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彼らが人を殺す理由  作者: 真西七海
4/12

希望の為

師弐咬しにがみ 彷壹ほういちの場合


師弐咬は四十代後半の男性。

引き締まった体のおかげか、年齢より若く見える。

師弐咬はこれまでの殺人鬼とは違い、警察に捕まってない。


その理由は、彼の手口にある。

医者である彼は、病死に見せ掛けて、

次々と患者を殺しているのだ。

そして、未だバレてはいない。


「あなたは作家先生だそうで、お若いのに勉強家でいらっしゃる。私のことはどこで知ったのですかな?」


―――医者の友人がいまして、医者のネットワークでは有名だそうですよ?

私が、その………


「殺人犯?」


―――失礼、の取材をしていると知って、友人があなたを紹介してくださいました。


「なるほど………理解しました。

私の話があなたの創作に役立つとは思えませんが、私でよければお話ししましょう」


―――ありがとうございます。

早速ですが、あなたは何故、人を殺したのですか?


「そう、頼まれたから、ですよ」


―――頼まれた?


「ご存知かも知れませんが、私は安楽死を望んだ患者に安楽死を処方しているのです。」


―――安楽死?


「えぇ

患者本人が望んだ場合に、処置しています。

本人以外では、例え家族からの要請だったとしても、お受けしません。」


―――なぜ、安楽死を処置しようと?きっかけは何だったのですか?


「きっかけは………もう随分と前のことになりますが、病気で苦しむ一人の患者がいたのですが、毎日毎日病院のベッドの上で、痛い、苦しい、辛い、先生もう死なせてくれと嘆いておりました。

彼女の容態は重く、治る可能性はとても低かったのですが、ゼロではなかったので、私は毎日の様に彼女を励ましておりました。


ですが………魔が差したんでしょうね


その日機嫌の悪かった私は、思わず『そんなに死にたいなら死なせてあげようか?』とつい言ってしまったんです。


そこで彼女も、死ぬことを恐怖して、闘病を選んでくれるかと思ったのですが


『ありがとう先生…ありがとう』と泣いて喜んでいました。


私は………あれほど幸せそうな人間の顔を見たことがありませんでした。


それが最初です。


末期症状の患者さんが多かったのですが、

今では、精神病患者の方が多いですね。


『死なせてあげるよ』と言ったときの皆さんの幸せそうな『救われた』というよな顔を見る度に、医者冥利に尽きると感じます。

ま、やっていることは真逆ですが」


―――皆さん、死を望んでいると?


「いえいえ、やはり数の中には『死なせる』と言ったら恐怖した顔をする方がいます。

その方は、確かに『死にたい』とは申していますが、その実『死ぬほど辛いのを何とかして生きたい』というのが本音です。

その方々とは十分話し合って、安楽死はしない方向で話しを勧めます。


私はまだ医者のつもりです。

言われたまま殺す機械ではない。

患者の意思に沿う治療を行う医者のつもりです」


―――安楽死は日本では認められていませんが、先生は安楽死を認めるべきだとは思いますか?


「うーん、確かに、安楽死か認められれば、世の中色々変わると思います。


電車に飛び込む人が減れば、電車の遅延も減り、

部屋で首を括る人が減れば、嘆く大家さんも減るでしょう。


保険の制度なんか、大幅に変わるかも知れませんね。


もしかしたら、世の中良くなるかも知れません。


でもね………正直私は反対なんですよ」


―――それはなぜですか?


「死ぬ方は、死んで終わりかも知れませんが、死なせる方は事後処理も色々あるんですよ。


それに、人を手にかけてしまった罪悪感は消えませんし。

安楽死をやらされる医者は大変ですよ


正直私も疲れてしまいました。

私も誰かに死なせてほしいですよ、本当」


―――疲れたのであれば、やめればよいのではないでしょうか?


「既にやってしまったことは消えません。であれば、突き進む他ないのです。


それに、死を望む患者さんはまだ大勢います。

彼らの為にも、私はやめるわけにはいかないのです。


しかし………」


―――しかし?


「日に日に死を望む声が増えている気がしますね。

どうしてこんなに死を望む世の中になってしまったのでしょうか?

私の仕事を増やす方は、いったいどなたなんでしょうか?」


私には答えられない。


確かに直接手を下しているのは先生だ。

だが、先生だって殺したいわけじゃない。

根本的に人々を死に追いやっているのは………『世界』か?


世界が牙を剝いて人々を殺しにかかっている想像をして、空恐ろしくなった。

そんなの、人の滅亡は必然・必至ではないか


「作家先生、申し訳ないですが、そろそろ患者の所に行かないと」


考え事をしている間に、時間が来てしまったようだ。


―――先生、次の患者さんには何を?


診察か治療か、それとも………


「患者のプライバシーに関わりますので、それはお答えできませんよ」


―――失礼しました。貴重なお話、ありがとうございました。


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