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彼らが人を殺す理由  作者: 真西七海
10/12

番外・助言

空豆そらまめ 枝葉えだはは、俺の高校・大学の先輩で、人気の小説家だ。


空豆そらまめ 枝葉えだは』はペンネームで、本名は違う。


金髪に染めたベリーショートの髪型と、長身痩躯の所為で、男性に間違われがちだが、女性だ。


今では数カ月に一度一緒にお茶して、小説のアドバイスを貰っている。


ちなみに、俺のペンネーム『賀集かしゅう なつ』は、先輩のペンネーム『空豆そらまめ』のお下がりだったりする。


「やあやあ後輩君!待たせたねえ!

元気してたかい?」


―――ども、ご無沙汰してます、先輩


「最近、新しいジャンルに挑戦してるんだって?」


―――まだ、企画段階ですけどね


「でも、取材たくさん行ってるんだろ?」


―――まぁ、取材は


「煮えきらないなぁ!何か悩んでんの?」


―――次の作品『殺人鬼モノ』で行こうといてるんですが、取材したネタを上手く原稿にできなくて………


「へえ!そういうの書こうとしてるんだ!意外だなあ!君は『異世界モノ』しか興味が無いと思ってたよ!」


―――異世界モノは今だって好きですよ………まぁ、何事も経験だと思ってます


「うんうん!そうだよそうだよ!そうやって色々試して、色々書いて、読者にボッコボコにされると、いいのが書けるようになってくるんだよー!」


―――ボッコボコにされる前提なんですね………


「そりゃそうさ!批評されない作品はない!

自分がどんなにおもしろいと思っても、

周りがどんなにおもしろいと言っても、

批判や文句はあるものさ!


ボッコボコにされない作品は、

誰も口答えできないような偉い権威が書いた作品か、

そもそも評価に値しないかの二択だね!


君は権力者になりたいのかい?

それとも、書くことを諦めるかい?」


―――………先輩が言うと重みが違いますね。頑張って精進しますよ


「うんうん!素直に聞いてもらえると先輩としては嬉しいねえ!

でも、君は素直過ぎるから、お姉さん、ちょっと心配だよー!」


―――素直、過ぎる?


「うんうん!素直だよー!共感し過ぎると言ってもいいかな?

今書いてるのは『殺人鬼モノ』でしょ?

書いてる時、気持ち引っ張られちゃわないか、心配ー」


―――深淵を覗くときは深淵もこちら側を覗いている、的な?


「うーん、悪魔と踊れば悪魔になる、かな?」


―――朱に交われば、つまり俺も殺人鬼になると?


「そこまでは言わないよー!

でも、殺人を肯定はしちゃうようになるかな?って」


―――流石に、それも無いですよ!


「ホントにい?じゃあテストするねー


………後輩君はー、人を殺してはいけない理由って、何だと思う?」


―――え?えーと?………それはあまり前じゃないですか?


「『あたり前』!実によい答えだ!どうしてあたり前なのか、お姉さんに説明してくれたまえ!」


―――え?だって、大事な人が殺されたら悲しい想いをする人がいるでしょう?


「なるほどなるほど!じゃあ悲しい想いをする人がいない、そんな人なら殺していいってこと?」


―――いやいや、それは駄目でしょう!当の本人が死にたいわけでも無いのに、勝手に命を奪う権利はないでしょう?


「うんうん!じゃあ自分で死にたいと思っている人なら、殺していいの?」


―――それは………いややっぱりだめです!


「なんで?」


―――それは………そうだ!将来!将来やっぱり生きたいって思う日が来るかも知れないじゃないですか!だからやっぱりだめです!


「なるほどなるほど!将来ときたか!

でも将来だったら、今は善良な一般市民でも、将来稀代の大悪党になる可能性だってあるじゃん!それは殺しておかなくていいの?」


―――可能性があるからといって、流石に暴論ですよ?別に今何か犯罪したわけじゃないでしょ?


「つまり、罪を犯した人なら殺していいと?」


―――うっ………死刑制度賛成か反対かっていうと、論題がずれる気がしますが…………


「死刑を宣告されたらOKと?」


―――いやOKって………死刑ってそういう判決ですし………


「じゃあ罪は犯したけど、逃げて捕まって無い人は?」


―――いや、別に『捕まらなければ何やってもいい』ったいうのは違うでしょ?


「嘱託殺人なんて事件もあったねえ!君はアレを聞いてどう思った?」


―――どうって、どうって…………


「もし、君が第二次世界大戦の頃に生まれたとして、人を殺すのは良くないからやめましょうって、世間に声高に言える?」


―――だって戦時中は………


「戦争してたら、敵の人間を殺すことはOK?」


―――いや、OKってことはないけど………


「もっかい聞くよ?人が人を殺してはいけない理由を教えて?」


………わからない。わからなくなってしまった。


―――先輩、降参です。俺には人が人を殺しては行けない理由がわからなくなりました。


「ふふっ。やっぱり君は素直で可愛いなあ!

お姉さんやっぱり心配だよー!」


―――ちなみに、先輩は『人が人を殺してはいけない』理由、何だと思いますか?


「え?無いよそんなもん」


―――………え?


「人が人を殺してはいけない理由なんて無い、そう言ったのさ」


―――………え?先輩まさか


「それは早とちりだよー君!

私は、人を殺してはいけない理由は無い!と言ったけど、殺人を肯定しているわけではない」


―――??


「『人が人を殺してはいけない』のは理屈じゃなく、感性なのさ!」


―――………感…性?


「そう!感性!!

私は誰かを殺したくない!

誰かに殺されたくもない!

誰かが誰かを殺すのも、殺されるのも嫌!

私が嫌だから人殺しはダメ!以上!!」


―――………え?そんなんアリですか?


「アリでしょうー?何かダメ?」


―――だって感情論ですよ?


「感情論の何が悪いのよ!

そもそも『善悪』とか『正誤』とか、国や土地が変われば変わってくるし、時代が違っても変わってくる。絶対のモノサシなんか無いのよ!


『理屈』や『理由』なんて自分の感情を正当化する為の道具でしかないんだから


音楽を聞いたら楽しくなる!

美味しいご飯を食べたら幸せになる!

好きな人とは一緒にいたくなるし、

好きな人に振られたら悲しくなる!

応援してる野球チームが負ければ悔しくなる!


音楽を聞くのは正しいから聞くの?

スポーツで負けるのは何か罪になるの?


違うでしょ?


音楽好きな人が、音楽聞かない人に、良さを語る為に聞きかじった学術的知識を披露してみたり、アーティストの活動規模を語るの。

そこで初めて理屈がくっつけられるの!


好きな女の子と付き合う為に、自分が以下にいい男かアピールするとき、理由がつけられるの!


嫌いな男と別れる為に、相手がいかに悪いか罵倒するとき、理由がくっつくの!


人間はまず、感情ありき!

感情あっての人間なの!」


―――いや、流石に感情で生きるっていうのは間違いでは?


「まーた勘違いしてるー!

いいかい!思ってダメな感情なんか一個もないんだよ!一個もよ!


ただし!取るべき行動はよくよく考えてから行動すること!」


―――??


「例えば君が、編集さんに書いた小説をボロクソに馬鹿にされて『チクショウ!アイツぶっ殺してやる!!』って思ったって、別にそれはいいの」


―――いいの!?


「いいのいいの!

ただし!だからといって

実際に夜道待ち伏せてナイフでグサーっとする、これはアウト!」


―――………何となくわかりました


「恨みも辛みも、妬みも嫉みも、人間の大切な感情。

売れたい、もてたい、多いに結構!


自分の心を偽っちゃいけない!

かといって無遠慮不思慮に振る舞ってもいけない!


編集さんのこと『チクショウ!アイツぶっ殺してやる!!』って思った


だから夜道でグサー!とする、じゃなくて、

だから次の原稿では凄いの書いて見返してやるってするの!


どんな風に行動するか、

ちゃんと考えて、選んで、

さらに実行していかないと、ね!」


―――なんか、流石先輩ですね


「はっはー

君のように調子よく先輩をおだててくれる後輩はとっても嬉しいよー!


お礼ついでに、アドバイス!

君がこれから書くものについて『怖い』『嫌だ』『助けて』っていう普通の感情は、ニュートラルに持ってないといけないよ!


間違っても『殺人鬼万歳』なんて書こうものなら、間違いなく世間様からボッコボコにされるからね!


思いもよらない展開は好まれるけど、

共感できないこと、倫理に反することを並べられても、読者は置いてけぼりくらっちゃうからね!」


―――肝に銘じておきます


「ま、中身がおもしろくなくても、世間様からボッコボコにされるけどねー」


―――………『ボッコボコ』好きですねぇ………


「『ボッコボコ』っていう韻、好きなの!

『ボッコ』で詰まって打ち上がる感じから『ボコ』で、すっと滑り込んで刺さる感じが好き!!」


―――聞いてません


「世間様が君の物語をボッコボコにしても、私は大切に読むよ!

私は君の先輩でもあるけど、

私は君のファンでもあるからね!」


そうやって真正面から言うのは反則ですよ………

………恥ずい


―――そろそろ時間ですね。先輩、今日はありがとうございました。ではまた!


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