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マグナムブレイカー  作者: サカキマンZET
第3章 西と東 赤の書編
82/170

第82話 中分けと坊主の反抗期。

遅くなりました。

 そして修二は両手に膂力を込めて、持っていたコンクリート片を粉々にした。


「お前…その目は…。」


 南雲の手が震えている事に気づき修二は、自分が何をしているのか疑問に思った。


「…俺は…一体…何を?」


 修二の目は正気に戻り、キョロキョロと辺りを見渡して、異常がないか確認していた。

 南雲はすっと修二の肩から手を離した。


「大丈夫かよ? 今すぐ病院とか精神科行った方がいいんじゃねぇのか?」


「…大丈夫だ。もし、何かあったら無理せずに病院行くからよ。それまでは…。」


「…分かったよ。それより、お前行く気なのか?」


「それは分かんねぇ。けど、輝さんが止めろって言ってんだから止めた方が良いんだろうな…そんじゃあ帰ろうぜ。」


 修二は内心は納得できなかった。そんな理由で忍がいる東京へ向かう事ができず、海道で再び襲撃されるのを待機しなければならない。

 今にも怒りが爆発しそうな気持ちを抑えて、南雲と一緒に帰宅した。

 途中で南雲と別れ、修二は帰る途中にコンビニへ寄って行った。


「セブンスター、タール七㎜、ワンカートンを三つください。」


 思いふけた表情のまま、レジで煙草を注文していた。

 修二がレジの会計に集中していると、背後から忍び寄る影があった。


 「隙あり!」と可愛い声で頭を軽くチョップし、呆けている修二を振り向かせた。

 修二は軽い襲撃に驚愕しながらも、振り向き確認し微笑んでいた。


「久し振り、元気だったか? 美鈴ちゃん。」


「品川くんも元気だね。」


 それは高校を卒業して三年間、修二とは一度も会う事がなかった。昔より見麗しくなった天海美鈴だった。

 レジ前で立ち話するのは、他の人にも迷惑なので二人はコンビニから退出した。

 そして暗がりで人気のない、木々に囲まれた通り道へ向かい、そこにあった綺麗なベンチへ座り話を続ける事にしたのだ。


「品川くんは髪型も変わって、すっかり別人だね。」


「ありがとう。吹雪に騙されたと思ってやってみたんだよ。それに弁護士の仕事だから、派手な髪型だと相手に失礼だからよ。」


「変わろうと思った努力が大事だよ。」


「変わるね…美鈴ちゃんも、大学生になってから服装も変わったな。」


 修二が美鈴の服装を見て感心していた。

 昔とは違い、花柄のレーストップス、デニムパンツ、スニーカーという大学生らしい服装だった。


「品川くんは…吉本新喜劇に入ったのかな?」


 修二の全身が真っ赤なスーツを見て、美鈴は土曜日にテレビで見る。お笑い番組の登場人物と連想し、唖然と困惑が同時に襲ったのだ。


「美鈴ちゃん、遅れてるな。このスーツはな、フランスの有名なデザイナーがデザインし、シェリアちゃんの会社で作成された。バトルスーツだ。」


「シェリアさん? もしかしてシェリア・ロームさんの事?」


 美鈴は驚愕した様子で、修二へ攻めるように質問をしていた。


「あぁ、そうだぜ。」


「え? なんで、品川くんが有名な方と知り合いなの? それってローム製品なの? あわわ、私失礼な事言っちゃった。」


 シェリアの名前が出て、そのスーツがローム製品だと美鈴が知ると、慌てふためきスーツへ謝罪していた。

 一体、何があったのか理解できない修二は黙って呆然とし、美鈴が落ち着くまで見守るしかなかった。


「…それで、美鈴ちゃんは一体、何に謝ってたんだ?」


 落ち着いた所を見計らい、修二は取り乱した理由を尋ねた。


「シェリア・ロームさんの作成した服って、世界に認められた若手美人社長だよ。」


 美鈴は興奮した様子で、修二へ熱心に説明していた。


「へぇ~、シェリアちゃんも俺が知らねぇ内に凄い事になってんだな。」


 修二は綺麗な夜空を眺め、煙草を吸いながらも、美鈴の話を真面目に聞いており、シェリアの活躍も感心していた。


「私、シェリアさんみたいな人になりたくて、経済大学に行って勉強してるんだ。」


「大学ね。俺は短期大学で司法試験は一発合格だから、あんまり思い出とかねぇな。」


 そう修二は、殆ど輝と過ごしながら勉強してきたので、大学に関しての思い出はあまり無いのだった。

 そしえそれは、あの南雲も同じである。


「そうだよね。急に品川くんが、人が変わったみたいに成績が良くなったよね。」


「…まあ、あの改造手術並みの勉強だったら間違える事が少ないよな。」


 修二の脳裏に甦る、勉強という地獄で苦い思い出が。


「あ、私の話ばっかだったよね。品川くんも色々と話したい事があるよね。」


 そして自分がずっと話している事に気づいた美鈴は、修二へ話題を譲るのだった。


「別にいいぜ。美鈴ちゃんの話を聞けただけでも嬉しい。」


「そう? でも、レジで深刻そうな顔で考えてたよね?」


「…じゃあ、俺の話も聞いてもらおうかな。」


 ここは誤魔化しても埒が明かないと感じ、修二は神崎邸で起こった事を話した。

 美鈴は一度も話を割くことなどせず、真剣に修二の話を聞いていた。


「…それじゃあ、品川くんは報復したいの?」


「いや。報復っていうより、答えを知りてぇんだ。何故、海道を狙ったのか。何故、神崎忍は東京に向かったのか。俺は知りてぇんだ。そこに『最強』へ近づく“何”かが、あるって感じてるんだ。」


 修二は本能的に“東京”へ何かを感じていたのだ。神崎忍、ギャング集団に全てに答えがあると本能が刺激していた。

 だが、それは気持ちで抑えて輝にも迷惑をかけまいと悩んでいたのだ。


「なんだか、品川くんは頭が良くなってから固くもなったね。」


「え?」


 意外な事を言われ、静かに驚愕する修二。


「だって、昔なら真っ直ぐ『最強』に目指して突っぱしてたのに、今じゃ色々と縛られて不自由そうだよ?」


「ーー不自由ね。考えた事もなかったし、そうだったかもな。(アイツ)みてぇに同じ考え方、見る物が全て同じだったら『最強』に近づけるかと思ったけど…俺には無理だった。」


 修二が忍と同じになれないと悟ったのは、ウロボロスとの戦いだった。全て形から真似て、考え方を同じにした所で、経験が違っていたからだ。

 そこに修二は限界を感じ、そして楽な道ばかり探すようになっていた。

 今回の一件で美鈴を相談した事により、気持ちは若干だがスッキリしていた。


「でも、諦め切れないのは確かだよね? 昔の品川くんならどうするの?」


 美鈴が何を言いたいのか察し、修二はベンチから立ち上がって、微笑んでいた。


「美鈴ちゃん、ハッキリいいなよ。俺は否定したりもしねぇし、怒ったりもしねぇよ。」


「じゃあ言うよ。品川くん、自分が信じた道を進めばいいよ。『最強』になりたいなら、ヤクザになんか邪魔されず、壁があるならぶっ壊して進めばいいよ。」


 美鈴から期待通りの返答に、修二は元気を取り戻した。


「あぁ、明日から俺は東京に向かうぜ。」


 修二は歓喜の表情で、美鈴へ決心した心意気を見せた。


「おうおう、お熱い二人だね。」


「姉ちゃんよ、こんな男じゃなく俺達と遊ばない?」


 そこに二人のチンピラが、修二達へ絡んで来たのだ。二人の目的は美鈴だけだった。

 だが、このチンピラは今日だけは悪夢を見る事になるだろう。


「おう、兄ちゃん達。そんなに暇なら俺と…プロレスごっこでもしようや。」


 そう機嫌のいい修二に喧嘩を売ってしまっているのだ。そしてチンピラ二人を強引に森の奥へ修二は連れ去った。

 数分後には返り血で帯びた状態で修二は戻って来たのだ。


「じゃあ、俺は事務所に戻るぜ。」


「え? 明日から東京に行くんだよね?」


「…ちゃんと俺もケジメをつけてから向かうさ。」


「そうなんだ。じゃあ、最後まで送って行ってね。暗い夜道に女の子一人じゃ怖いからね。」


「あぁ。」


 同意した修二はエスコートしながら、美鈴を家まで送り届けたのだ。

 そして徒歩で神崎事務所へ戻って来た修二は、中に入って電気も着けず。輝の席へ立って見ていた。


「…ご迷惑をおかけしました。」


 修二は懐から一枚の封筒を取り出し、机へと置いたのだ。


「お前ちゃんと輝さんの話を聞いてたのか?」


 背後から南雲がしかめっ面で事務所へ入って来たのだ。

 そんな修二は誤魔化すことなく、黙って南雲を見ていた。


「…黙りか。俺は決めたよ、テメェに勝手な事はさせねぇってな。」


 しかめっ面のまま、南雲はゆっくりと修二へ近づいて行く。

 修二は南雲が敵対するかと思い、このまま殴られて説得しようと考えていた。が、そんな愚かな行為をせずに済みそうだ。

 南雲も修二と同じく、輝の机へ封筒を叩きつけたのだ。


「俺も東京へ向かう。お前が、また強くなるのは気に食わねぇからな。俺も一緒に向かって、神崎忍の野郎をぶっ倒す。誰にも文句は言わせねぇよ。」


 冗談ではない真剣な目で、南雲は修二へ訴えていた。

 そんな状況にフッと修二は軽く笑っていた。


「明日の朝に新大阪駅に集合だ。」


「ちゃんと軍資金持って来いよ。」


 二人は明日の準備を話し合いながら、事務所へ出て行ったのだ。

 二人が輝の机に置いた物は…達筆な字で『辞表』と書かれた退職届けだった。

 そして二人は向かう、新たな戦いの場所…東京へと。

いかがでしたか?

もし良ければ誤字や脱字や意見や質問等があれば教えてください。

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