第67話 第三戦、タッグと拒絶。
申し訳ございません。今回は携帯電話が壊れて更新できませんでした。遅れた事を深くお詫び申し上げます。
これからもよろしくお願いいたします。
「品川の奴、大丈夫か?」
吹雪は走りながら、隣にいる南雲へ修二の安否を気にしていた。
「新しい能力を貰ってるから優勢なんじゃね?」
「アイツは昔から銃弾みたいな水を喰らったら、肉を焼いて治療する馬鹿だぞ? また無茶した戦い方してんのが、手にとるように分かってしまう。」
「…今までアイツ、そんな事してたのか。」
「喧嘩が強い奴だと、ずっと思ってた。最近、思う事がある。アイツも神崎忍と同じ存在じゃないのかと…。」
「馬鹿だが戦い方は狂気を感じさせる。本能のみでしか戦っていない、まるで獣。」
「それと違って神崎忍は逆だな。天才で、ちゃっかりと相手が弱い所を狙って、戦闘不能にするからな。」
「だが、品川に負けた。あの男が油断すると思うか? 全てにおいて最強の神崎が。」
「まあ、考えても仕方ねぇ。終わってから品川に聞いてみようぜ。」
「あぁ。」
「皆、次の部屋だよ。」
丁度、話が終わる時に輝達は立ち止まり、扉を見ていた。
「さて、次はどんな奴なんだ?」
吹雪は扉に手を付き、膂力を込めて勢いよく全開にした。そこには玉座はあったが、誰も座っていなかったのだ。
五人は警戒しながら部屋へ入室した。周りをキョロキョロと見ていたら、水の流れる音が響いた。
洪水で流す罠かと五人は思った。が、もう一つの小さい扉が開いたのだ。
「…お腹痛い。」
それは腹部を擦りながら、げんなりとしている蒼魔だった。
「…テメェ何してた!」
「?」
吹雪はいきなり現れた蒼魔に対して、大きな声で「何をしていた?」のかと尋ねた。
蒼魔はキョトンとした表情で質問の意味が理解していなかった。
「彼が聞きたいのは、さっきの部屋で君が何を企んでいたのかという話だよ。」
輝が極端に吹雪が言っていた事を、蒼魔へ分かりやすく説明していた。
「あ~トイレ行ってた。腹が痛くて、戦う前だから、ちゃんとしておかないと思ってな。」
淡々とした簡単な理由で蒼魔は五人へ説明していた。
「…なんか気の抜けた悪魔ですね。」
「まあ、周りから良く言われるよ。お前、そんな『細い身体で大丈夫か?』ってね、俺は好きなんだよなこの身体。無駄な動きをしなくても風だけで移動できから。」
蒼魔は聞いてもいない事を嬉しそうに、ベラベラと五人へ話していた。
「…輝さん、先に行ってくれ。ここは俺が担当するぜ。」
「吹雪くん。鬼塚さんに詳細は聞いていると思うけど、油断しないでね? 僕達や兄さんみたいに、相手は手加減なんてしないからね。」
「…任せてください。俺は品川の背中を追い掛けたいと思ったから、ここにいるんですよ。悪魔一人倒せないなら尻尾巻いて逃げます。」
吹雪は語りながら一歩前へと出て、ニヒルに笑み、顔だけ振り向き、サムズアップで覚悟を示していた。
それが気に障ったのか、南雲は無表情で吹雪のケツへ目掛けて、左足で猛烈な蹴りを入れた。
蹴られた吹雪は軽く吹き飛び、苦痛に歪めた表情でケツを擦りながら、南雲を鋭く睨んでいた。周りは突然な事で唖然としていた。
「何しやがんだ!? このタコボウズ!」
「何しやがんだじゃねぇんだよ。この三流以下。品川や神崎忍ならまだしも、テメェごときの力で勝てると思ってんのか?」
「そんなのやってみなきゃ分かんねぇだろ!」
「あぁ、やってみなきゃ分かんねぇから、俺も残ってやる。」
更に蒼魔を除いた五人は唖然としていた。
「はあ!? テメェは輝さんと一緒に行けよ。ここは俺が残るって言ってんだろ!」
「こっちの台詞だ。足手まといが残るなら、俺が残って早く終わらせんだよ。三流に拒否権はねぇぞ、少しぐらい一流の友達弁護士に頼れ。」
「…あーもう分かった! 今回だけだぞ! 友達として一緒に戦うのは!」
「当たり前だ。そう何回も一緒にやってたまるか、気持ち悪い。」
互いは口喧嘩しながら、蒼魔の相手を吹雪と南雲が担当する事になったのだ。
「…二人共、大丈夫?」
「輝さん、大丈夫なので行ってください。あの蒼魔も止める気は無さそうなので、チャンスだと思います。」
「分かった。行こう雅、アルカディアさん。」
そう告げると三人は次の部屋へ向かって走って行った。
「魔導使い一人に覇気使い二人か。これは少し厳しい状況かな?」
「だったら仲間呼べよ、くだらねぇ意地を張らずにな。」
「残念だが、俺には友や仲間と呼べたのは幻魔ぐらいだ。だが、幻魔は満足して死んだ。」
(やったんだな品川。)
蒼魔の言葉から幻魔と戦って品川が、勝ったと聞いて吹雪達は、安堵した様子を浮かべていた。
「なんか安心してるね? まあ、今の現状で彼は無事とは言えないけどね?」
「どういう事だ!?」
「知ってるかな? 幻魔と戦った品川修二は、自分の右腕を犠牲にして満身創痍。神崎忍は練魔の攻撃で左胸を透過したとはいえ、こちらも満身創痍。これが安心と言えるのかな?」
「神崎忍と品川が生きてたら安心なんだよ。アイツ等は簡単に死なないからな。もし、そうなら五年前は俺が勝ってた。」
吹雪は腕組みし蒼魔へ威張って言っていた。
「他人の事をとやかく言うより、自分の心配したらどうだ?」
吹雪と同じく威張ってはいるが、腕組みせず、淡々と蒼魔へ返していた。冷静な南雲だった。
「不思議だね。人間っていうのは信頼で支えあっている。俺達には無い感情か? まあ、それも良く分からないから…考えるのが、どうでも良くなってきた。」
先程まで人間について、不思議がっていた蒼魔は、突然と思考を停止させ、面倒くさそうにしていた。
「…なんだコイツ。」
「おい、戦わないなら俺達は輝さんと合流させてもらうぜ?」
「それは駄目だ。俺の役目は、お前等を引き離して最後の一人が、魔王様と会わせるようにする事だ。出ようとしても無駄だ、もう扉は閉まって入口からしか開けられない。」
「だったらテメェを無視して進むだけだ。」
「それもどうかな? 俺の『魔導』は『拒絶の魔導』。俺の言葉通りで、その行動と現象を『拒絶』する。“『覇気使い』二人は部屋から出る事を『拒絶』する”。」
吹雪と南雲は催眠でも掛かったのか、蒼魔を無視する考えが、突然と消え失せていた。抑えこまれた訳でもなく、突然と意欲がなくなった感覚だった。
「…俺達に何が起きた?」
急激な自身の変化に対して、吹雪は驚愕した様子で南雲へ聞いた。
「…試したい事がある。少し援護しろ、俺が良いと言うまでな。」
吹雪の質問に答えなかった南雲は蒼魔から何かを察知し、先制へ出る事にしたのだ。
「大丈夫か? 試すのは良いが、見た目で判断して痛い目にあったのは数回あんだぞ?」
「今回は見た目じゃないーー悪魔が相手だから油断したくないんだ。」
南雲は前へ出て、鬼塚との特訓で使った避雷針を取り出していた。
「さて、一流な俺の考えが当たっている事を証明させようか。」
「一流か、自分を高く評価して自信を上げる。お前は少し特殊なんだな。それじゃあ俺も特殊なりの戦い方をしよう。俺は見た目通りに細い身体で激しい運動なんて出来ないからーー魔物を呼ぼうとしよう。」
蒼魔は持っていた杖で、タイルの地面へ軽く数回叩いた。すると周りから黒い霧が現れ、蒼魔の近くへと籠っていた。
黒い霧は晴れると、そこにいたのは胴体と頭はライオン、もう一つ頭に山羊、尻尾は蛇、キメラだった。
「またファンタジーか。」
「おい、気をつけろよ。キメラっていうのは厄介で、毒もあるし強いからな。」
南雲が呆れている背後から、ゲーム感覚の吹雪はキメラに対して注意していた。
「テメェが何時もやってゲームと比べるな、これは現実だ。しかもタチの悪いことに相手が行動が分からない動物だ。」
南雲や誰もが苦手としている人間ではない、本能で戦う動物。それもフィクションの中でしか存在しない、化け物が相手となっていたからだ。
「…やっぱ吹雪、手伝え。悪魔一人ぐらいなら調べてから二人で倒そうと考えていたが、キメラなんていう物が出たらタッグでやるしかねぇだろ?」
「その意見には賛同する。それで俺はどっちやればいい?」
「取り敢えず、キメラを相手しろ。俺は悪魔を相手する。」
「はいよ。」
吹雪と南雲は互いに別れて、決められた担当の相手へと向かった。
「猫は寒いのに弱いって聞いたからよ…この寒さに耐えられるかな?」
早速、吹雪は戦闘態勢へと入り両手に冷気を吹き出させていた。そして地面に手をつき、凍結させていた。
キメラの四肢は徐々に凍結していき、身動きが取れない状態だった。が、そんな事はなく力のみで、キメラは氷をミシミシと破壊し自由となっていた。
そして下らない事をした事が、気に障ったのか、キメラは吹雪を補食する目付きで睨んでいた。
「…嘘でしょ?」
そんな補食対象とされた、吹雪はキメラに唖然とし…
「ギャアアアアアっ!」
涙目で両手を上げ、背後から追い掛けるキメラから一生懸命逃げ回っていた。
「アイツ、何してんだよ…まあいい。」
南雲は吹雪の行動に対して呆れていた。が、気を取り直して、南雲は蒼魔の顔へと向けて、避雷針を投げた。
蒼魔は『魔導』を使わず、頭を少し傾けただけで避けたのだ。ほどなくして避雷針は地面へと転がった。
「そんじゃあ、これはどうだ!」
南雲は避雷針を二つ取り出し、再び蒼魔へ向けて投げた。
「“お前が行う攻撃は全て『拒絶』する”。」
流石に南雲の攻撃が不気味に感じたのか、警戒して『拒絶の魔導』を使った。
その蒼魔の行為は当たっていた。二つの避雷針は電気を纏っており、互いに飛翔しながら電線を引き、顔へと向かっていた。が、『拒絶』されている為、通り抜けたのだ。
「神崎忍の強いバージョンか。『拒絶』されたら、どうしようもないな。」
「じゃあどうする? 抵抗せずにキメラに殺されるか? それとも、お前だけ逃げて助かるかだな?」
「悪いが、もう一つ選択肢を忘れてるぜ。テメェとキメラを倒して、二人は次の部屋へ進むっていうのをな! 吹雪、代われ!」
南雲は大声で吹雪へ交代を指示していた。
「じゃあな猫ちゃん。次は一流弁護士が相手してくれるぜ。」
指示を聞いた、そう告げると吹雪は冷気で、キメラの目へ攻撃し、瞬時に素早く南雲と交代した。
交代した途端、南雲は遠くからキメラへ向けて無数に容赦なく電撃を放ったのだ。
南雲の電撃をマトモに喰らったキメラはもがき苦しみ、耳がつんざく様な大きい咆哮を放っていた。
「うるせぇ声だな!」
更に南雲は電力を強めて、キメラへと攻撃していた。
「さてと、『拒絶』の蒼魔さんよ。俺と暫く遊ぼうか?」
(コイツ等、一体何を考えている?)
蒼魔は吹雪と南雲の行動を不審に思いながらも、戦闘を続行した。
そして吹雪は足元へ冷気で、地面をツルツルに凍結させた。
「“俺が凍結する事を『拒絶』する”。」
二人の奇怪な行動にも、蒼魔は油断せずに対応していた。冷気は蒼魔だけ避けて、辺り一面を凍結させていた。
「おいおい、お前だけ無敵か? けど、なんとなく分かってきたぜ。アンタの倒し方がな!」
吹雪は『覇気』で攻撃するのを止めて、格闘で対応する事にしたのだ。蒼魔にステップで近づき、右ハイキックで顔へと蹴った。
「“お前からの格闘全般攻撃を全て『拒絶』する”。」
吹雪の右足が蒼魔の顔へと当たる寸前、『拒絶』され、透過し未遂に終わったのだ。
「本当に神崎忍の強い版だな。格闘が駄目なら、俺の意志と関係ない攻撃ならどうだ?」
吹雪はニヤリと蒼魔へ不適な微笑みを浮かべていた。察しが悪い、蒼魔に吹雪は親切心で 右人差し指を地面へと指していた。
蒼魔は地面を見て、何かに気付き辺り一面へ目を向けた。
「まさか!」
「そうだ。五年前から品川の戦い方を真似ていたが、俺にあんな体力や精神力はねぇから、技術だけでも極めていた。そして俺が作り上げたのは『南極化』だ。これは味方も巻き込むが、アイツは勝手に対応するから放っておいてもいい。」
そして蒼魔はキメラと戦っている南雲を様子見る。
キメラだけは完全に身体全体が凍結し、南雲だけは平気な様子で佇んでいた。
「俺が交代した理由は吹雪が全体を凍結させるまでの時間稼ぎ、そしてキメラの足止めと油断させる為だ。」
「…成る程、理由は分かった。けど、それじゃあ俺に勝ったとは言えないな? この勝負はどちらかの死で終わるのを忘れたのか?」
キメラを倒され危機的な状況に陥っているにも拘わらず、蒼魔は平気という余裕な態度だった。
「あぁ、すまんな。それならもう決着がついたぜ?」
何に対しての謝罪なのか、呆然とし蒼魔は理解出来なかった。が、その直後で蒼魔は即座に理解できたのだ。
自分の右脇腹、胸、心臓へ目掛けて一直線に背中へ向かって、突き刺さる氷柱があったからだ。
蒼魔は口から紫色の血液を吐き、顔色が真っ青になっていた。
「ひ、避雷針…か…。それを…繋ぎとして…刺した…のか…。」
蒼魔は背一杯の力で、自分を打ち倒した原因を述べていた。
「それもあるが。『拒絶』の範囲を狭めていたのもある。言葉通りなら一度使った言葉に限界があると思って、交代した。そして、この横着な戦い方で勝った訳だ。」
「…横着か。シンプルかつ危険な行為だったな? 参った、まさか人間にしてやられるとはな…。」
「アンタも強かったよ。言葉を発しなければならいが、実際に神崎忍並みに強かった。命が消滅する事は『拒絶』できないのか?」
「無理だ。『魔導』は悪魔の不死を引き換えに『魔導使い』になれる。弱い身体の俺には過ぎた物だったな。」
蒼魔は昔を思い出す様子で、瞼だけ閉じ穏やかな表情を浮かべていた。
「そうか…俺等も命懸けで戦っていたから…。」
「気にするな。魔王様にそんな気持ちを持ってたら簡単に殺させれるぞ。屍を越えて、先へ進め『覇気使い』。後ろを振り向くな、振り向けば後悔するぞ。」
蒼魔は消滅する最後なのか、二人へ注意を促し、励ましていた。
「…あぁ。アンタがそう言うなら、そうなんだろうな。」
「…下らんな、悪魔と同情するってな。」
「お前だって初めてだろ? 誰かの命を奪うっていうのは…。」
吹雪の言葉に南雲は懐かしい過去を思い出していた。
南雲が小学生だった頃、家の薄暗い地下室で独り籠りながら、手足が拘束されたカエルの解剖をしていた。
そして、いざメスで解剖しようとすると手が震えて、躊躇し解剖できずにいた。嫌気がさした南雲はカエルを外へと、逃がしていた。
そんな古く幼い頃を思い出していた、南雲だった。
「……。」
「お前にだって慈悲の心ぐらいはあるだろ?」
「…昔、カエルを解剖しようと考えていた。けれど、手が震えて躊躇した。そして外へ逃がしてやった。」
「俺をカエルと一緒にしやがって…まあ、カエル以下の俺に相応しい最後だな。」
話終わると同時、蒼魔の身体は足から徐々に砂化し消滅していった。
「…そろそろ終わりだな。じゃあな、最高のコンビの『覇気使い』達よ。」
蒼魔の身体は完全に砂となり、『魔界』から消滅したのだ。
「…あぁ、じゃあな。良く分かんねぇ『魔導使い』よ。」
「『拒絶の魔導』で蒼魔だ。それだけは覚えてやれよ。」
「アンタ一度でも他人の事を心配するとは…今日は雪でも降るのか?」
「お前こそ俺に優しくするなんて、嵐でも起きんのか?」
二人は他愛のない喧嘩をしながら次の部屋へ向かおうとしていた…が。
「蒼魔は消滅したか。いい『魔導使い』だったのにな。」
背後から、わざとらしく二人に声を掛ける者がいたのだ。
いかがでしたか?
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