第79話 いなくなった『最強』。
今日は早めです。
徒歩で数時間後には、二人は神崎邸へ辿り着いていた。
「相変わらず、薄気味悪い豪邸だな。見た目は綺麗だが、何処かに闇を感じるな。」
南雲からにして見れば、久し振りだろうが神崎邸には、あまり良い感想と表情が浮かばなかった。
「……。」
そんな中、修二だけは真剣な眼差しで、黙って神崎邸を眺めていた。
「お前だけは、あんな薄気味悪い屋敷には負けないんだな。」
「まあな。それより輝さんに書類を届けようぜ。」
修二から書類という言葉に違和感を感じた南雲は、何かを察していた。けれども、気にしても仕方ないので追及はしなかった。
「…行くぞ。」
そう言って、南雲は玄関のチャイムボタンを押す。
「そろそろ来ると思っておりました。こちらへどうぞ。」
玄関から現れたのは、無表情で割烹着姿の柏木だった。
「……。」
どういうリアクションをすれば良いのかと困惑し、固まる南雲だった。
それもそうだ。ガタイの良い、歴戦を感じさせる大男が、お袋さんを思い付かせる割烹着姿で現れたからだ。
「怪獣神父、久し振り!」
いきなり爆弾級の挨拶をし出し、南雲は目を見開き睨みつけ、失礼な態度に憤りを感じていた。
「お久し振りです。品川くんも相変わらず元気そうで、右腕の調子はどうですか?」
「身体はダルいが、右腕だけは羽みたいに軽いぜ。」
イカつい者同士が、単純で純粋な雑談をしているだけで、南雲は抗争が勃発しないかと心配していた。
「他愛のない雑談は、ここまでにして屋敷へどうぞ。」
柏木は二人を屋敷へと誘導し、案内する。
「…こちらに輝様がいられます。気をつけてください、少し気が荒れている様子なので…。」
一つの部屋へ案内された。そのドアは鋼鉄で構成され、その部屋からは地響きと小さい爆発音が響いていた。
「結構、荒れてんな。」
「…神崎忍が何かやらかしたんだろうな。」
「ここは私が護衛します。お二人は私の後ろへいてください。」
柏木は二つのチェーンソーを取り出し、二人を守る体制となっていた。
二人は指示通りに、柏木の背後へと回り込み隠れていた。
「…行きますよ。」
柏木が鋼鉄の扉を開くと、いきなり目を焦がすような光線が飛翔してきたのだ。柏木はチェーンソーで防御しては、光線を弾いて反らしていた。
「輝様、品川修二様と南雲暖人様が来ております。いい加減、八つ当たりは終わって仕事の話をしてください。」
欠陥が破裂しそうな大声で、柏木は輝に静止を求めた。すると嵐のような光線は収まり、発光していた場所が、静かに暗くなっていった。
「…やあ、品川に南雲くん。すまないね、今日は荒れてて…。」
そこに上半身裸、白いトランクス、身体中にはビッシリと発汗し汗だくの輝がいた。
「…また随分と荒れましたね。」
南雲が驚きながは周囲を見渡す。壁には無数の穴があり、地面のコンクリートは無残にも抉れ、更には何かが融解している物もあった。
「…まあね。少し勝手ながらに暴れさせてもらったよ。」
少し暴れて疲れたのか、やつれ気味だった。
「輝さん、良かったら座って、少し休んでください。」
「…分かった。」
輝は、近場に転がっているコンクリート片へ腰を下ろした。そして分かりやすく、頭を抱えていた。
それは見たことがない程のイラつきと困り顔だった。落ち着きを取り戻すまで、二人は話かける事はしなかった。
「輝様、水でございます。」
「…ありがとう。」
柏木はグラス容器に入れた水を輝へ渡した。
輝は受け取り、水を一気に飲んで落ち着きを取り戻した。だが、本当に疲労しきっている様子だった。
「大丈夫ですか?」
修二が輝の体調を気にして尋ねた。
「あぁ、なんとか落ち着いたよ。」
「もし、良ければ原因が何なのか教えてもらうことは?」
人が怒ってる原因を聞くのが、失礼なのは承知だった。けれど、どうしても気になった。
普段は温厚な人が、一体どうして激しく取り乱す事になったのか…。
「…兄さんだよ。」
輝の言葉に、事情は知らなかった柏木でさえも全員が驚愕していた。神崎兄弟は意見は食い違う事はあれど、ここまで酷く拗れた事はなかったからだ。
「三ヶ月前だった。兄さんに用があって、部屋に入ったら…。」
輝は三ヶ月前に何があったのか回想をする。
三ヶ月前の昼間にて…輝は忍に用があり、部屋へと訪れていた。
「兄さん、五年前に発注して届いた。新しいサングラスはどうしようか?」
五年前に届いたサングラスの件で、輝は忍の勝手だが部屋へ入室したのだ。
そこにキャリーバックへ大量の荷物を積めている。忍の姿があった。
「…輝か。すまないが、暫くまた留守にする。閻魔からの仕事だ。」
忍が適当な雑談で済まし、そそくさと部屋を出ようとした。が、そこに輝が右片手でガッチリと忍の左肩を力強く掴んでいた。
「…それって遠出の準備をするぐらい、大事な事なの?」
輝は真剣な面持ちで、平気な顔をして旅立つ忍へ尋ねたのだ。
「…閻魔には借りがある。それが終わり次第、何も言われなくなる。」
「兄さん、五年前の事を覚えてる? 兄さんがフランスで勝手に行方不明になって、勝手に帰って来ては、また閻魔さんの頼みごとで、ゆっくり過ごせる時間を潰して、自分を犠牲にする毎日を送るの?」
「……。」
「品川との約束だって、まだ果たせてないじゃないか。閻魔さんの仕事は僕がやるから、兄さんは家でゆっくりして…。」
輝が言い終わる前に、身体が大きく後ろへと強く吹き飛んだ。突然の事だったので、輝は受け身を取れず、背中から壁に激突した。
そして壁に凭れる形で輝は倒れこんだ。
「に、兄さん?」
輝は額から出血し、身体は直ぐには動けなかった。
「…悪いが、半人前のお前に東京で仕事させる訳にはいかない。少しだけ、気絶していてもらうぞ。」
そう言うと忍は輝に靴底を見せ、的確に顎へ蹴ったのだ。その先からの記憶は無かった。
「…兄さんなら東京に向かったよ。この通り、僕は気絶してから二日間は何もできなくて、イライラしてから…この有り様だね。」
「…アイツ。」
輝に対しての対応が酷いと感じ、修二は屋敷から出ようとする。
そこで南雲が前もって立ち塞がっていた。
「おい、待てよ。今から後を追って東京に向かっても奴は神出鬼没の気まぐれ野郎だ。それに東京って簡単に言ってるが、何処にいるのか分からねぇんだぞ。」
「しらみ潰しに探す。」
「東京だけでも、二十三区もあるのに無駄な時間を使う気か?」
「無駄かどうかは、やってみなくちゃ分からねぇだろ!」
「そうやって、何時まで神崎忍に振り回される気やねん! ええ加減気づけや! アイツに遊ばれたってな!」
「うるさいわ! お前には関係ないやろうが!」
二人が怒りの頂点に達し、標準語から関西弁へと戻り、怒号が飛び交う。そして互いにバチバチと睨み会う。
「…お二人共、ここは他人の家です。本気喧嘩なら外でやってください。」
柏木からも注意を受け、二人は少し離れる。
ここで二人が暴れられると鋼鉄の部屋が持たない上、常識的な事まで失うのはマズイと思ったからだ。
「…なんか、ごめんね。僕も頭が一杯一杯で…。」
「…輝さん、それじゃあ今日は帰りま…!」
「輝様、伏せてください!」
柏木は帰ろうとしていた修二と南雲を、素早く押し倒し、輝へ注意喚起した。輝は柏木の言葉に従い、コンクリート片を盾にした。
すると窓ガラスが一斉に割れ、猛烈な熱風が進入したのだ。
頑丈を誇っていた鋼鉄の部屋が簡単に爆破され、更に破片が飛び散った。
(火薬の匂い? …バズーカで攻撃してきたのか!? 一体、何処の誰が?)
柏木は火薬の匂いだけで、何で攻撃されたのか判明していた。けれども、それより気になったのは、何処の誰が屋敷を攻撃したのかただった。
いかがでしたか?
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