漢被害、ラベルの詐称、隣人トラブル、差し押さえ案件、喧嘩の仲裁ぐらいだな。」


 あまりにも日常的にあり得る普通の事だったので安心しようとした。が、何か隠している事に木戸は気づいた。


「…じゃあ殺人事件と医療ミスとかの弁護はしたんですか?」


 そんな弁護士なら当然通る道の案件を木戸は尋ねた。これさえ、ちゃんと返答されれば信用するつもりだった。


「……南雲の奴、今何やってんだろうな…。」


 明らかに話を反らして、木戸からも目を合わせず夜空を眺めていた。


「ちゃんとお答えください! じゃないと、この先師匠を信用する事ができませんよ。」


「あ、あのさ、いや、ちゃんと弁護した…つもりなんだよ? うん、あのね相手との…相性が悪くて…」


 修二は乙女のようにたじろぎ、何かもじもじとした様子で何か訴えようとしていた。


「まあ、一応勝訴はしたぞ。相手との相性が合わなかったのは、それもあってる。」


 そこへ大量に何かを購入し戻ってきた南雲が、修二の代わりに返答した。


「だが、あまりにも相手がムカつく奴だったから、コイツが半殺しと病院送りにしたから、ちゃんとした勝訴じゃないから言えなかったんだよな?」


 南雲は修二が裁判中、相手の言動が気に食わなかった事により、病院送りした事を説明していた。

 そして盗んだベンチに何食わぬ顔で座り、缶コーヒーを飲んでいた。


「あ、あぁ、そうだ。ちゃんとした勝利じゃねぇから、白星にするのは俺の性格が…」


「もう分かりましたんで、結果だけ聞ければ充分です。それに師匠の性格も何となく分かりましたので…ちゃんと信頼します。これからも、よろしくお願いします。」


 木戸は修二から手を離し、弱いところを見せた事により、信頼を得られたのだ。


「…なんかアレだな。お前っていい奴だな。俺の師匠なんか信頼得られても一層にボコボコされたぞ。」


「それは、あの人がおかしいだけだろ?」


 いつも通り、修二達の常人とかけ離れた話ばかり聞かされて、木戸は先程までの信頼を返してほしいと思っていた。

いかがでしたか?

もし良ければ誤字や脱字や意見や質問等があれば教えてください。

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