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終末の笛吹き男  作者: 水月一人
第二章・愛と嘘 - AI & Lie.
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何も悪いことしてないのに

 職員室を出ると、廊下は朝登校してきた時よりもずっと蒸し暑くなっていた。暦の上ではもう7月、梅雨が明ければ夏がすぐにやってくる。幸い、ここ美空学園は最近出来た学校らしく、教室にクーラーが無いということはないようだが、廊下は稼働していないようで、ムワッとまとわりつくような湿った空気が辺りに充満していた。


 窓の外を見れば一限が体育なのか、短パン集団がグラウンドで柔軟体操をしている。人生の殆どを全館空調の世界で過ごしてきた上坂は、早くも帰りたい気分になったが……振り返れば職員室の前で縦川がにこやかに手を振っている。流石に彼に迷惑をかけるわけにもいかず、ため息を吐くと担任の鈴木の後を黙ってついていった。


 自画自賛するつもりではないが、上坂は今更高等教育を受けなければならないような学力はしていない。ついでに言ってしまえば、この国の義務教育は中学で終わってる。だから高校に無理矢理通わされる謂れはないし、鷹宮の家ではそうしていた。


 それが突然方針転換をしてきたのは、やっぱり監視が目的なのだろうか。


 上坂は、別にそんなことしなくても、逃げも隠れもしないし、社会に迷惑をかけるつもりもないから放っておいて欲しかったが、多分、この国の上層が、上坂にまだ利用価値があると思っているか、飼い殺そうとしているのだろう。この学校自体、少なからず彼らのそういった腹積もりがあって作られたのだろうし……


 鈴木が通り過ぎる度に、廊下に出ていた学生たちが慌てて教室に入っていく。そろそろホームルームが始まるという、どこの高校でも見かけられそうな光景である。実際、彼らは少年犯罪者、もしくは超能力者と言われなければ、見た目に変わりがあるわけでもなんでもない。


 この学校の規模からして、生徒数は3~400人と言ったところだろうか。学校の大きさとしては普通だが、全員がワケありと考えれば、その数は多いのか少ないのか。そして、その中に果たして本物の超能力者はどのくらいいるのだろうか……


「ねえねえ、あんた。あんた、ここに来たってことは、やっぱろくでもない力を持ってるの?」


 そんなことを漠然と考えながら黙って鈴木の後に従っていたら、職員室で一緒になったクラス委員長の女生徒が話しかけてきた。縦川の知り合いらしいが、彼と話していたときは少し大人びて感じたが、今は年相応な感じがする。なんというか蓮っ葉と言うか、あけっぴろげと言うか、こっちの方が普段の彼女なのかも知れない。


 感想はともかく、彼女の言うろくでもない力というのは、超能力のことだろうか。仮に有ったとしても、出来るだけ隠そうとするものだと思うが、この学校だとこの手の話はオープンなのだろうか。


「持ってない」


 上坂がぶっきらぼうにそう言うと、がっかりした感じで彼女は答えた。


「なーんだ。もしかしてお仲間が増えたのかと思ったのに、使えないわね」

「……そういうお前はどうなんだよ。何か持ってるの?」

「もちろん! ……って言いたいとこだけどね。残念ながら今のとこ私には何の力もないわ」

「……残念? 残念ってことはないだろう。超能力なんて、無いほうがいいに決まってる」

「どうして? あったら楽しそうじゃない。私も早く目覚めればいいのに」


 まさかそんなことを言い出すやつが居るとは思わず、上坂は面食らった。超能力なんてあったところで、変なやつが近寄ってきたり、こうしておかしな施設に閉じ込められたり、ろくな事がないではないか。


 上坂はそう思っていたが、しかし考えようによったら、案外こんなものなのかも知れない。中高生にとって超能力というものは、危険だなんだと考える前に、映画や漫画みたいでただ格好いいという感覚があるのだろう。実際、目の前の彼女はそんな感じだった。


「出来ればサイキック系希望ね。こうガーッてやって、ドーンって感じのがいいわ」

「……そんなこと出来ても、困るだけだろ。不用意に使うと逮捕されるんだし」

「いやね、悪事になんか使わないわよ。それに、逮捕されるからなんだっての?」


 割と物騒なことを言い出した。アンタッチャブルな奴なのだろうかと、上坂が呆れながら眉根を顰めていると、彼女は心外だと言わんばかりの表情で、


「どうせ逮捕されたところで、連れてこられるのはここなのよ? 今更じゃない」

「ああ……そういうことか」

「何も悪いことしてないのに、こんなとこ通わされてさ。私だって超能力の一つや二つ貰ったっていいじゃない」


 中々思い切った考え方をする奴だが、言われてみると確かにそうかも知れない……上坂は苦笑しながらそんな彼女に同意した。ところで、


「何も悪いことしてないんなら、なんでお前はここに入れられたんだ?」


 上坂がそんな疑問を口にすると、彼女は一瞬だけしまったと言った感じの表情を見せてから、すぐに素に戻って、素っ気なくこういった。


「別に。色々よ」

 

 そして彼の目をじろりとの覗き込むように見つめながら、


「あんた、超能力の話はいいけど、そういう話をみんなにすると嫌われるわよ。ここに居るのは大抵ワケありなんだから」

「おまえから話を振ってきたんだろうに……えーっと?」


 そう言えば、名前はなんだったか。縦川は確かアンリと呼んでいたようだが……


「アンリエットよ。アンリエット・ブラン。女性に名前を聞くときは、まず自分から名乗るのが礼儀よ。日本の子はみんなそうだけどさ」

「そうかい、そりゃ悪かったよ。上坂だ。よろしく」


 彼が手を差し出すと、アンリはその手をペチンと払い除けて、


「こっちに合わせてちゃんとフルネームを言うべきね、上坂一存(こうさかいちぞん)君。縦川さんの知り合いじゃなかったら許さないところよ」


 彼女はまるで子供を諭すみたいに上から目線で言ってきた。クラス名簿でも見たのだろうか。どうしてフルネームを知ってるんだろうと思いつつも、彼は自分も悪かったかなと思い、


「この名前、あんま好きじゃないんだよ。誤読っぽいだろ?」

「そうなの? 私にはよくわからないけど」

「フルネームを名乗ると、大概聞き返されるんだ。けどまあ、悪かったよ。フランス人のおまえには関係ないもんな」

「意外と素直ね。それじゃ改めてよろしくね」


 そう言ってアンリは手を差し出してきた。ここはペチンと叩き返すのがお約束なのだろうが……少し悩みながらも、彼が素直に差し出された手を握ると、彼女は満面に爽やかな笑みを浮かべてニッコリとしてみせた。


 仕事で培った営業スマイルだろうが、これをやられたら、高校生男子なんかみんなイチコロだろう。クラス委員長だそうだが、これだけ屈託なく笑えるなら、多分、人望があるんだろうなと思っていると、彼女はそわそわしながら話題を変えた。


「ところで、あんた。縦川さんとはどういう関係? 名字が違うから、兄弟じゃないんだろうけど。親戚か何かかしら?」

「……他人のプライベートに首を突っ込むのは駄目なんじゃなかったのか」

「いいじゃない、これくらい。それとも何か言えない理由でもあるの?」


 そう言われると特に無い。まあ、人によっては説明が面倒臭そうだが、彼女ならそんなに突っ込んでこないだろう。


「ちょっとワケありでね。あの人の寺に世話になってるだけだよ。親戚じゃない」

「ふーん、そうなんだ。お寺? お寺に住んでるの? 縦川さん、お坊さんだって聞いてたけど、本当なんだね。へー、びっくり」

「なんだ、知らなかったのか?」

「うん。仲良しって言っても、店員とお客さんの関係だもの……それにしても、本当にお坊さんだったんだね……ねえ、あんた。衆道に興味ある? お坊さんはみんなウタマロって本当?」

「おいこら」

「冗談よ冗談。いちいち真に受けないでよね」


 そんなこと言ってはいるが、興味津々と言った表情は隠しきれない様子だった。多分、半分くらいは本気なんじゃないだろうか。上坂は自分の名誉のためにも、ここは強く言っておかねばならないと、


「冗談も休み休み言わないと、おまえがこんなこと言っていたって、和尚にチクるぞ。あの人、善人そうだから、きっとおまえのこと素直ないい子だって思ってるだろうに」

「うっ……縦川さんに言うのはやめてよね。本当に冗談なんだから」

「冗談に聞こえないんだよ」

「ま、実際のところ思ってないわ。(ワタシ)的にはホモよりもノーマルのほうが嬉しいもの。相手が男の子にしか興味ないんじゃ、私に勝ち目はないわよね」

「なんだ? もしかして、あの人のこと好きなのか?」

「ええ、もちろん好きよ。だって格好いいじゃない」


 格好いい……? その気持ちは良く分からなかったが、


「それに、お寺持ってるんでしょ? 玉の輿よ玉の輿!」


 こっちの方は良く分かった。話してる内にだんだん分かってきたが、意外と俗物的な女である。


 しかし、詳しいことはよく知らないが、日本のお寺というものは全部、私物ではないんじゃなかったか。総本山から預かってるだけで、後継ぎがいなければ返さなければならないはずだ。それに、縦川は金なんか持ってないだろう。いつも株ですっからかんだし、金目当てで付き合ったところで、持っているのは借金だけだ。


 まあ、知ったこっちゃないので、言わぬが花だろう。上坂は黙っておくことにした。


「よーくわかったよ。和尚にはお前が財産に興味津々だったって伝えておいてやろう」

「ちょっと、やめてよね! ホントにジョークが通じないやつね、あんた、性格悪いって言われるでしょ」

「お前に言われたくないよ」

「もう、本当に違うんだから……そう! あんたが縦川さんの知り合いだから、少しでも早く学校に馴染めるようにって、私の気配りよ、気配り」

「わかったわかった。もう、そういうことにしておいてあげるから」

「本当なんだから……」


 アンリは苦し紛れにそう言うと、目玉をぐるぐるしながら考えを巡らし、突然、ポンッと手を叩くと、


「そうだわ! それじゃ、黙っててくれる見返りに、あんたがいち早くクラスに溶け込めるように協力してあげるわ」

「え? ……いいよ。何もしないでくれ、頼むから」


 悪い予感しかしない。しかし、アンリは彼の意見なんてお構い無しで、


「そうと決まれば話は早いわ。あんたが到着する前に、クラスのみんなに凄い転校生が来るって教えてあげなきゃ」

「ちょ、こら、やめろよ? あまり目立つようなことはするなってば」

「大丈夫よ、みんなノリいいから、すぐに乗ってくれるわよ。初日からボッチなんて寂しいし、あんたも縦川さんに心配掛けたくないでしょう? 任せてちょうだい。それじゃ先生、お先に失礼します」

「おい、こらっ!」


 アンリは一人で納得すると、上坂の制止を聞きもせずに廊下を駆けていってしまった。上坂が大声で叫ぶと、聞き慣れない声に気づいた他のクラスの連中が、興味津々に廊下に顔を突き出してきた。


 上坂はバツが悪くなっていつもの渋面を作ると、先を歩いていた担任の鈴木に隠れるようにして廊下を進んだ。それにしても影が薄い教師である。つい今までその存在を忘れてしまっていたくらいである。


「心配いりませんよ。彼女の言う通り、みんないい子たちですから、上坂君もすぐに慣れますよ」


 いや、鈴木の存在の薄さについて考えていただけで、そんなこと露ほども考えていなかったのだが……上坂は黙ってうなずいた。


「委員長さんも、本当に君の気がほぐれるように、楽しく振る舞ってくれてたんだと思いますよ。この学校に来る子は大概、初日は緊張してるものですから」


 そう言えば、そういう特殊な学校だったのをすっかり忘れていた。アンリも言っていた通り、超能力者が集められたような学校なのだ。そうじゃなくても、万引きだのイジメだので家裁に送られたような連中だ。一般人ならビビってガチガチになってもおかしくないだろう。


 それにしても、彼女はあっけらかんと話していたが、超能力のことを学校はどう認識しているのだろうか。興味が湧いた上坂は、担任に尋ねてみることにした。


「能力者ですか……? ええ、彼女も言っていた通り、能力を持ってない生徒もたくさんいます。実は、彼らは少年犯罪者というよりは、東京都に能力者予備軍として目されてる子どもたちなのですが」

「へえ……」


 ということは、東京都は上坂を能力者だと認定しているということである。その能力を教えるつもりも、悟られるつもりもないが……


「……学校はこんなところに超能力者を集めて、何をしようとしてるんですか? 俺は他人の研究のためにモルモットにされるのは御免なんですが」

「ふむ……」


 上坂が辛辣にそう言い放つと、鈴木は立ち止まって振り返り、首を傾げながらこめかみに指を当てて言った。


「上坂君。あなたはこの国の犯罪者の再犯率をご存知ですか?」

「いいえ、知りません」

「平成19年度の犯罪白書によれば、この国で起きた犯罪の6割が、犯罪者全体の3割に満たない再犯者によって引き起こされてるそうなのです。言い換えると、7割の人はもう二度と罪を犯さないのに対し、3割の人はまた罪を犯す危険性があると言うことです。そしてそういう人たちによる犯罪が、この国の犯罪の過半数を占めている。


 つまり、その3割の人達の犯罪を食い止められれば、この国の犯罪は半減するということです。これは相当な数字ですよ? だから近年では、防犯のために刑罰を重くするのではなく、刑務所の出所者に対する再犯防止の取り組みの方に重点をおくようになったんです。そうした方が効率がいいですからね。


 それで調べてみると、どうも犯罪を繰り返してしまう人は、ただ凶悪なのではなく、社会にうまく適応できない発達障害だったり、その犯罪に対する興味が異常に強い、例えば薬物中毒のような依存症だったりと、精神疾患者のような傾向が強いことがわかったんです。つまり、犯罪者に必要なのは重い刑期よりも、心の治療だったんですね。もちろん、中には治療が不可能なとんでもない極悪人もいるでしょうが……


 刑務所や拘置所では、今そういう取り組みを行っていると言うわけです」


 鈴木は少し脱線したかなと言った感じに話を区切ると、また話し始めた。


「あなたが懸念している通り、この学園は超能力の研究をしていますよ。それがどういった現象か、どうすれば防げるのか、分からなければ対処のしようがありませんからね」

「……つまり、再犯抑止のための研究だと?」

「その通りです。目的が防犯ですから、人道に反するようなことはもちろんしていません」

「そうですか……それで何か判明したんですか?」


 鈴木はこっくりとうなずき返すと、


「その仕組みはさっぱりなのですが、ただ一つ、超能力者とはAI感応者のことではないか……と言うことが分かりました」

「AI感応者?」


 どういう意味だろうかと上坂が首を捻っていると、


「我々の研究員が超能力者が引き起こす現象を詳しく調べてみると、あることに気がついたんです。どうもこの超能力としか思えない現象は、人ではなく、AIが引き起こしているのではないかと……


 元々超能力は、能力者の感情の爆発などに呼応して起こる現象だったから、人間の脳にばかり注目していたんですが、いくら調べても分からなかったもので、だったら発生源ではなくて、その現象の方に着目しようと考えたんです。


 例えばサイキックに物体を動かさせて、その物体がどうやって動いているのか、その物理現象自体を調査してみたんです。するとその物体は、超能力者が直接どうこうしたのではなくて、周囲にあったスピーカーが引き起こした共振現象によって動いていたんですよ。


 もちろん、スピーカーが勝手にそんなことをするわけはなく、誤作動だったわけですが……そこで我々もあっとなったんですよ。今のスピーカーは、ほとんどがスマートスピーカーで、AIが搭載されている。それどころか、今の御時世、ネット家電じゃないものを見つける方が難しいじゃないですか。


 そして、この現象は東京に特有の現象……東京にしか無いものといえば、汎用AIしかない。それで、もしかしたら汎用AIと能力者が通信を行っているんではないかと……」


「……通信を行っていたんですか?」


「いいえ、残念ながら。最初に言った通り、その仕組みはさっぱりなのです。能力者が何か電波を発したり、逆に汎用AIを搭載した機械がそうしていたりということはありませんでした。そもそも、能力者は近くにネット家電さえあれば、それを誤作動させることが出来るみたいです。今のところ、汎用AIは関係ないようなんです。


 ただ、これが隕石落下後の東京特有の現象と考えると、汎用AIは極めて怪しい存在でしょう? だから私なんかは、ここで何かが起きているんじゃないかと思ってるのですが……上坂君は何か知りませんか?」


 鈴木はそう言って探るような目で上坂を見つめた。多分、彼が何者か知ってのことだろう。上坂はそんな視線を受けても表情を一切変えることなく、じっと相手の目を見つめ返していた。その深淵を見通すような目に、鈴木のほうが気圧されて、ゴクリとつばを飲み込むと、彼は諦めたように肩をすくめてから続けた。


「そんなわけで、能力者はAIを誤作動させていることだけは分かりました。だからそれを避けるようにすれば、彼らは能力を使うことが出来ず、犯罪を犯すこともなくなるはずなんです。


 けれど、そんなこと不可能でしょう? 家の中ならネット家電を無くしたり、スマホを使わないようにすることは出来るかも知れません。ですが、外の世界ではそうもいきません。彼らに一生家の中で過ごせとはいくらなんでも言えませんからね。


 ところが、生きていく上でどうしても避けられない状況なのに、彼らが感情を抑制できなければ、能力が発動して犯罪者になってしまう。ある意味彼らは被害者ですよ。子供が癇癪を起こし感情を爆発させるなんて、当たり前のことじゃないですか。おまけに、彼らはほとんどが、家庭環境や社会生活に何らかの問題を抱える発達障害児や精神疾患者だったんです。そんなのを責めてもいいことなんて何一つないですよ。逆に彼らには保護が必要でしょう?


 そこで、防犯の意味を兼ねて、この学園が設立されたわけですよ。超能力犯罪は、自分自身の弱さを見つめて、精神的に安定すれば避けられる犯罪なのです。この学園の設立趣旨は、そんな彼らが自制心を養うことを手助けするのが目的なのです。だから、ここにいる子達はみんな、セルフコントロールが出来るようになれば、いつでも出ていくことが出来るんですよ。まあ、あなたには必要ないでしょうが」


「それじゃ、ここの生徒は閉じ込められてるわけじゃないんですか」

「はい。彼らは犯罪者じゃありませんから、ちゃんと社会の中で治療が行われるべきです。だから寮ではなく、家から通ってる子も大勢いますしね。あなただってそうでしょう?」

「なるほど」

「気になる点があっても警戒せずに、安心して通ってください。そして出来れば私たち教師のことも、信用してもらえると嬉しいですね」


 そう言って鈴木は話を切り上げると、また廊下を歩き始めた。予鈴が鳴ってからもう大分経ってしまったから、廊下にはもう生徒たちの姿は見当たらない。少し足を速める彼の後を、上坂は遅れないようについていった。


 そして歩きながら考えた。


 なるほど、AIが何かをやってるのは確かだ。鈴木たち、この学校の者のアイディアはいい線をいってるだろう。


 だが……それじゃ自分の能力(じかんていし)は一体なんなのか。


 その答えは上坂自身も説明出来なかった。


 東京都の命令で仕方なく通うはめになったが、ここに来れば、少しは考えの足しになるかなとも思ったが、今の所どうやら望み薄のようである。鈴木はもっと教師を信用してくれと言ったが、さっき会った外田のような威圧的なやつもいるし、警戒は怠らないほうがいいだろう。


 彼はあくびを噛み殺しながら、鈴木のあとをついていった。やはり学校なんて退屈な場所は自分の柄ではない。どうせ自分の能力が目的なら、いっそ研究職に志願してみるのも悪くないのでは……


「あ! 鈴木先生! よかった、間に合った」


 そんなことを考えていると、遠く背後の方から声がかかった。


 二人が後ろを振り返ると、職員室の方から手を振りながら、別の教師が走ってくるのが見えた。どうしたんだろうと思っていると、その教師の背後に不貞腐れたような顔をした男が見えて、上坂は目を丸くするのであった。


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