第75話 魔王戦、後編。
今回は技名のオンパレードとなっております。
「遅れるなよ輝。」
「兄さんこそ、途中で倒れないでよね?」
二人の姿は一瞬にして消失した。二人は一般人が目視できないほど、神速な速さで動き回っていたからだ。
ウロボロスはただ立ち尽くしている所に、両頬から大きな凹みができていた。
それは両側から忍と輝が同時に、力強く殴っていたからだ。
「うぉぉぉぉぉッ!」
更に二人は膂力を込める。それは喋らずとも息の合ったコンビネーションの動きで、ウロボロスを翻弄していた。
(流石、神崎兄弟。目に見えないほど速さと容赦ない攻撃だ。さっきまでのゴミとは違い、楽しめる。)
ウロボロスは傷が再生しながらも、二人の攻撃に対しては称賛していた。
そう物の数秒後には、ウロボロスの身体は切り傷だらけになっていた。
(何もしてこないとはいえ、コイツの再生能力は異質だ。疲労でも精神に異常をきたしている訳でもない…まさかとは思うが。)
ウロボロスの何かを感づき始めた忍は、いきなり立ち止まった。『ダークネスホール』へ手を突っ込み、何かを探っていた。
「輝! ウロボロスから離れろ!」
忍の言葉を聞き、輝はウロボロスから遠く離れた。それを確認した忍は、力強く何かを投げつけた。
それは雅が持っていたダイナマイトだった。
(これで何か分かる筈だ。)
そしてダイナマイトは爆発し、ウロボロスの頭は吹き飛ばされた。肉片や目玉が散乱し、グロテスクな光景となっていた。
だが、散乱した肉片と目玉は巻き戻しの様に再構成され、ウロボロスは復活した。
「いい判断だ。爆発物で殺すとは…。」
「…何が、いい判断だ。このインチキ蜥蜴野郎が。」
「気づいたな。」
ウロボロスは不適に笑っていた。
「…お前も『魔導使い』だったとはな。魔王の風上にもおけねぇ、とんだ小心者だな。」
忍が能力を見破った途端、ウロボロスは高らかで狂気的に笑っていた。
「そうだ! 『逆行の魔導』。年老いて衰退する力を阻む為、我は『魔導』で全盛期の力を維持している。」
そうウロボロスは千年前の力と姿を維持し、『覇気使い』と戦っていたのだ。
「進化ではなく退化を選んだか…コイツは品川修二以上の馬鹿かもしれんな。」
期待していた事と違う能力内容だったので、忍は呆れていた。
「…どうゆう意味?」
「確かに、『逆行』で全盛期を維持しながら即席の不死身は強い。」
「それの何処が馬鹿という理由になるの?」
「理由は簡単だ。閻魔光は無限に進化し続ける事を選んだ。だが、その後継のウロボロスだけは維持がしたい為に退化を選んだ。それは二度と強くなる事はない、一生そのままだ。」
まさしく忍の言う通りだった。ウロボロスは死ぬ度に、全盛期へ力は『逆行』をする。
それは強くなる事もなく、進む事もない。そのままで、何もかも全て成長しない事だった。
「神崎忍、その通りだ。もう一つ教えてやろう、我は『魔導』を得て、更には『魔力』まで使える。貴様の弱点となる“神”に近い力は我も所有している。誰も我には勝てんよ。」
「……。」
「……。」
誰も無敵に近い、ウロボロスに戦意喪失したかと思われた。アルカディアも完全に諦めていた。人間では、やはり魔王に『無敵の存在』に勝てないのかと…。
だが、忍は右手で顔を隠し、高らかに笑っていたのだ。
「そういうの負ける奴が、吐く言葉だぜ? 知ってるか? 俺を負かした相手はな、こんな絶望的な状況でも諦めず、三度目で、やっと俺に勝てたぐらいだ。全て完璧な奴なんて絶対にいねぇよ。必ず、何処かに綻びはあるだろ?」
忍は瓦礫へと目を向け、そして問いかけたのだ。
すると瓦礫は動き、崩れ、修二が復活したのだ。苦悶と気だらけの表情で起き上がり、左手で煙草を咥えた。
「まさか! 有り得ん、『魔王爆裂拳』を喰らって生きているなんて!」
「…忍のパンチとかキックの方が痛ぇし、頭揺れんだよ。テメェのは痛いだけのパンチだけだ。」
修二は右腕を形成させ、その炎で煙草へ着火させ一服していた。
「殴られて目覚めた気分はどうだ? テメェの馬鹿面で気絶している所を見れなかったのは残念だがな。」
「うるせぇよ。それよりコイツをどう倒すのか分かったのか?」
「…あるにはある。条件は『覇気』が七つあることだ。ここには『太陽』、『月』、『氷』、『雷』、『光』、『風』、『闇』がある。雅、起きろ!」
その忍の叫びで雅は起き上がり、隣へ瞬間移動していた。
「ただいま参上しました。」
「これで七つの『覇気』は揃った…というより、あの馬鹿二人は早く起きないのか?」
忍は輝へ目を向けて、吹雪と南雲に指差して尋ねていた。
「さあ、狸寝入りは止めて早く起きてね。」
輝が二人へ問いかけた。
「あ、バレてました?」
「電熱で傷を塞いでるのを見てたからね。僕等が戦っている隙に、致命傷は避けられたね。」
そう直ぐに意識を取り戻した南雲は隙を見て、『雷の覇気』で治療していた。それは修二が五年前にやった、焼杓止血法だった。
「どうだ? 意外と便利だったろ?」
「痛いに決まってんだろ! お前よく耐えられたな! やっぱネジとか数本外れてんだろ!? 神経に響くし、冷めても熱いしよ! 狂ってんじゃねぇのか!」
吹雪は怒り狂いながら修二へ、焼杓止血法に文句を言っていた。
「知らねぇよ。そんなのテメェが我慢すれば良いだけの話だろ?」
「我慢って…まあいい。それより、神崎忍。コレで『覇気』が七つ揃ったぜ、何かスゲェ物が出るんだよな?」
「まあな。お前等、もう人間に戻るのが嫌になるぞ?」
そう聞いた吹雪は鼻で笑っていた。
「覚悟する前にセーブしてきた。つまり、つべこべ言わずにやれ。」
「…分かった。それじゃあ俺に近寄れ。」
急いで五人は忍へ近づいた。
「足りねぇのは俺を使う。お前等、ハイになるなよ? 『宇宙の覇気』…『七星の輝き』!」
忍の身体が黄金に輝き、天へ光を放った。それは北斗七星となり、光は六人へ降り注いだのだ。
六人の身体は黄金へと輝いていた。
そして一名だけは、この輝きの正体を知っていた。
「これってよ…『覇気』の『限界突破』に似てる。」
「似てるんじゃない、『限界突破』その物だ。『宇宙の覇気』は“法則”が一切存在しない。だから、『限界突破』を簡単に引き出ささせる。それに効果が切れても『覇気』が消滅する事はない。」
そんなインチキとも思える能力に、輝以外は唖然としていた。
「おい! 忍の彼女なら知ってて当たり前だろうが! 何、テメェが驚いてんだよ!」
「か、か、彼女ちゃうわい! 私だって知ってる事もあれば知らない事ぐらいあるわい!」
吹雪の彼女発言で、雅は口調も変わるぐらい動揺し反論していた。
(この状態なら神崎忍に勝てるのでは? よし、天才の俺なら終わってから奇襲するか。)
密かに南雲は忍を倒そうと考えていた。
「さてと、皆が強化された所で魔王をクリアしようぜ。」
「あぁ。」
「人間共がぁぁぁぁッ!」
諦めない人間の姿を見せられ、そんな鬱陶しい気持ちが高まり、ウロボロスは更に怒り狂った。
そして背中から蝙蝠型の翼が生え、両肩、両脇から腕も生えて強化された。
「行くぜ!」
六人は一斉にウロボロスへ走り出した。
「『魔王煉獄拳』!」
六本の腕で六人へ向けて、無数とも思える拳の嵐を放った。が、全て空振りという結果に終わった。
その理由は、強化された『闇の覇気』で全員を物理攻撃全て透過させていたからだ。
「おらぁッ!」
修二は大きく振りかぶって、ウロボロスの足を殴った。するとウロボロスの足は拳に触れた時点で吹っ飛んでいた。
「マジか!」
強化された拳で足を殴った感触は、とてもコットン並に軽く、それで驚愕している修二だった。
「氷れ!」
更に追撃で吹雪が割り込んだ。が、威力を調整できなかったのか、忍と輝以外は仲間ごと凍結させてしまったのだ。
「アレ!? いつも通りに放ったつもりだったんだけどな…なんか、ごめん。」
「ソイツ等は放っておけ、勝手に自由になる。それより全力でアイツに叩き込め!」
忍の言う通りに凍結された四人は自由となり、戦闘を続行していた。
黒焦げになる威力の電撃、身体がバラバラになるほどのカマイタチ、身ですら消滅させる太陽、身体の自由を奪う凍結、翻弄する鬱陶しい光。
この全てと全力をウロボロスへ力一杯に叩き込んでいた。
「調子に…乗るな! 『煉獄火柱』!」
ウロボロスは六本の手に火玉を形成する。そして地面へ叩き込んだ。
すると六人へ業火の火柱が襲った。
「な、何!」
全て倒したと確信していたウロボロスだった。が、火柱に包まれたのは『月の覇気』による幻覚だった。
「ど、何処に!」
「合わせろよ、品川修二!」
「そっちこそな、神崎忍!」
油断しているウロボロスに、二人は天井まで飛翔していたのだ。
そしてライダーキックという形でウロボロスの胸へ衝突する。ウロボロスは大きく後退し、壁まで激突し、瓦礫へ埋もれたのだ。
「ぐっ! まだ人間ごときに…!」
ウロボロスが態勢を直そうと瓦礫を退かし、復活した。が、目前にあったのは修二が右腕を掲げ、巨大な太陽を形成していた。
その太陽は『氷』、『雷』、『風』、『光』の自然物を混ぜた輝かしい物だった。
「舐めるな!」
それに対抗してウロボロスは六本の手で円を作り、紫色とした『魔力』を収縮していた。
それは禍々しく不穏な気配を漂わせていた。
「『炎王爆裂弾』。」
「『煉獄死中玉』!」
修二は思いっきり投擲し、ウロボロスは放った。『太陽』と『死』が衝突する。
それは周囲のオブジェを破壊し、今にでも飛ばされそうな風圧、時空にも亀裂が入る。想像以上の危険な状態だった。
だが、危険な状況だろうと修二は、苦悶の表情で右腕へ膂力を込める。
「苦しそうじゃないか! 今、諦めれば楽に死ねるぞ!」
「…諦めんのは簡単だ。今ここで力込めんのん止めたら終われる。けどな、ここで諦めたら忍との決着がつけられへんやろうが!」
その言葉と同時、修二の背中に温かい感触が伝わる。それは、ここまで戦ってきた“仲間”の手だった。
「最後までやってやろうぜ、俺達が支えてやるからよ。」
吹雪が代表として伝える。吹雪以外の人物はバラバラだが頷き、皆の思いは一緒の様子だった。
「…ありがとう…行けぇぇぇぇぇぇッ!」
そして『太陽』は『死』を消滅させ、ウロボロスへ辿り着いた。
「ぐっ! こ、この力…あの時と…。」
そして『太陽』はウロボロスを飲み込み、大爆発を起こした。が、そんな猛烈で巨大な爆発を『闇』が一瞬にして飲み込みんだ。
「……。」
それは忍の『ダークネスホール』だった。
「もう立てねぇ…。」
修二は疲労で右腕が消滅し、地面へ仰向けで倒れた。が、それは阻止され五人が支えてくれていた。
「あー疲れた! おい、神崎忍! ここまでやったんだ。なんかくれんだろうな!?」
「…軽口を叩く元気はあるようだな。休んでいる所、悪いがウロボロスはまだ生きている。」
その言葉と同時、瓦礫は大きく爆発し破片が飛散する。それは巨大なウロボロスの姿ではなかった。
禍々しい西洋の鎧に包み、薄く黄色の長髪、立派な髭を蓄え、歴戦を掻い潜ってきた風格がある顔の老人がいた。
「ウロボロス最終形態って所だな。」
「マジかよ。こっちは動けねぇのによ。」
吹雪や他は満身創痍で、とても戦闘を続行できる状態ではなかった。
「いや、もう何もしなくていい。この戦いは俺達の…勝利だ。」
だが、忍だけは絶望的な状況でも余裕を見せ、勝利を確信していた。何故なら…
「いい戦いだった。ウロボロスを本気にさせた時点で、お前達の勝利だ。」
それは忍と輝と修二以外は聞き覚えのある声だった。
「やっと来たか。途中で酒盛りして寝てるかと思ったぜ。」
「それも良かったが、俺にも極道としての約束もあるから急いで来た。」
それは先代魔王でもある、入口付近で腕組みした閻魔光だった。
「久し振りだな、ウロボロス。お前を半殺しにして千年か? 随分とやさぐれた物だな?」
「分かっていらっしゃる癖に…。」
「分かってる? お前の心情なんて知るか。俺は俺なりの生き方を見つけただけだ。それならば、俺がここに来た理由もお前には分かるという事か? 答えてみろよ、ウロボロス。」
「……。」
流石のウロボロスも閻魔に質問された事には返答できなかった。
「…できねぇだろうな。まあいい、それはそれだ。俺が来たのは…ケジメをつけに来ただけだ。」
そう言うと閻魔は真っ白い刀、白龍を引き抜いていた。
いかがでしたか?
もし良ければ誤字や脱字や意見や質問等があれば教えてください。