存在理由の為
魍魎箱 幇太場合
魍魎箱はニ十代半ばの男性。
失礼を承知で言わせてもらえば、
彼は、とてもとても、とても醜い顔をしていた。
暗がりの夜道では絶対に出会いたくない、そんな顔をしている。
―――あなたは何故、人を殺したのですか?
「オレ、バケモノだから」
――――どういう事でしょう?
「バケモノは人間を殺すモノ。
オレはバケモノ。
だからオレ、人を殺す。」
―――あなたは人間でしょう?
「オレ人間じゃない。
オレはバケモノ。」
―――どうしてそう思うのですか?
「ミンナから、オマエはバケモノだって言われてきた。
親からも言われた。
周りからも言われた。
オレに優しいフリする人も、裏ではオレのことバケモノだって言ってた
ミンナ、ミンナ、ミーンナ、オレはバケモノだって言う」
―――皆があなたを化物と呼んだとしても、あなたが自分のことを化物だと思わない限り、アナタは人間です!
「………ありがとう………そう言ってもらえたのは初めてだ………でも駄目だ!」
―――どうして!?
「オイラ、人を殺しちまったから………」
―――君は殺人を悔いているのでしょう?!だったらまだやり直せる
「作家先生、それは無理だ………
だってオイラ、凄く凄く楽しかったんだ」
―――え?
「オイラは、オイラをバカにする奴、グチャグチャに潰して殺したけど、オイラをバカにした奴らが潰れて死んで逝く様みて、心の底から楽しかったんだ………」
―――君を罵倒していた連中だろ!!そんな連中死んで………
そんな奴ら死んで当然といいかけて、ギリギリで踏みとどまった。
俺はただの取材。
どっちかに肩入れするのは、主義に反する。
「オイラを虐めてた奴が死んだから、楽しい!
先生、それもあるよ。
でも、何より、人を殺すことそのものが楽しかったんだ!
………先生。オイラはこの見た目の所為でバケモノ扱いされた
でも今、人を殺したくてしょうがない、本物のバケモノになってしまった!!
もし、もしも、オイラが出所して、社会に戻る日が来るかも知れない。
でも、オイラは多分、殺しを止められない」
―――どうして!?
「オイラは人殺しが愉しい!!殺りたくてしょうがないんだ!」
―――!
「オイラは見た目の晴天、バケモノだと言われてきた。
そして、実際人を殺してみて、心もバケモノになっちまった
だから、オイラは人を殺し続けるか、人に討たれるかしかない」
―――違う!君は人殺しは悪いことだと思っている!ならば君は人間だ!
「………作家先生、ありがとう。
アンタいい人だ。
こんなオイラを、最後まで人間扱いしてくれる。
もっと早くアンタと会いたかった!
でも、そうはならなかった。
だから、それで物語は終わりだ。」
容姿か?
容姿が醜いだけで、とうしてバケモノだろうか?
誰かが彼を、普通の人間として扱ったなら、彼はバケモノになることも無かったはずだ
彼は確かに醜い。
たけど、だからといって、彼を傷つけてよい権利が、誰にあっただろうか?
「作家先生、オイラね、最期は人の手に掛かって死にたいんだ、バケモノらしく。」
―――君は人間だ!ただの人間だ!!
思わず叫んでしまった
「………作家先生、やめてくれ
俺はもう期待することはやめたんだ。
誰かを信じて、でも、裏切られる辛さはよく知っている。
だから、甘い言葉を信じるより、バケモノでいようと決めたんだ!!」
―――君は他人を信じることに臆病になっているだけだろ!
大丈夫!何とでもなる!何でもできる!
「………作家先生、オイラは何をどう言われても、人殺しは止められない。止めたくない。
釈放されたら、一日一人は必ず殺すよ!
それでも、それでもアンタはオイラの味方になってくれるのかい?」
―――それは………
―――無理だ…………
「作家先生、良かったら書いてくれ!
バケモノが暴れて人間を困らせるけど、
最期にはバケモノが人間に討たれる話!
それを読んだ人が、
どんな目にあっても、バケモノにだけはなっちゃいけないと思えるような物語を!
バケモノは、………オイラだけで十分だ!」
心優しい君よ。
やっぱり君は人間だ
最期まで、優しい気持ちを忘れない、君は人間だ
心無い、君の周囲の人間より、よっぽど人間だ
………俺の魂の叫びは、
声になる事なく消え失せた。
俺は只の取材者だ。
主義を押し付けるのは仕事じゃない。
話を引き出すのが仕事だ。
………ちゃんとできてる気がしないな
―――そろそろ、お時間ですね。貴重なお話、ありがとうございました。
「………ありがとうなんて、生まれて初めて言われたよ、作家先生」
ファーストシーズンはいったんここまで。
ここまでお付き合いいただきまして、ありがとうございました。
19/03/21
ファーストシーズンのつもりでしたが、シリーズ完結とさせていただきます。
お読みくださった皆様、ありがとうございました。