第72話 ケジメの取らせ方。
久し振りの更新です。
輝達が鞍魔と戦闘している最中、閻魔一行は十字架に拘束され、瀕死のクロードと対峙していた。
「言い分があれば聞くぞ? まあ、俺は納得してもコイツ等が納得しなければ、俺にも面子っていうものがある。親分としてお前を処理しないとな。」
閻魔は玉座で足を組み、クロードに対して見下しながら嘲笑い説明していた。これから起きる結末を。
「…ならば早くすればいい。どうせ、ここにいる連中は会長の力に屈服した愚かな連中だ。そんな奴等に殺されるよりは、アンタの方がマシだ。」
圧倒的な力の前なのか、それとも策があるのか、クロードは愚鈍にも閻魔へ挑発していたのだ。
そんな挑発に対しても、閻魔は顔色一つ変えず続ける。
「…因みに聞くが、お前は何の罪で裁かれると思っている?」
「…人間相手に魔界の植物を売って資金集めしてたからですか?」
「それは一部だ。覚えてないとは言わせないぞ、お前が…大事な組員を一人殺し、更には一般人を巻き込んだ。」
そこまで調査していたのかとクロードは内心、閻魔の調査力を甘く見ていた。
「まさか、俺が証拠もなく決めつけで裁きに来たと思っていたのか? ふざけるな、そんな素人のやり方で、会長の座まで登り詰めたと思うか?」
「…アンタは出生が異質だからな! アンタの力は魔神と神、その両方を受け継いだ。謂わば特別扱いの存在だ。」
「ほう、特別? そこまで啖呵を切ったからには何かあるんだろうな?」
「噂じゃあ、前任会長を力で屈服させて、いきなり次期会長になった話じゃないですか。そんな脅迫が許されるなら、俺とアンタがやってる事は変わないでしょう。」
クロードの結論を最後まで聞いた。閻魔は顔を俯かせて静かに笑っていた。
「な、何が可笑しい!」
馬鹿にされていると感じたクロードは苛立ち、閻魔へ問いかけたのだ。
「これが笑わずにいられるか? 俺がチンピラみたいな行動で勝ち取った? それができたら苦労なんかしねぇよ。」
「…嘘だな。二つの力を持っているなら可能な筈だ!」
まだ納得していないクロードに対して、閻魔は笑止し真っ直ぐと見ていた。
「前任の会長。東郷甚太郎三代目会長は現金と宝石が好きな人だった。あの人がいた時は莫大な資金は魔界連合にはあった。」
「……。」
流石のクロードも、ここは黙って話を聞くしかなかった。
「そんな莫大な金も俺が全部飲み代に使って消えた。まあ、そんな話は置いておいて…俺が成り上がったのはゼロから金を集め、会長に経済力を見せて次期会長に決まったからだ。」
「そ、そんな事がある…わけ…アンタに…経済力が?」
クロードは悪魔界で今世紀最大の驚きを見せていた。
普段は飲んだくれ、魔神と神という特別な存在という立場で君臨していた男が、金を稼ぎ、のし上がった事にだ。
「前任会長が実現できなかった夢を俺が実現させたからだ。」
「夢だと!? ならば、その会長が叶えられるはずだ!」
「…無理だった。もう、その時会長には時間がなかった。だから、時間もあり暇な俺が生きてる間に実現させた。」
「待て! 生きてる間だと!? 前任会長は悪魔なのでは…。」
「…普通の人間だ。九十代まで生きて、ポックリと笑いながら逝ってしまった。あの人の夢は極道組織を統一する事だ。けれど、極道っていうのはやってみて分かったが、一癖二癖もある奴等ばかりだ。」
閻魔はクロードへ語りながら、玉座から立ち上がり部下の一人に近づいた。
そして木筒らしき物を部下から受け取り、クロードの前へ歩き立ち止まった。
「さてと、お前も極道の端くれなら、片付けるべき事は始末しないとな?」
部下はクロードを十字架から解放し、抵抗させず跪かせた。
「まあ、やり方は人間と同じだ。ケジメとして小指を詰めるだけだ。普通はノミと金槌で小指を切断するが、普通じゃない俺達には“封魔のドス”で切り落とす。」
淡々とした表情で部下は、まな板をクロードの目前に置いた。
「自分の意思でやれ、俺達は見てるだけだ。何分でも何時間でも数日でも待ってやる。お前が小指を詰めるまで、ここを動くつもりは毛頭ない。」
鞘から鋭い鋭利な刃物を抜刀し、クロードの目前へ投げたのだ。
クロードの表情には緊張が走り、額から汗が流れ落ちる。それは“封魔のドス”でケジメをつける行為に、怯えている様子だった。
(ここでケジメをつければ命だけは…助かる。だが、そうすると俺が助かる未来はあるのか? まだストックにも余裕がある命で逃げるか? それとも、ここは素直に従って落とすべきか? …ふざけるな、なんで閻魔光の命令に従う必要がある! それならば道連れにして死んでやる!)
死を覚悟したクロードは閻魔を道連れにしようと、“封魔のドス”へ手を伸ばした。
そして、まな板の中心に左小指を置いた。
「…今日の晩飯は何がいい?」
閻魔が隣にいる部下へ他愛のない話を語りかけた瞬間。
その隙を狙い、クロードは勢いよくドスを掴み取って走り、閻魔の腹へと深く突き刺した。
「油断したな、これで貴様は普通以下の人間だ! 殺れ!」
クロードの命令と共に部下達は拳銃を取り出した。そして一斉に閻魔へ容赦なく射撃した。
閻魔の体は次々と銃弾が貫通し、遠くまで見える穴が開いていた。
「“封魔のドス”は文字通り、魔力を封じ込める魔具だ。いくら化物みたいな魔力を持っている貴様でも、致命傷は避けられないだろ!」
勝利という愉悦と慢心に浸り、油断している時。
一斉に射撃していた部下の動きが、突然ピタリと停止した。
「ど、どうした!? 何故、止まる!」
急停止した部下に驚きを隠せなかった。
「…あ~あ、急に裏切るから俺の酒を運ぶ奴がいなくなった。」
なんと風穴だらけだった、閻魔は平然とした様子だった。
そして言葉と同時に、部下の首から血液がサラリと流れ落ち、頭が地面へと転がり落ちた。
体も一緒にバタリとドミノの如く倒れていった。
「“魔界流抜刀術”、『斬首』。」
「な、何故! “封魔のドス”で刺されたのに魔力を放出できる!」
「兄貴のは魔力を放出しなくても、肉体的な力で悪魔を殺す方法を見つけたんだ。」
修二達を追っていたと思っていた鬼塚が、悠々自適に歩き戻って来て、解説していたのだ。
「…お前さ、ちゃんと命のストックが無くなる寸前まで倒しとけよ。コイツまだ余裕ある様子で腹刺してきたぞ?」
「すんません兄貴。立場を分からせたかったので手加減しました。兄貴の凄さを分かれば考えが変わるかと思いまして…。」
「まあ、信じるのはいい。その選択肢も間違いではない。だが、礼儀を知らず、不貞とも思わないクズは…処分するしないだろ?」
「…会長がそう言うならーードス抜いてください。詰めさせるんで。」
そう覚悟を決めた鬼塚が告げる。と、閻魔はクロードを蹴り離し、無表情でドスを体から引き抜いた。そしてドスを鬼塚へ投げ渡す。
飛翔するドスを鬼塚は淡々と受け取る。
「…少しの我慢だ。」
鬼塚は倒れているクロードを拘束し、押し付け、まな板へ左小指を置く。
クロードは体を暴れさせて抵抗する。が、鬼塚には効果なかった。
「運が良ければストンと小指が落ちる。まあ、暴れたら色んな所が切れたり落ちたりするからな。」
そして鬼塚は徐々にドスを小指の関節へ虜力を込める。すると血が滲み出て、クロードは痛みで絶叫する。
数分後にクロードの小指は落ち、痛みで悶えていた。
「…兄貴、お納めください。」
鬼塚は素手でクロードの小指を拾い、閻魔へ献上していた。
「…布とか準備しとけよ。」
閻魔は懐から布を取り出し、クロードの小指を包み込んで仕舞う。
「さてと、極道としてのケジメは終わりだ。ここからは個人的な怨みだ。若頭補佐を手に掛けた事は、魔界連合へ大いに損害を与えた。だから、今ここでーー消す。」
「ま、待って…ください。ちゃ、ちゃんと…弁償を…。」
「もう遅い。チャンスは言わずとも何度もあった…『魔神覇斬激』。」
小声で必殺技を名乗り、刀で斬る素振りを見せたのだ。
そしてクロードの視界は何度も細かい線が入っていた。次に体は細かく刻まれ塵と化し、消滅した。
「…さてと、ウロボロスに会いに行くか。鬼塚、ドスを拾って行くぞ。二千年振りの同窓会だ。」
閻魔は不気味な笑みを浮かべて、ウロボロスが待つ部屋へ向かって行った。
いかがでしたか?
もし良ければ誤字や脱字、意見や質問等があれば教えてください。