第89話 修行開始。
また遅くなりました。けど、(裏)の方も順調に進んできてますので、安定するまでお待ちください!
ショッピングセンターから出て来た二人。修二は平然とした表情、木戸は暗くげんなりとした表情だった。
正に天国と地獄の状態だった。
「何、暗い顔をしてんだ?」
「…だって、初めてだし。こんなに買い物して、こんなにお金を無駄に使ったの…」
「別に気にすんなよ。俺が出してぇから出したんだ。それに必要だから買ったし、俺が許可したから好きな物を買ったんだ。だから気負う必要もねぇし、自分自身の気持ちを無駄だと思うな」
「…うん」
木戸は気持ちを整理しながら納得した。
「よし、じゃあアイツは帰って来てるかな?」
修二は南雲が買い物を済ませて、帰って来ている。かと、思い辺りを見渡して確認した。
「おーい、待たせたな!」
すると遠くから大量の荷物を背負い、走ってくる南雲が見えて来た。
「おう、結構時間が…かかったなっていうレベルじゃねぇな!」
南雲が近づくと大量の荷物が、背丈以上あったので、大きく驚愕し珍しく修二がツッコミをした。
「いや~キャンプセット集めるだけで疲れたぜ。食料、着替え、色々と探したぜ」
「それは別にいいが、ちゃんと下着とか買って来たんだよな?」
「あぁ、ちゃんとお目当ての物は買ってきたぜ」
ビニール袋から高らかにと、木戸に合わせたスポーツブラジャーを取り出した。
「ちょっと! 恥ずかしいからやめてよ! アンタ、頭おかしいんじゃないの!?」
木戸は南雲の顔を集中的に殴りボコボコにして、スポーツブラジャーを奪い取った。
南雲の顔は原型が留めなくなるぐらい、腫れてボコボコにされていた。
「今の完全に、お前が悪い。人のこと言えないなキモロンゲ…」
修二は半目で先程まで、やられていた事をやり返していた。が、木戸からしてみれば南雲は自業自得であり、修二は子供みたいな揚げ足の取り合いをしている二人に、呆れるしかなかった。
「…あのさ…百万使った私が言うのもなんだけどさ? 今だけは仲良くなって、協力しながら私を鍛えてくれない?」
「え? 百万程度しか使わなかったのか? そんな遠慮する事もなかったんじゃねぇのか?」
南雲も修二と同じリアクションで、怪訝そうな表情で疑問に思っていた。
「だよな? 幾らでも使っていいって言ったんだけどな?」
「え? 南雲さんも…ブラックカード?」
木戸は青ざめた表情で、南雲へブラックカードなのかと尋ねる。
「ブラックカード? このクレジットカードって、そんな名前だったのか? 興味なさすぎて知らなかった」
木戸は思った。「この人達、金銭感覚が狂ってるのでは?」と…だが、この二人の表情は大真面目だったので、普通とかけ離れた事に頭が痛くなった。
「でも、ブラックカードっていうのは気に入らねぇよな? 神崎のいけ好かない馬鹿を連想してしまうから…」
「その理屈には同感しよう。この黒さだけはアイツを思い出してムカムカする…」
ただの高額な黒いカードに二人は憎しみを込めた目付きで、ジッと見ていた。
「…あ、あのさ…そんな敵意剥き出しでブラックカードを見ても時間の無駄だと思う…」
痺れを切らした木戸は、顔は引き攣らせながらも修行始めたがっていた。
「あぁ、そうだったな。じゃあ高尾山に行こうか…おい、八王子の高尾山って調べてるか?」
修二は煙草を咥えジッポライターで着火し、南雲へ高尾山の行き方を尋ねた。
「…調べてなかった。だが、東京より詳しい奴はいるぞ?」
二人は顔を合わせて、木戸へ顔を機械的に向けた。
「…え? あ、あの…な、なんで八王子に行く事で怖い顔すんの?」
木戸は二人から感情が無い表情を向けられて、動揺し混乱していた。頬は赤く染まり、あたふたしていた。
「いやな、俺達の経験上。大体、何もかも知ってそうな奴が、何も知らないとかあったり…」
「実は新宿を少し歩くだけで八王子に辿り着けるみたいな、ギャグ漫画お約束みたいなオチにならないか心配になってんだよ。今まで、そんな奴等としか会ってこなかったからな?」
二人が心配している事は、先に重要な何かを言っておくべき事はないかと尋ねていた。
こう二人が、ここまでして聞いたのは海道が突拍子もない事態が起こることばかりだったという物もあるからだ。
「だ、大丈夫。八王子ぐらい場所…知ってるから…だ、だから、そんな人を疑って殺せそうな目付きで見るのは…」
未だに信用できない二人はジリジリと木戸へにじり寄って、しつこく確かめる。
そして数分間、木戸が八王子までの行き方や細かい街並みで説得すると、やっと二人は納得した。
そして三人は新宿から八王子まで電車で向かった。駅から降りて、近くに停車していたタクシーで高尾山へ向かった。
「……」
タクシーの中は不気味な程、静寂が続き異様な空気と化していた。
助手席には木戸が座り、後部座席には修二と南雲が座っていた。
(…こ、怖い。)
タクシーの運転手は後ろの二人が腕組みし、ジッと目的地までジッと黙って、機嫌悪そうな雰囲気を醸し出していたからだ。
それは運転手からにして見れば、恐怖以外の物でしかなかった。
「あの~? 二人の事は気にしないでください。ちょっと気分が悪いだけなので…」
運転手の気持ちを感じとった木戸は、気にせずに運転してくれと言った。
「は、はい!」
本当に気分が悪いだけなのかと運転手は疑っていた。が、本当に二人は車酔いで気分が悪かったのだ。
身体は寒さで震え、白目向いて、今にも吐きそうな胃液を口で抑え込み、目的地到着まで耐えていた。
そしてタクシーは目的地へ到着すると、修二は木戸にブラックカードを渡し、二人は素早くタクシーから降りて、近くのトイレへと駆け込んだ。
「…あ、あの支払いはカードで…後、領収書もください」
木戸は運転手へブラックカードを渡し、更に領収書も発行してもらい、支払いを終えてからタクシーから降りた。
「ひ、久し振りだ…飛行機で海道に到着する前のヤバイ感覚を思い出した…」
「あのカーブだけで、もう駄目かと思ったが…なんとか耐えたぜ」
トイレで用を済ませた二人は、車酔いで既に満身創痍だった。地面にヘタリ込んでしまい、額には血管が浮かんでいたからだ。
「お水でも買ってこようか?」
木戸はタクシーに乗せていた荷物を一人で頑張って運び、二人へ近づいた。
「いや、時間が惜しい。早速、山へ登ろう…南雲悪いが人払いしておいてくれるか?」
「おう! 任せろ!」
修二は南雲へ人払いを任せて、疲労しきった身体で大きな荷物を持ち、高尾山へ登山した。
暫く登っていると人気の無い森林頂上付近で修二は立ち止まった。そして荷物を置いた。
「…ここで始める」
修二は荷物から木戸のジャージを投げ渡す。
「え? ここで!? ここには着替える更衣室もトイレもないじゃん!」
木戸は見事にジャージをキャッチする。が、いきなり始めると修二が言い出したので、慌てている。
「早くしろ。お前を強くする時間がもっとなくなる」
「わ、分かった! 今すぐ着替えるから!」
修二の真剣な表情で有無も言えない状況だったので、木戸は素直に従って着替える。
木戸は制服だけ脱いだ。それは、ちょっと背伸びした大人のセクシーな下着だった。
そこには右胸にハートと髑髏が交じったタトゥー、ヘソの下には子宮と思わせる様なタトゥーが刻まれていた。
そして数分後には、赤黒いジャージ姿へと変わっていた。
「よし、着替えたな。じゃあ、木戸お前に今からやってもらうのは…腕立て伏せ、腹筋、背筋、スクワット、山の登り降りだ」
今、始まる品川修二式『覇気使い育成トレーニング』が。
いかがでしたか?
もし良ければ誤字や脱字や意見や質問等があれば教えてください。