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終末の笛吹き男  作者: 水月一人
第二章・愛と嘘 - AI & Lie.
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そして世界は混乱した

「汎用AIの登場以降、労働という概念が変化してしまいました。今や労働はAIが行うものであり、人間が労働をするのは非効率なだけなのです。


 汎用AIは自分で考えて行動することが出来ますから、ロボットに組み込めば人間が操作する必要がありません。おまけに、AIは一度獲得した知識を、他のAIと共有することが出来ます。


 しかもAIは自らをバックアップすることが出来、いくらでも替えが効きます。人間は死んだらそれまでですが、ロボットに搭載されたAIなら、壊れてもまた作り直せばいい。それならどんな危険な作業でも行えます、例えば原子炉の中とか、火山の火口とか、深海とか。文字通り使い捨て出来ますからね。


 更に機械ですから、疲れないし眠らないし、エネルギーがある限り動き続けます。おまけに給料も要りませんから、需要が続く限り生産し続けることが可能でしょう。


 ところで、AIに炭鉱夫の真似事をさせたら、エネルギー問題は解決すると思いませんか? 日本には確かに資源がありませんが、それは石油のように商用利用可能な低コストの資源がないと言う意味であり、戦前戦後は石炭で自給自足していたではありませんか。それは今でも地中深くに残されています。


 石炭液化技術は大戦中からありましたが、21世紀になって更に洗練されて、今ではバイオ燃料よりも高効率になっている。あとは輸送コストだけですが、ガスにしてしまうか、国内で生産してその場で使うのであれば、ほとんど無視できます。


 あら不思議。気がついたら、日本は資源産出国になってるんですね。これで困る国がどこか、わざわざ言わなくてもおわかりでしょう」


 人類は元々、木を切り倒して燃やしていた。


 まだ産業革命前には、暖を取る用途で木炭を作っていた。石炭の存在は知られていたが、それを掘り出すコストが割に合わず、特に重要な資源だとは思われていなかった。


 石炭が使われ始めたのは産業革命期。海洋国家として覇権を握った大英帝国は、造船のしすぎや産業革命期の需要増で、ついに国土にある全ての森林を失ってしまった。


 それで最初は仕方なく石炭を掘り始めたのだが、当時は折しも蒸気機関が発明された直後で炭鉱の採掘効率があがっており、やってみたら木炭よりも低コストで産出出来るようになっていて、十分に採算の取れるエネルギー資源になっていた。


 すると安くて高効率の燃料はまたたく間に欧州中に広まっていき、こうして石炭は世界中で採掘され、発電や機関車を動かす燃料として必要不可欠な資源となった。


 それが石油に切り替わったのは、戦後、中東諸国で良質の油田が次々見つかったからだ。それまで、石油は内燃機関を動かすガソリンを作るために重要な資源ではあったが、産出量が少なく貴重だったために、コスト面で石炭に及ばなかった。


 ところが、中東で見つかった油田の産油量は膨大で、無尽蔵と言えるくらいに石油が採れた。こうなると、固体の石炭より液体の石油の方が、採掘や輸送に適しており、あっという間に炭鉱は駆逐されてしまったのだ。


 何しろ、油田はパイプを刺してバルブをひねれば、勝手に石油が吹き出す上に、パイプラインを作ってしまえば、これまた勝手に目的地まで流れていってくれる。人的コストはほぼ皆無だ。こんなものをタダ同然で売られてしまったら、炭鉱はやっていけないだろう。


 しかし、それでも近年、冷戦後の開発途上国の発展のために石油の需要が増すと、原油価格が高騰し、ついにオイルシェールの採掘コストを上回って、アメリカではシェールガスが商用生産されるようになった。


 世界のエネルギー需要は近年増大するばかりで、今ではアメリカがシェールガスの輸出を行おうと、売り込みをかけているくらいである。


「結局、人間ってのは経済的な理由だけで、その時々に使われる資源を選んでいるのです。もう何十年も地球温暖化が叫ばれている中で、どうしていつまでも化石燃料を燃やし続けているのかと言えば、それはコストが安いからという理由以外にありません。


 だからもし、太陽光発電が火力発電の効率を上回ったら、地球温暖化問題は勝手に解決されますよ。自分の家のことだけを考えてください。もしも電力会社から電気を買うより、太陽電池を付けた方が安くつくとなったら、切り替えを検討するでしょう? ガソリン車よりもEVの方が省エネで航続距離も長ければ、乗り換えるでしょう? 環境問題がどうだとか、誰もそんなこと考えませんよ。


 そしてその時期は近づきつつあります。これから太陽電池は年々発電効率が良くなって、ランニングコストも下がっていくでしょう。そうなると、産油国は太陽電池の発電能力とにらめっこして、原油価格を下げざるを得ません。そういう目で改めて見てみると、太陽電池の開発にもっとも熱心なのは、原油輸入量が世界一の中国ですよね。そういう綱引きがあったわけです。


 ところが、そんな時に、日本がタダ同然で石炭を掘り起こす技術を開発してしまったわけです」


 これにより中東はパニックになってしまった。近年、石油依存から脱却しようとしていた国々もあったが、それでも地域的に石油産業が中心である中東諸国で、その主力製品の価値が暴落してしまったのだ。


 間もなく大不況が訪れて、それまで様々な面で優遇されていた税制が廃止、それに不満を覚えた国民が蜂起する。2011年にはアラブの春があり、元々中東諸国では民主化の機運が高まっていた。


 そしてついに、あちこちで戦闘が起き始める……難民が欧州に殺到し、混乱が起きる。そんな中、移民に最も寛容だったフランスで、また大規模なテロが起き、ついに堪忍袋の緒が切れた国民が国境を封鎖しろと国中でデモを起こした。


 この時点まではまだマシだったが、移民に対する不満は周辺諸国に飛び火し、EUが体制崩壊をしはじめ、ついにドイツではクーデターが起きる。犯人は東欧出身の若者で、EUの中心として、一人勝ちしていたドイツに対する不満が集中した結果だった。


 あちこちで軍隊と市民が衝突し、欧州は混乱の極みに達した。


 そんな中、事態の収集に乗り出したのはやはりアメリカだった。


 アメリカは中東に軍を派遣し空爆を行い、またEU崩壊を目論んで混乱を助長していた市民グループをテロリストと断定し、これを一掃しようとした。そして新しく開発したばかりのドローン兵器を投入し、またたく間に事態を解決してみせたのである。


 この際、アメリカが使用したドローンとは、中東の戦場で猛威をふるった人間が遠隔操縦した無人機のことではない。撮影用の小型ドローンにサブマシンガンを装備し、編隊を組ませて、自律的に作戦を遂行するAI兵器だったのだ。


 アメリカのドローンは、テロリストの顔を認識して市民と区別し、テロリストだけを狙った。1編隊で100台以上のドローンが群体で飛び回るから、一台落とされたところでなんでもない。また、市民の中に未知のテロリストが潜んでいたところで、その人物がドローンに敵意を見せたら、その瞬間に標的をアップデートし、新たな敵と認定するという優れものだった。


「このドローンの登場は衝撃的でした。鳥のように振る舞い、正確にテロリストだけを狙い撃ちし、誤射がほぼ無い。テロリストの方はドローンをいくら撃ち落としたところで、敵にダメージを与えることが出来ないので、一方的に殺られるだけです。まるでSFですよ。


 これじゃお手上げだから、すぐに歯が立たないと悟ったテロ側が投降しました。すると本来ならもっと泥沼になるところを、無益な殺生が避けられたと世界は称賛しました。一方的に虐殺をしていただけなのですがね……


 ところで、この兵器の登場は、別の意味で我々に衝撃を与えました。当時、自律的に物事を判断できる汎用AIは、東京都にしかないと思っていたからです。でも、どう考えてもアメリカのドローンは我々と同じ汎用AIだ。


 もしかして、日本の技術が流出してるのではないか。我々はそう考えました。無論、AI技術は日本よりも、寧ろアメリカが先行していたものですから、それだけで怪しいと思ったわけじゃありません。ですが、アメリカで最初に出てきたのが兵器だったというのが気にかかったのです。


 20世紀の新技術は確かに国家プロジェクトから生まれるのが殆でしたが、冷戦が終わり、国民の目がより厳しくなった21世紀では、最新の技術は民間が牽引するのが普通です。実際、我が国の汎用AIは復興のための通訳アプリから始まりました。それなのに、アメリカでは民間で登場するよりも前に、真っ先に兵器として現れたんです。


 これはおかしいと考えた我々ホープ党は、中東で鹵獲したアメリカのドローンを独自に調査しました。すると思った通り、それは殆ど同じ原理で動いていました。しかし、国内を調査しても、技術が漏洩した痕跡は見つからない。じゃあ、どうやってアメリカはこの技術を手に入れたのか……それを探していた時、我々は上坂君が生きているのを発見したんです。彼はCIAや国防総省とは全然違う機関に、研究者として拘束されていたんです」


 縦川は度肝を抜かれた。そんなSF地味た話とても信じられなかったが、もはや目の前の男が嘘をつく理由などどこにもないだろう。彼の言ってることは全て現実なのだ。


「それじゃ彼はアメリカで兵器を作らされてたんですか?」


 寒くもないのに、縦川の手がプルプルと震えていた。御手洗は、彼が自分の震える腕を真っ赤になるくらい強くつねっているのを、同情的な眼差しで見つめながら続けた。


「そうです。正確には、彼の持つ技術を洗いざらい吐き出させられたんです。これを知った時の我々の気持ちをどう表現すればよいか……多分、今あなたが感じている憤りと同じですよ。


 それで、せめて上坂君だけでも取り返せないものかと、外務省を通じて裏取引を持ちかけました。どうせもう流出している技術ですから、日米同盟を鑑みて友好的に提供するという体で、汎用AIを技術供与するから、代わりに上坂君を返せと。


 米政権とズブズブのリバティ党もこれには同意し、長い交渉の末、最近になってようやく彼の帰国が成ったと言うわけです」


 それで上坂は最初鷹宮の家に居たわけである。死んだことになっているから元の家に帰るわけにもいかず、政府としては表沙汰になると困るから、このまま飼い殺しにしておきたかったのだろう。


 縦川はありえないといった感じに、ゆっくりと首を振りながら言った。


「このことを公表することは出来なかったんですか? 国会でも国連でも、どこでもいいですよ」

「それが出来ないのは、日本人であるならご理解いただけるでしょう。敗戦国日本は様々な理由から日米関係を悪化させることを出来るだけ避けたい。忸怩たる思いでしたが、黙って受け入れる他ありませんでした。


 ただ、天罰でしょうかね。その後、アメリカ国内ではドローンを使ったテロが横行しはじめました。戦争で大々的に宣伝してしまったあのドローンが、どこからか流出してしまったんです。


 兵士は銃の作り方を知りませんが、使い方を知ってればそれでいいですからね。ドローンもAIの部分をいじって、標的を無差別に変えたらそれでおしまいです。


 中東や欧州で猛威をふるったのは数百台からなる編隊だったかも知れません。しかし仮に一台だけだったとしても、武装もしてない市民相手なら、とてつもない脅威ですよ。テロリストはそこを突いたんです。


 我々はよく、自分の国をスパイ天国だと自嘲していますが、アメリカだって似たようなものですよ。20世紀は日本が、21世紀は中国が、それぞれアメリカの成果物をこっそり拝借して、安価な製品を作り上げてるのは知っての通りです。


 つまり、あのドローンはおろか、我々の切り札たる汎用AIも、既にロシアや中国に奪われている可能性が否定できません」


 縦川は目を丸くした。あの、戦争を変えてしまったといって過言でない兵器を、中国やロシアが既に持っているというのだ。彼は冷や汗が吹き出てくるのを感じた。


「それは一大事じゃないですか!」


 しかし、そう言って焦る縦川と対象的に、御手洗は実に落ち着いたものだった。


「一大事です……にもかかわらず、今の所、これらの国はどこもその事実を公表していません。新技術を完成させたら、その度に世界に喧伝して回ってた国々が、これはどうしてだと思いますか?」

「それは……わかりませんが」


 確かにそうだ、どうしてだろう? 縦川はわからないとお手上げのポーズをした。すると御手洗は落ち着き払った調子でこう続けた。


「それで最初の話に戻るわけですよ。木炭、石炭、石油、シェールガスと、我々はその時々で最も経済的な選択をしてきた。ならば使われない技術は経済的でないはずだ。ところが、今まで話してきた限りでは、AI技術が経済的でないなんて、考えられませんよね? 現実に、東京都はこれのお陰で復興費用を賄った上に、必要な資材まで作り出してます。AIの生産力は人間の比ではないのだから、おかしな話じゃないですか。


 ここにからくりがあるのです。AIは確かに工場の生産性を著しく向上させますが、人間が生み出してきた付加価値をゼロにしてしまう。AIが生産したものは、原材料以外の価値がないんですよ。だって、誰も働いていないんだから、給料を払う必要がないでしょう? だったら競争力を最大にするために、生産者は可能な限り製品の価格を下げようとするはずです。ところが、この世のものをなんでもかんでもAIが作るようになってしまったら、競争にならないから付加価値が生まれないことになる。


 物がなんでもタダ同然で手に入るなんて素晴らしいことだと思うかも知れませんが、ここでちょっと経済学のお話をしてみましょう。


 三面等価の原則によると、生産面、分配面、支出面から見たGDPは、どれも同じ値になります。


 生産面とは生産の段階で生まれた付加価値のことです。物を売って得た売上から、仕入れなどの経費を引いたものがこれにあたります。政府が国内総生産(GDP)として発表しているのはこの数字です。


 分配面とは、作って売った利益を分配したもの。社員の給料や株主の配当がこれにあたります。要するに所得の合計のことですね。


 そして支出面は、人は分配して得られた給料で買い物をし、物を消費します。その時使ったお金のことです。貯金をする人もいるでしょうが、これはお金を預かった銀行が投資をするから、回り回って支出になります。


 国内で生産された付加価値と、国民の得た所得、そして消費された額がどれも同じになる。これを三面等価の原則と言うんです。お金が回ってみんなに行き渡るから経済が成り立つんだから、当然のように思えますよね。


 ところが、AIが人間に変わって製品を作り始めると、付加価値が産まれず生産面のGDPがゼロになります。すると分配面も支出面もゼロになりますから、これじゃ経済が成り立たなくなってしまう。


 おかしな話です。我々は、楽がしたくて機械を生み出し、代わりに働かせて、大量生産して物の価値を下げてきた。それを全部機械がやれるようになったら、経済が破綻してしまって人々は暮らせなくなってしまった。これじゃ本末転倒じゃないですか」


 人間が遊んでいても機械が稼いでくれる、そんな都合のいい夢はありえないと言うことだろうか……しかし、そうではないと御手洗は続けた。


「ですが、それは既存の市場経済の話です。実際、東京都はAIをフル活用して復興を遂げ、現在も上手く行ってます。これは何故か? もうおわかりでしょうが、それはベーシックインカムがあるからです。


 今までは生産面で作られた製品に、付加価値が産まれ、物価が決まっていました。ところが、汎用AIの登場でこのやり方はもう上手くいかなくなってしまった。


 だったらこれからは、別の方法で価値を創出すればいい。具体的には、分配面か支出面で物の価値を決めたらいいのではないでしょうか。


 それがベーシックインカムです。政府が国民が潜在的に持つ需要から、どれくらい物が売れるかを予測し、予めそれを買えるだけのお金を配っておく。分配面から価値の創出をし、受給のバランスを維持すれば、経済は今まで通り回ってくれるはずなのですよ。


 なんだか狐につままれたような話ですが、元々、お金というものは政府がその価値を定めただけの、ただの紙切れに過ぎません。やってることは結局同じです。


 これは共産主義じゃないか? と思われるかも知れませんが、我々は財産を共有したりもしないし、国民を義務的計画的に働かせようともしてません。もしも価値を創出できる才能溢れる人がいれば、今までどおり働いてじゃんじゃんお金を稼いでくれて構いませんし、現に今もそうしてる人たちもいますよね、漫画家とか、高級レストランとか、ユーチューバーとか。


 だから共産主義や社会主義とはちょっと違います。ただ、強いて言うならば、資本主義の終焉なんじゃないでしょうか。もう、市場原理で他者を蹴落とし、誰かが一人勝ちするような世界ではなくなってきているのです……


 そう、世界は変わろうとしているんです。アメリカも中国もロシアも、汎用AI技術を持っていながら足踏みしているのは、この資本主義後の社会へシフトすることを、既得権益者が躊躇しているからなんですよ。


 そりゃ、彼らからしてみれば面白くない話ですよね。今まであくせく働いてきて、やっと掴んだその地位が、いつの間にか機械に奪われてて、せっかく溜め込んだお金も、今度からは黙っててもみんなに供給されちゃうんですから。お金持ちほど嫌がるはずです。


 ですが、だからといって何もせずに今までどおりというわけにはいきません。もうAIが自動で生産する世界が現実に訪れたのです。そんな中で無理矢理今の体制を維持しようとするのは、人を奴隷働きさせるようなものです。革命が起きますよ。


 幸か不幸か、東京都は隕石落下で何もかもが破壊され、否応もなくポスト資本主義社会へとシフトしました。東京は、世界のどの国にも先んじて、第四次産業革命時代に突入したのです。アメリカや中国ロシアがまごついている間に、このリードを更に広げなければなりません。


 そのためには、東京のルールを日本全体に広げて、国民全てがベーシックインカムで暮らせる社会を実現せねばなりません。そしてゆくゆくは政権交代を果たし、ホープ党が新しい日本を作っていきたいと思っています」


 そして御手洗は政治家らしくそう締めくくると、熱い眼差しで縦川のことを真正面に捉えながら、真剣な様子でこう言った。


「そのために、縦川さん、あなたの協力が必要なのです」


 縦川は思わずのけぞった。何を言ってるんだ、この男は。


「なんで俺に!? あなたの話は中々面白かったですが、そんなこと急に言われても、はいよろしくなんてなりませんよ。大体、俺はただの僧侶にすぎませんよ?」


 しかし、そんな風に断ろうとする縦川を制して、御手洗は強引に話を続けた。


「いいえ、あなたは自分を見くびってらっしゃいますが、とても魅力的な人材だと思いますよ。ですが、今そんなことを言ってもあなたは靡いてくれないしょうから、本音を申し上げましょう。


 我々があなたに仲間になって欲しいのは、今後、我々が新秩序を作っていくためには、汎用AIの開発者である上坂君の協力が必要になってくるでしょう。その時、たった数日で彼の心を開いたあなたなら、必ず我々の力になってくれると、そう信じているからです。


 ……今日はお呼び立てして申し訳ございませんでした。ご挨拶までに、あなたとお会いしたかったのです。縦川さん……どうでしょう。あなたもホープ党に入党してみませんか?」


 そして彼は政治家らしい、背中に一本線が入った実に綺麗なお辞儀をして見せた。


「今度は、我々がルールを作る側に回ろうじゃありませんか」


 ルールを作る……縦川はそんな空々しいセリフを、心の中でそう思っていながら、どことなく魅力的に感じていた。脳裏には、つい先日死んでしまった旧友の顔が浮かんでいた。そしてその、いつまでも旧弊から抜け出せないでいる弟のことを。


 御手洗の話に乗るつもりは毛頭なかった。だが、時代は変わらなければならない。いや、すでに変わってしまったのだ。それだけは確かだった。


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