第61話 『魔界』へお礼参り。
今回は戦闘はなしです。が、忍の意外な弱点が露になる回です。
「おい、そろそろ起きろ。もう朝だぞ。」
割烹着に着替えた閻魔はカウンターで寝ている修二と忍を揺すりながら起こしていた。
気分が良くなっていた二人は朝まで飲み明かし、カウンターで力尽きてしまっていたのだ。
「…頭痛い」
起きて早々、修二は二日酔いで頭痛が酷く、項垂れていた。
「閻魔、水くれ。」
忍も二日酔いで気分が悪く、閻魔へ水を注文していた。
「…全く調子に乗って飲むからだ。今日はお礼参り行くのによ。」
閻魔は冷蔵庫に入っているミネラルウォーターを取り出し、コップへ注ぐ。そして忍に手渡した。
「すんません、俺もください。」
修二も流石に気分が悪く、閻魔へ水を注文していた。
「…今夜に門を開ける。」
「開ける場所は決まっているのか?」
忍が今夜決行しようとしている事に対し、着々と閻魔は修二の水を用意しながら尋ねた。
「シェリアの敷地でやる。あそこなら被害を最小限で抑えられる。アンタはどうする?」
「俺は久し振りに組へ帰るさ。それから海道に向かって事が終わり次第、ウロボロスにはケジメをつけさせてもらう。」
「…そうか、なら俺達が言うことないな。」
「安心しろ、死んでいった人間の分だけケジメは取ってもらうさ。」
忍は閻魔が極道としての責任を知っており、安心し、それ以上何も言わなかった。
「ほら、品川行くぞ。銭湯まで送ってやるから起きろ、三ヶ月振りの風呂に入るぞ。」
忍は品川と肩を組む形で担ぎ上げ、閻魔の店から出た。そして忍はダークネスホールを開き、海道へと帰った。
「さてと、全員集めて『魔界』に乗り込む準備するか。」
冷静な顔で閻魔は着々と店を戸締まりし、明朝から密かに『魔界連合』へとバイクで走らせ向かった。
ダークネスホールから出現した二人は、シェリア邸に辿り着いていた。修二は気分が悪くなり、担ぎ上げられながら忍に頼んで、眠らせてもらっていた。
「あれ? 忍様に品川様、どうなされたんですか?」
そこに今、帰って来たのか黒いレディースジャケット、黒いタイトスカート、中は白く黒い縦線が入ったインナーを着て、黒いハイヒールを履いた。成長したシェリアがいたのだ。
五年前とは髪型が変わり、メッシーバンになり、妖艶な雰囲気を漂わせていた。
「おう、シェリーか。随分とイメチェンしたんだな。」
「貴方も雰囲気が変わりましたね。昔は荒々しかったのが今は穏やかになってますよ。」
「…そうかもな。変わるべき時に変われなかったから一度後悔したからだ。少しは聞く耳を持つようになったさ。」
忍は意味ありげな表情で語っていた。
「そうですか。でも…何か用があって来たですよね?」
雑談をするのも良いが、玄関前で長々と話するのは、邪魔になるとシェリアは言いたかったのだ。
「…すみません。」
シェリアの冷静なツッコミに対し、忍は反論できず素直に謝罪した。
「家の中に入りましょうか、それに品川様の体調も良くなさそうなので。」
疲れ気味で早く帰りたいシェリアは二人を屋敷へと招き入れた。更に忍はシェリアから風呂を借りてリフレッシュした。
二日酔いの修二を医務室で寝かせ、忍とシェリアは応接室へ向かって紅茶を飲み、五年前に何があったのか話していた。
「いつ帰って来たのですか? 結構な資金と人脈を使って探したのに見つからないので、心配してました。」
「少し世界を救いに行ってた…かなり時間は掛かったがな。」
「無事で何よりです。」
「…それよりシェリー、頼みがあって来た。」
「なんですか?」
「ここで『魔界門』を開きたい。そして…携帯電話の使い方を教えてくれないか?」
シェリアは最初の発言には反応を示さず冷静に対応していた。けれども忍が冷や汗を流し、近代機器である携帯電話の使い方を教わろうとしているのが呆然とさせ驚愕していた。
「え? 忍様、まさか携帯電話使えないのですか?」
今まで『覇気使い』との戦いに負けなかった忍の弱点が携帯電話とはシェリアは信じたくなかった。
「…あぁ。」
どうやら正解らしく、そんな深刻な表情で簡単に返事されても困るシェリアだった。
「わ、分かりました。それでは携帯電話を見せてください。」
そう伝えると、冷静な表情で忍はダークネスホールを開き、レトロ感がある黒電話を取り出してシェリアに見せた。
「…こ、これは何かの冗談ですか?」
苦笑いでシェリアは黒電話を携帯しているから携帯電話という、下らないギャグを披露し困らせてるのではないかと考えた。
「冗談に見えるか?」
どうやら本気だったらしくシェリアは忍から黒電話を受け取ろうとした。が、黒電話を机に置き、椅子から立ち上がった。
「忍様、携帯電話を買いましょう!」
「はあ!?」
流石に携帯電話が無いと不便と感じたのか、シェリアは忍の手をガッチリと掴み、勢いよく引っ張り屋敷から出た。
二人は海道携帯ショップへ向かって忍の携帯電話を買いに来ていた。
「……。」
忍はスマートフォンが並べられている棚を興味深くジロジロと見ていた。
「何か好きな物がありましたか?」
するとシェリアが忍に声を掛けた。
「…五年前までパカパカだったのに、こんな板みたいなので連絡してんだよな。」
「忍様だけタイムスリップした感じですね。」
「なんだか置いていかれた気分だな、品川もスマートなんたらだしな。」
「慣れたら完璧に扱えますよ。」
「よし、これにしよう。」
忍はスマートフォンを手に取り、カウンターまで持って行く。
「こちらの契約者と必要事項をご記入してください。」
黙々と忍は女性店員に従って必要事項を記入していく。
「…彼氏さん、男前ですね。五年前に引退したモデルの川神忍さんに似てます。」
「か、彼氏ですか! ち、違います! 彼とは仕事仲間みたいな…友達みたいな関係とかで…。」
シェリアは慌て頬を赤らめてあたふたし、発言がちぐはぐになっていた。
「あぁ、懐かしいですね。川神忍、今何してるんでしょう。」
目の前に本人が契約しているのに、忍は女性店員と話を合わせていた。必要事項を記入し終え、無事に契約が完了した。
そして忍は念願でもあるが扱うのを躊躇う、携帯電話を手に入れた。
「これは私の番号です。」
「…柏木さんの携帯番号知ってるか? 輝でも良いんだけどよ?」
「ありますよ。輝様は私の個人弁護士をしてるので連絡は取り合ってます。」
シェリアは忍へ輝の電話番号を携帯電話で見せていた。
すると忍は買ったばかりの携帯電話に電話番号を不慣れな人差し指で入力していく。
「む、難しいな。」
自販機ですらマトモに扱えない程の機械音痴な、忍にとってスマートフォンが『悪魔』や『覇気使い』と戦うより困難だった。
漸く携帯電話に輝の連絡先が入り、忍はドヤ顔を浮かべていた。
「じゃあ、それで発信してみましょう。」
「は、発信…こ、このボタンだな…。」
忍はタッチパネルに発信と表示された所へタッチした。するとスマートフォンは通話するため正常に発信した。
「はい? もしもし?」
数秒後には輝が電話を取り、通話に出たのだ。
「お、俺だ。神崎忍だ。」
緊張しているのか忍は自分の名前をフルネームで名乗っていた。
「あ、兄さん? もしかして携帯電話買ったの?」
「あ、あぁ、そうだ。携帯電話買ったんだ。ここまで自分でできたぞ。」
「そ、そうなんだ…。」
忍の変な自慢に対し、リアクションで困っていた輝だった。
「…まあ、本題に入るぞ。今夜、『魔界門』を開ける。だが、開けた際に悪魔共が一斉に人間界に進入しようとしてくるから、人間界に数名だけ『覇気使い』を置く。カズ、相川、シェリーの三人は残す。」
「分かった。それと教会も武装して協力してくれるか頼んでみるよ。」
「あぁ、頼んだ。」
そう輝へ告げると忍は通話を切った。
「…行くんですね。」
シェリアは遂に忍達が『悪魔』と対決する事で心配していた。
「まあな。けど、その前に髪の毛を切ってくる。少し時間もあるんだ。余裕は作っておかないとな?」
忍はシェリアへニヒルに微笑んで、ダークネスホールを開き美容室へと向かった。
「…帰って来ても勝手なんですね。」
いつもと変わらない性格な忍に、シェリアは仕方ないなという嬉しさの表情を浮かべていたのだ。
そして対決する夜となり、約束していたシェリアの庭で『覇気使い』達が集結していたのだ。
「…俺達が一番乗りみたいだな南雲。」
「そのようだな。」
先に現れたのは黒いポロシャツ、青いジーンズへ着替え姿で現れた吹雪。
一方の南雲は白いロゴで『悪魔、ショックショック』と書かれたダサい黄色のシャツ、吹雪と同じ青いジーンズに着替えていた姿だった。
「ちょっと遅れたかな?」
「大丈夫です。あの二人を始末すれば私達が一番となります。」
吹雪と南雲の後で輝と雅がやってきた。こちらは何も変わらない、何時も通りの格好だった。
「輝さん、お久し振りです。」
二日酔いから完全復活した修二は屋敷から姿を全員に現した。
「おいおい、なんだよそれ! 何時、吉本の芸人になったんだよ!」
修二の格好を見た吹雪がゲラゲラと指差して笑い転げていた。
「おい、クソリーゼント…邪魔するで。」
悪乗りで南雲が関西で有名な鉄板ネタで冷やかしていた。
「シェリアちゃん、このスーツの凄さを見せつけてやるから待ってな。」
「は、はい。」
冷やかされキレた修二は悪魔と戦って、シェリアが作ったスーツの実力を証明しようとしていた。
そんな子供みたいな喧嘩で対処できないシェリアは苦笑いを浮かべる事しかできなかった。
「随分と余裕あるな。これから命懸けの戦いになるのにな。」
何もない空間から声が響き、全員がそちらに向くとダークネスホールの渦が出現した。そして足から出て、徐々に姿を現したのは…忍だった。
それも髪型が無数に編み込められた。お洒落なコーンロウへと変わっていた。
「……。」
全員は急激な忍の変わりように全く声が出なくなっていた。
「っていうか生きてたのかよ神崎忍。」
静寂な空気を壊したのは、今まで忍関係の情報が入ってこなかった吹雪だった。
「お前は何も変わってないな、吹雪雅人。」
「これでも待ってたんだぜ、五年間オメェが品川に負ける姿を想像しながらな。」
「そうか、その想像が現実になればいいな。」
吹雪の皮肉が混じった挑発に乗らなかった忍は修二へ近づいた。
「閻魔は?」
閻魔はまだ来てないかと修二に確認していた。
「まだ来てね。もしかして門を開けるのに閻魔さんがいるのか?」
「いや、今すぐ行くから必要ない。それに後で来ると言っていた。」
「そうか…じゃあ門を開ける前に少し儀式しようぜ。皆! 集まってくれ!」
修二は全員を呼びつけて円になるよう指示した。皆は修二の目的が分からないので呆然としながら円となった。
全員が円になった事を確認した修二は大きく息を吸い込んで…
「俺達は今から、摩訶不思議な生き物と戦う事になる。これは冗談半分で戦っていい物じゃねぇ! 命を懸けた真剣勝負だ。死ぬかもしれねぇし、何か失うかもしれねぇ! けれど約束だ!」
修二は突然と円の中心に拳を突き出した。
「俺達は生きて帰って、また明日を生きる。そして普段と変わらない平和な生活を送る。これは俺の願いでもあり、この世界にいる皆の願いだ。『魔王』をぶっ倒そうぜ!」
そんな言葉に感化されたのか吹雪は修二の拳と合わせた。
「そんなの当たり前だろ?」
吹雪に続いて南雲も二人と拳を合わせた。
「天才の俺に任せな、悪魔だろうが何匹でも倒してやるぞ。」
南雲に続いて輝も三人と拳を合わせた。
「命の保証なんてできないけど頑張ろう。」
隣で雅は嫌悪感な表情で拳を合わせようとしなかった。が、すると先に忍が四人と拳を合わせたのだ。
「ただの儀式だ。嫌ならやらなくていいぞ。」
忍が敵と拳を合わせているので、雅も引くに引けなくなり…
「あぁ、もう! 今回だけだからな! 貴様等とふざけた拳のくっつき合いなど二度とやらんからな!」
散々ごねていた雅は折れて、嫌いな三人と我慢しながら拳を合わせた。
「シェリアちゃんも来いよ。」
「で、でも私は戦闘に参加しないのに…。」
修二は遠くから見ていたシェリアも儀式に誘った。シェリアは戦闘に参加しないという理由で消極的だった。
「良いんだよ。皆が無事で帰れるようにやってくれよ。」
「…分かりました。」
修二の説得により、シェリアも六人と拳を合わせたのだ。
「じゃあ、生きて帰ろうぜ!」
「おう!」
修二の言葉で全員は必ず生きて帰る誓いを決心した。
この日、この時より『覇気使い』と『魔導使い』の戦いが開戦したのだ。
いかがでしたか?
もし良ければ誤字や脱字や意見や質問等があれば教えてください。