第71話 『魔導使い』最後の戦い。
お久しぶりです。遂に最後の魔導使いとの戦闘です。
「さて、どうします? こちらは二人、貴方は一人だけ。形成逆転ですね。」
余裕を取り戻した鞍魔は自慢気な表情で、輝に対し挑発していた。
「…聞いてもいいかな? 最初から、これが狙いだったのかな?」
先程とは打って変わり、声と握り拳は力強く震えていた。これは人質に取られた恐怖もしくは憤慨なのか不明だった。
けれど、輝の掌は握り過ぎで、爪が肉へと食い込みポタポタと一滴ずつ出血していた。
「…咄嗟ですよ。あまりにも『風の覇気使い』は強いので、身を犠牲にして味方になってもらいました。」
鞍魔は笑顔で輝に事の経緯を説明していた。
そして雅の顎を優しくなぞる様に触り、更には左頬を下から上へ、舌でゆっくりと舐めたのだ。
これは輝に対しての嫌がらせでもあり、自由にさせない事でもあったのだ。
「穢れていますね。過去に悪戯でもされたのでしょうか? 『覇気使い』として産まれては、親に売り払われ、物心が付く前には孤独で生き、そして…穢くて醜く哀れな人間に弄ばれ、神崎忍に救われた所でしょうか?」
鞍魔は頬を舐めただけで、雅の黒い過去を言い当てたのだ。こんな変態的な行動で、掘り起こしたくない過去を言い当てる。悪趣味な性格だと思った。
だが、それは事実であり、輝は否定せず押し黙り鞍魔を殺意に満ちた目で睨んでいた。
「……。」
「怖い怖い。でも、こっちが優勢なのは確かですよね? 貴方が油断しなければ…」
「…るせぇ…よ。」
話している最中に輝がポツリと何か呟き、鞍魔は沈黙し注意深く聞いていた。が、聞こえていない様子だった。
「…すみません、貴方の声が上手く聞き取れなくて…。」
「うるせぇと言ったんだよ! この悪魔!」
普段は穏やかで、柔軟のある話し方しかしない輝が、怒気を込めた。感情の剥き出した慟哭が響いた。
「……。」
あんな状態の輝を見た鞍魔は、呆然としキョトンとしていた。
「あぁ、そうだよ。僕が油断しなければ早く終わってたし、雅も洗脳されずに済んだかもしれない。けどな、仲間が傷つけられて怒らねぇ奴はいねぇだろ!」
それは俊足でもあり、一瞬の出来事だった。
鞍魔の左脇腹に痛烈な衝撃が伝わり、くの字で壁まで吹き飛ばされたのだ。
(い…一体…何が!)
自分の身に何が起きたのか、理解できなかった鞍魔だった。そう鞍魔が考えている隙、目前には膝があった。丸太みたいに太く、威圧感もある膝は…憤慨した輝の攻撃だった。
そして輝の膝蹴りは顔へと激突し、メキメキと骨が砕ける生々しい音と一緒にダメージを与えていた。
「舐めるなよ!」
鞍魔は憤慨し、次へ迫り来ていた輝の蹴りを両腕で防いでいた。
「何が舐めるなよだ。テメェこそ、人間を舐めてんじゃねぇぞ。」
拮抗状態のまま、お互いは筋肉へ膂力を込めていた。そして暫く続いた力の闘いで制したのは鞍魔だった。
腕力のみで輝を払いのけ、鞍魔は追撃されないよう直ぐ様、立ち上がったのだ。
「雅! こちらに来て、一緒に戦ってください。」
鞍魔の叫びとも呼べる命令により、雅は素早く輝の前へ立ち、クナイを構えていた。
「…雅、目を覚ませ! 君は操られているだけだ。意識を強く持つんだ。」
輝は鞍魔に無気力で、洗脳されている雅へ問い掛けていた。
「無駄ですよ。『謀反の魔導』は従者が親しいほど、力は強くなり反逆心も増すばかりです。特に力の差で劣等を感じていれば、私の『魔導』は強くなります。」
「…だったら安心だ。」
「なんだと?」
輝の不気味に思える安堵した表情が気になり、鞍魔は聞き返したのだ。
「確かに雅は神崎の従者だ。けど、君達が思っている以上に完璧ってほどじゃない。むしろ不満があるのは二人にとって同じさ。そこには忠誠心とか……一切ないね。」
輝は笑いながら、欠陥部分を自慢気に鞍魔へ話していた。
「まあ、不満があろうがなかろうが私達が優勢には変わりありませんよ!」
鞍魔はすっと右手を上げたのだ。そして五本指を巧みに動かした。
それはまるで、糸が付いた人形を操作するような仕草だった。
(あの動きは…。)
輝は突然と動いた鞍魔の右手を見逃さず警戒していた。が、そんな一瞬とも思える隙が生まれた時。
いつの間にか胸には、三本のクナイが深く突き刺さっていた。そのクナイは風を纏い、ズブズブと奥へ侵入しようとしていた。
(しまった!)
気づいた輝は急いで、クナイを引き抜こうとした。けれど、クナイは強く奥まで進行していた。
「こうなったら…!」
輝は右手を激しく発光させ、クナイを手刀で粉砕する。体に残った破片は筋肉と腹筋の力で、押し出して摘出した。
「やはり、神崎関係はおかしいですよ。筋肉だけで破片を摘出するのは…。」
流石の人間離れした行為に対し、鞍魔はドン引きし困惑していた。
「こんなの普通だよ。余裕があれば爪で挟んで一個ずつ摘出するけど、今は戦闘中だし避けながら摘出するのは深手を負うから、応急措置レベルで済ませてるだけ。」
簡単な事みたいに輝は鞍魔へ説明していた。
だけど、そんな事で簡単に納得してしまっては相手の思う壺だと考えていた。
(まずいまずい。コレは私を油断させる為の冗談です。平常心を保つのです。相手は人間と変わりない『覇気使い』、このまま安定しながら……!)
いらない考察を捨てながら集中しようと前へ向いた。が、そこには悪魔でも信じられない光景が映っていた。
「…あっ、まだ破片あった。」
それは輝が平然とした表情で、胸に小さい穴を開け、人差し指で奥深くクナイの破片をほじくり出すグロテスクな光景だった。
(やっぱ、おかしい。この一族はゴリラみたいな筋力と宇宙並のイカれた思考力を持っている人物しかいないのか!?)
そして鞍魔はとんでも現象に、これ以上考えても仕方ないので呆然とし思考停止した。
「…取れた。」
輝が破片に気を取られている最中、再び目前からクナイは迫って来ていた。更に五本も追加してたのだ。
「…意外とワンパターンなんだね。僕を警戒しながら攻撃してる割には?」
その発言と共に輝は右片足の蹴りだけで、クナイを薙ぎ払ったのだ。
「そうなりますか。ならば、ここはタッグを組んで戦うのがいいでしょう。」
鞍魔は次の手として雅と組み、輝を倒そうと宣言していた。そして右手を再び動かし、雅が動いたと同時に、鞍魔も動いたのだ。
双方も素早く移動しているため、輝は挟み撃ちという形になっていた。
(…流石に手慣れを二人して相手するのは、キツイかもね。)
風を纏ったクナイで殺意のある攻撃してきた。雅を輝は容赦なく鮮やかに背負い投げで沈めた。
そして遅れて来た鞍魔を輝は空手の構えで待ち、間合いに入った所を狙っていた。
間合いに入った事を知らない鞍魔は、視界と脳が激しく揺らいだ。痛覚は顎からだった。
(な、何が起こった!)
鞍魔には到底理解する事はできなかった。その理由は空中に漂っている最中、輝からの攻撃が収まらず、大ダメージを受けていた。
攻撃が止むと鞍魔は大きく吹き飛ばされ、壁へ激突し、身体中から出血し、倒れこんでいたからだ。
残った右目の視界はボヤけ、身体は重く、血が生暖かい、もはや瀕死の状態だった。
「今の一瞬で何があったのか、分からない様子だね? 教えてあげようか?」
一仕事終えた余裕の表情で輝はスーツを直し、鞍魔へ接近し、事の経緯を説明しようとしていた。
「じゃ…じゃあ、頼み…ましょ…うか。」
鞍魔は必死な様子で、自分の身に何が起こったのか聞いた。
「…君に使ったのは柏木空手の一つ、『無極』だよ。」
「『無極』?」
鞍魔は聞き慣れない単語に思わず聞き返していた。
「“無”から全てを“極めた”。ある人の名前から生み出された技。知らないのは当然、この技だけは今まで封印されてきたからね。」
「……。」
「何が起きるのか教えよう。先ず、近づいてきた君を抵抗させなくするため、上げ突きを繰り出して宙に浮かせる。そこからはゴリ押しで素早く殴って終わりなんだけど、これはスピードが乗らないと反動が僕に来る。」
「拳を…光速化すれば…出来たという…事ですか?」
「惜しいね。でも、それも考えたけど…身体がついて来なければ神経どころか、腕まで引き千切れる可能性もあったから止めた。だから、僕の流れている血管の血液を光速化させて身体能力を高め、自分を完全な『光』にしたんだ。」
「そ、そんな事まで…して…。」
「一瞬だから大丈夫かと思ったけど、負荷が凄いや。今にも吐きそうだ。」
「…呆れましたね。私のーー敗北です。」
「そう? だったら雅の洗脳を解いてくれるかな?」
「もう右手が完全に潰れているので…私の『魔導』は解かれています…もう少し…もう少しで勝てると思ったのにな。」
それは虚ろな目で天井を見つめ、本気で悔しがる鞍魔の姿があった。
「……完全な勝利なんてないよ。今回は追い詰められたから僕の負けでもある。君みたいなタイプの敵には二度と会いたくないな。正直言って面倒くさいからね。」
そして輝が鞍魔から離れ、雅を介抱しようと接近した瞬間。突如と地面は激しく揺れ、空間に亀裂が入り、今にも部屋が潰れそうな状態だった。
「こ、これは! 閻魔さんの!」
輝には理解できていた。この強力で押し潰されそうな圧迫と威圧の正体。
それは廊下で忍と恐怖の鬼ごっこをしている吹雪と南雲にも伝わっていた。
「な、なんだよ! この地響きは!」
「おい! 神崎忍、魔界でも地震はあるのか!」
吹雪が驚愕しているのを他所に、南雲は忍へ質問をしていた。
「…ちっ、閻魔が力を放ちやがった。クロードが何かしでかしたな。」
「閻魔って誰だ? 魔王以外にも化け物がいるのか!?」
「…これだけは言っておく。閻魔光にだけは喧嘩売るな。命どころか大切な者まで巻き込まれるぞ。」
「ちゃんと質問に答えろ、閻魔光って誰なんだ? 俺達が戦うのはウロボロスなのか、それとも閻魔光なのか?」
閻魔の力を受けて、不安になった様子の南雲は噛み付くよう忍へ質問責めをする。
「テメェ等がどうこう理解できる次元の奴じゃねぇんだよ! テメェ等は黙って、前へ進むしかねぇんだよ! ここで時間を無駄にして喧嘩売りてぇなら勝手にするか?」
忍と南雲が胸ぐらを掴み合いながら、険悪に睨み合う。
「おい、忍の言う通りだ。ここは離れて魔王の所へ向かおうぜ、この中で戦力になるのはコイツと輝さんしかいないんだからよ。」
吹雪は南雲の肩に手を乗せ、落ち着かせるように宥めていた。そして忍の意見が最優先だと考えさせていたのだ。
「…分かった。」
もうふざけて鬼ごっこする状況ではなくなったので、修二を吹雪が背負い前へと進んだのであった。
いかがでしたか?
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