信頼の為 後編
後日、私は独自の調査ルートから『先生』にコンタクトを取ることに成功した。
対面での取材は無理だったが、メールでの応答は了としてもらえた。
―――あなたが『先生』ですか?
「いかにも。」
―――緋識さんには、なぜ殺人を指示したのですか?
「なぜと言われても、そういう依頼を受けたから、実行できる人間に繋いだ。
それだけだ。」
―――あなたは表向きはメンタルヘルスのカウンセラーで、裏では暗殺の斡旋をしているということですか?
「逆だ。暗殺が本業だ。」
―――何故、カウンセラーをしているのですか?
「仲間に引き入れやすいからだ。
彼女らは心が弱って何も出来なくなっていた。
何故か?自信を喪失しているからだ。
では、逆に自信で満ちたらどうか?
決まっている。何でも出来るようになる。
命の輝きを取り戻す。
私は人々に、
自信を与える術を知っている。
価値を与える術を知っている。
だから結果、人々は
私に懐く。
私に感謝する。
私に従う。」
―――何故、仲間を集めるのですか?
「暗殺とは存外難しいものだ。
かつて私は実行者の一人だったが、
完全に証拠を残さないことは、相当に難しい。
自分では完璧のつもりでも、星の廻りが悪く、
足がつきそうになったことも少なくない。
単独で稼業を続けても、長くない。
だから、仲間を集めている。」
―――緋識さんは捕まりましたが
「彼女は驚く程優秀だった。
通常であれば一人殺した所で捕まる。
素人だから当然だ。
半数は人を殺すことができない。
何人もの殺人に成功した彼女、特別優秀であったから、捕まったと聞いたときは残念だった。
しかし、
とはいえ、私が捕まらなければ問題ない。」
―――もしかして、彼女らは捕まることが前提ですか?
「捕まらないよう願っているが、日本の警察は優秀だから、それは難しいだろう。
殺せなくても勿論構わない。
次の人間を送るだけだからだ。」
―――緋識さんは、彼女のような人間を救いたいという理由で殺人を犯しました。
あなたも義憤の為に、暗殺を指示したのですか?
「人を殺すことが、世の為人の為になることなんか、あるわけないだろう。
私が人殺しをさせるのは、ビジネス、
金の為、
私が儲ける為だ。
それ以外、
他人が死のうが捕まろうが全く興味はない。」
………怒りのあまり、キーボードを殴りつけてしまったので、これ以上返信はできなかった。