第63話 バラバラと選択肢。
今回も戦闘なしです。戦闘は次回からとなります。
「着きましたよ。ここが魔王ウロボロスの住処…『魔界城』です。」
アルカディアの安全な道案内で無駄な戦闘せず『魔界城』まで辿り着けた。蠢く植物や異形な怪物に惑わされそうなったりはした。が、無事に辿り着いていた。
「ゲームとかでラスボスがいる城とか良く見るけどよ。こんな間近で見ると圧巻だよな?」
吹雪は城から放たれる禍々しいオーラに圧倒されていた。それもその筈、城は西洋式、余裕の表れなのか城壁がなく、雷雲が禍々しく頂上を覆っていたからだ。
「上空に浮かんでいる邪神竜の城なら行った事はあるぞ。力使い過ぎて無抵抗に落ちて死にかけた。」
「何で、お前だけファンタジーしてんだよ…」
冷静な表情で忍が有り得ない話をして、吹雪は突っ込んでいた。
「ファンタジーでもドラクエでも何でも良いじゃん、早く入ろうぜ。」
急かすように修二は先へ進み、後の六人も城内へ進み始めた。
城内は不気味な雰囲気だった。絵画や高級な置物ばかりで悪魔らしき者がいなかったからだ。
「…本当にここだよな? 悪魔の形すら見えねぇぞ。」
「あぁ、本当にここなんだよな?」
吹雪と南雲は悪魔らしき姿が見当たらないのでアルカディアへ尋ねた。
「…君達は悪魔を感じる事はできないのか?」
アルカディアは不思議そうな表情で二人の言動を疑問に思った。
「悪魔って言われても、鬼塚さんに説明されただけだからよ。」
「成る程、じゃあ品川修二さん。貴方が初めて悪魔にあった時の感覚を教えてください。」
アルカディアは隣にいた修二に幻魔達と出会った感覚を教えてくれと頼まれた。
「…不快。それも吐き気するぐらいの嫌悪感、気味が悪く存在を否定したくなる感覚だ。」
分かりやすく言えば嫌な感じという事だと三人は理解した。
「その気配を探すんです。人間でも分かってしまう、そんな気分が悪くなる醜い存在の気配をですね。」
「……。」
吹雪と南雲は嫌悪感がする気配を感覚で探索しようとした。だが、今までそんな事を体験した事がないので分からなかった。
「…品川さんはどうですか?」
「…下から感じる。更に、その下から閻魔さんみたいな巨大な力を感じる。」
「閻魔様と同じ力なら、魔王ウロボロスは地下にいますね。でも、何故でしょう? 外で戦えば有利なのに地下まで行って姿を隠すのは?」
「…どんどんと入口から離れて行くな。」
忍がポツリと呟いた言葉で、全員は何か勘づいた。
「誘っているのか、舐めた真似を…。」
悪魔達の挑発に腹を立てた雅は、懐からダイナマイトを取り出し、地面へ並べて置いた。
雅と忍以外の人物は驚愕し、急いで爆発物から遠くへ逃げる。
「…いきなり出すなよ。」
忍は雅のいきなりすぎる行動に対し、少しドン引きしていた。
「…悪魔共め! 忍様に引かれたではないか! ぶっ殺してやる!」
雅は自分の行いを悪魔達に擦り付け、ダイナマイトを点火させた。そして巻き込まれないように輝の隣へ避難していく。
忍は呆れてタメ息を吐き、ゆっくりと修二達の元へ向かって行った。
ダイナマイトは大きく爆発し、火薬量が多すぎたのか、コンクリートの破片が風圧で周りへ飛び散った。
「…火薬どれぐらい入れたの?」
忍に続いて、威力に対しドン引きな輝は雅へ火薬量を尋ねた。
「城門を破壊する程です。それも十本は…。」
「テメェ馬鹿じゃねぇのか!? 先に俺等が死んだら詰みゲーっていう事を考えろ!」
有り得ない火薬量と数本で、吹雪は味方を巻き込む無謀な雅の行為に対してキレていた。
「あぁん? なんだ、この浮わつきパーマ。だったら貴様が先に何とかすれば良かったんじゃないのか?」
「なんだと? この神崎忍専用ユルユルクソビッチが!」
売り言葉に買い言葉。お互いは至近距離というキスしそうな近さで睨み合っていた。
「…アイツ等は放っておくか。」
「…同感だ。たまには良いこと言うじゃねぇか品川。」
(普段の君達も、いつもあんな感じで喧嘩してるよ。)
修二と南雲の会話で、他人事ではないと内心突っ込む輝だった。
「…あの~? 爆発のせいで瓦礫が邪魔をして何も見えなくなってるんだが?」
アルカディアは申し訳なさそうな表情で全員に言った。全員は爆発した所に注目し、やっちまったと唖然とした。
「…掘り起こすぞ。」
もう呆れて考えるのも嫌になった忍は早速、瓦礫から入口を手で掘り起こす。他の六人も忍に続いて瓦礫撤去していた。
「…見つけたぞ。」
瓦礫撤去作業して数時間、修二は地下に続く階段を見つけた。全員は余程疲れたのか、肩で息を繰り返していた。
「疲れた! 悪魔倒しに来ただけなのによ。こんな重労働やらされた挙げ句、体力を消耗しなきゃなんねぇんだよ!」
そこで吹雪が汗だくで文句を大きい声で漏らしていた。
「使った分の体力は休めばいい。今回はこっちが先制を取っている。別に時間で急かされている訳ではないからな?」
吹雪の文句を聞いた忍が真っ当な意見を冷静に述べていた。
「…っていうか、なんでテメェが指図してんだよ? 品川とは敵なんだろ? 敵のお前が協力すんのはおかしくねぇか?」
どうやら吹雪は忍が修二と協力し、悪魔を倒そうとしているのが疑問に思い、突っ掛かる。
「…今更か。頭がトロいんじゃないのか?」
「なんだとテメェ!」
忍の馬鹿にした発言で、吹雪は立ち上がり喧嘩を始めた。
「もう止めなよ。魔界に来てから皆、ずっと喧嘩してるよ。この際だから過去の事は水に流してとは言わないけど、今は協力しようよ!」
流石に喧嘩が多く、我慢できなくなったのか輝は全員へ怒ったのだ。
「…そうだな、輝さんの言う通りだ。ここは過去の話を掘り返すのも、他人の失敗を責めんのも後にしろ。俺達が悪魔に負けたら今まで通りに喧嘩なんてできなくなるんだ。それが嫌なら休んで、この階段を降りよう。」
輝の言葉に肯定した修二は周りを正論で納得させた。そして瓦礫撤去の疲れを癒すため、皆から離れた場所に向かった。
柱へ凭れ座り込み、懐から煙草を一本だけ取り出し、一服していた。
「…悪かった。」
「…あぁ、気にするな。俺も少しキツく当たった。」
吹雪と忍は互いの非を認め謝罪し、修二と同じく座り込んで休んでいた。他の四人も同じく座り込んで、じっくりと休んでいた。
そして完全に休憩できた七人は立ち上がり、暗闇が続く階段を見ていた。
「…誰が先に行く?」
もしかしたら罠があるかもしれないと思った吹雪は誰が先行するかと尋ねた。
「俺から行こう。」
階段へ先行するのは修二が立候補として挙がった。誰も手を挙げる事がなかったので、修二は階段へ降りて行った。
「…大丈夫だ。皆、降りて来い。」
修二は炎を右手に発火させ、暗い周囲を明るくした。安全が確認されると待機している六人を先導する。
階段を下ると広い空間で、大人数が通れる一本通路となっており、まるで誘っているような造りだった。
「行こうか。」
罠と敵を警戒しながらも先へ進み続けていた。長く進み続けると、そこに鉄製の大きな扉があり、道を塞いでいた。
「開けるぞ?」
修二は全員へ尋ね、扉に両手を付き、力を込めて押した。扉は見た目とは違い思ったより軽く、すんなりと開いたのだ。
そこは正方形のタイルに包まれた、赤黒く巨大な部屋、中心には玉座があり、誰かが座っていた。
「…待っていたぜ。お前等がいきなり休憩しだすからビックリはした。まあ、来なくてもコッチから出向くけどな?」
それは余裕綽々と話している練魔だった。
「…てっきり最初は幻魔が出るかと思ったぜ? アイツの性格ならそうだろうな?」
修二は幻魔の性格で一番目に来ると期待していた。が、それは大きく外れていた。
「あぁ、俺達も一度座席順で内輪揉めになった。だが、それはもう解決した。」
「…見ない顔だな? もしかしてアンタが鞍魔っていう奴か?」
「違う違う、俺はアイツみたいに穏やかな口調で騙せねぇよ。俺は練魔、『消滅の魔導使い』だ。」
練魔は修二の質問に対し、嘲笑いながら否定していた。
「へぇ~幻魔みたいに血の気が多いわけじゃねぇんだな?」
「まあな。それでどうする? 俺はウロボロス様の命令で近づく者は始末しろと命じられてるんだ。でも、七人は多いなーー六人は見逃して次の部屋に行きそうだな?」
練魔の要求している事が分かった。一人を残して、後は進むのも残るのも自由という有利な選択肢を与えていた。
この有利な選択肢に六人は迷っていた。言葉に甘えて一人を残し進むか。全員で戦うのかと考えていた矢先…
「俺が残る。」
暇そうな表情で忍が名乗りを挙げたのだ。
「おい、待てよ! いきなり大将が出るのは間違ってんだろ? ここは全員で突っ込めば勝てんだぞ? それに確実に一人残すぐらいなら俺達みたいな先鋒が出んのが鉄則だ。」
その提案を吹雪が反論し、忍が出るのを渋っていた。
「これは競技じゃねぇぞ? 命の取り合いだ。そんな柔道みたいな団体戦で勝てるんだったら最初からやってる。それに俺は大将向きじゃねぇよ。副将向きだ。」
「神崎…お前…。」
「…お前等は邪魔だ。俺が出来るだけの事はしておいてやるから行け。」
「…分かった。品川行くぞ!」
吹雪は忍の提案に不満が残りはした。が、忍を置いて先へ進む選択にした。
勝手に決められて不服な修二だが、ここは黙認し次の部屋へと向かうのだった。
「忍様、ご無事に来てください。」
「兄さん、待ってるよ。」
雅と輝は忍が来る事を信じ、先へと向かって行った。
「主の加護がありますように…。」
アルカディアは忍が無事に辿り着く事を祈って行った。残った南雲は特に言う事がないので無視して先へ向かった。
「…酷い奴等だな。まあ、それはアンタを殺せば追い掛けて潰すまでだ。それ以上それ以外もないだろ? 神崎忍。」
「どうやら俺の名前は『魔界』でも有名らしいな? そんなに俺に興味あるのか? このストーカー共が。」
「敵の情報に興味を持つのは当然だろ? 『闇の覇気使い』、神への復讐者、次期魔王候補となってくるとな?」
「一つだけ訂正しな。次期魔王候補じゃねぇ、プロのワイナリーで評論家だってな!」
練魔と忍の戦いが始まったのである。
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