制止した時間の中で①
朝起きた時から気分が最悪だった。始めは風邪か何かかなと思いもしたが、すぐにその理由は分かった。外に詰めかけていた群衆。死んだ栄一を罵倒する声の数々。彼はこれらの言葉の中に、嘘を見つけたのだ。
だが、それが何かはわからない。彼はただ、嘘を自動的に発見する。嘘を発見すると、彼の頭は高速で回転し、絶望的に痛くなり、そして能力を発動するのだ……
「栄二郎、おまえが犯人だ」
「違う!」
上坂の言葉にヒステリックに叫ぶ栄二郎。彼のその声が耳に届いた時……
上坂の周囲の世界がぐにゃりと歪んで色を失くし、そして静寂が訪れた。
耳鳴りがするほど静かな制止した時間の中で、上坂はまるで突き飛ばすように栄二郎から体を剥がし、フラフラとする足取りで立ち上がった。栄二郎はその反動にも微動だにせず、その場に不自然な格好でしゃがんでいる。
参列者たちは、上坂の言葉によほど驚いたのだろうか、みんな泡を食ってひょっとこみたいな顔をしていた。鷹宮父の焦点が合わない目が吊り上がり、まるで悪魔にでも憑依されたかのような、ある種異様な迫力を醸し出していた。そんな中で母親だけは、いつもみたいにヘラヘラと笑っていた。
上坂はそんな彼らの間を、もはやその顔に刻まれてしまったような不機嫌な表情で通り抜けていく。
世界は静止し、誰もが微動だにしない中で、彼だけが動いていた。
「嘘は見つけた……あとはこの状況をどう打開するかだが……」
さっきまでの頭痛は嘘みたいに消えていた。
「焦る必要はない。時間はいくらでもあるんだ」
彼はそう言うと、驚愕の表情を貼り付けたままこちらを見ていた縦川の横を通り過ぎて、故人の寝室へと入っていった。
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閑話。
昨日、鷹宮栄一が死んだ日の夜、故人の友人であったという僧侶・縦川は言った。
「君はこの世に超能力者が居るって、聞いたことがあるかい?」
2ヶ月前のある日、栄一と最後にあった日に彼は超能力者を目撃したそうである。彼はそのことを聞いたかと尋ねている素振りをしていたが、上坂はその裏にある考えをすぐに理解した。
縦川は、上坂が超能力を使って、栄一を殺したんじゃないかと考えたのだろう。
「だとしたら、殺す相手が間違ってるだろう」
上坂がその馬鹿げた考えを一蹴すると、縦川は自分の考えを見破られたことを恥じ入って、しどろもどろになっていた。だが、超能力のことを何も知らなければ、そう考えてしまうのも仕方ないだろう。上坂は全然気にしていないと、そう答えた。
それに、その発想自体はそう捨てたもんじゃない。超能力者が殺人を犯したとしたら、確かに何の証拠も見つからないだろうから、もしそこに超能力者の存在が確認されたのであれば、一概に事故死と片付けてしまうのは危険なのだ。
ただ、残念ながら彼は超能力者というものをよく知らないから、根本的な間違いを犯しているのだ。
まず、超能力には発動条件がある。因みにその条件は超能力者によって違う。いつでも便利にというわけにはいかない。
そして、これが重要なのだが、超能力者は人間に直接的な危害を加えることが出来ないのだ。
もし、超能力者が殺人を犯したとしたら、それは必ず間接的な結果となる。例えば、風呂場でなにかの電子機器がたまたまショートして感電死するとか、突然窓ガラスが割れてその破片が飛び散り、偶然に頸動脈を切ったとか……そういう、二次災害的な事故という形でしかありえないのだ。
だから、鷹宮栄一の事件は違うと断定出来る。超能力者がやったものではなく、警察が調べたとおりに、何らかの事故だったのだろう。そもそも、この家に超能力者は居ないはずだ……たった一人を除いては……上坂はそう考えていた。
しかし、ナナの因子と言われたとき、ふと、その可能性もあるんじゃないかと思えてきた。
超能力者は、承認欲求が強い、依存心が強い、精神病質など、精神的に病んでいるものに多い。何故なら、ナナの因子が、そういった性質の人間に取り付きやすいからだ。
思い返せば、この家はそういう人物に事欠かない。あの父親も母親も、そして死んだ栄一だって、十分に有りえただろう。もちろん、栄二郎だって……
そう、この家は追い詰められた人間がやけに多いのだ。
そしてそういった人間が超常の力を得たとき、何を考えるだろうか……自分のことを疑っていた縦川が帰った後、上坂はそのことについて考えていた。もしも栄二郎が超能力者だったら。そんなことを考えながら、彼は眠りについた……
翌朝の目覚めは最悪だった。
寝床から起きようとしたら頭痛がして、最初彼は風邪かなにかだと思った。だが、その頭痛がいつまでも続いて、めまいがしてきて、そのうちこれは少し違うぞと思って、寝床を這い出し、顔を洗いがてら外の様子を見てみて、その理由がすぐに分かった。
家の周りで栄一のネットでの行いを糾弾する人々が大騒ぎをしている。彼は生きている間、国内有数のゲーマーとしてかなりの注目を浴びていたが、それは全部ボットを使ったものだったと言うのだ。
それが許せないと騒ぎ立てる人たちが、駆けつけた警察と揉めていた。中には純粋に栄一の死を悼んでやってきた善人も居たが、そういう人たちもまた攻撃の対象になってしまい、酷い有様だった。
上坂はそれを見て、すぐにこれが自分の頭痛の原因だろうと察知した。そして彼らが言っていることが嘘だと即座に断定した。何故なら……
彼の能力の発動条件は『嘘』だからだ。
彼は嘘に敏感に反応する。嘘を発見すると酷い偏頭痛がして、そしてそれは嘘の度合いによって強くなる。些細な嘘ならそれほどでもないが、もしもそれが決定的に悪意のある嘘であったら、彼の頭は耐えきれない痛みに襲われる。
だから上坂にしてみれば、この痛みが外にいる連中が嘘をついているということを教えてくれているようなものだった。しかし、どうしてこんな嘘が拡散されたのか、それがわからない。
まだなにか決定的な物を見逃しているのだろうか。彼は頭痛に耐えながら、葬儀場となった中庭の端っこで、参列者の一人ひとりをとっくりと眺めていた。
葬儀が始まるといつものように、鷹宮父がマウントを取り始めた。
彼は何かにつけて、自分がイニシアチブを取らないと気がすまない性格だった。参列者たちはそんな彼の性格を知っているからか、出来るだけ彼の機嫌を損ねないようにと、どこかよそよそしい態度を隠さず、そして鷹宮母はそれに慣れきって居るのか、それともとっくに頭がおかしくなってしまっているのか、ヘラヘラと笑ってそれを見ていた。
鷹宮父は絶好調だった。まさか自分の息子の葬式で、その息子の大批判を行うような人間が、この世にいるなんて想像もしていなかった。どうしたらこんなにも自分の息子に対して悪意を持てるのか、はっきり言って、醜悪すぎて正視できないほどであった。
だが、少なくとも彼は嘘をついていない。本心から栄一を憎んでいる。それは、他ならぬ上坂だからこそ分かってしまった。
どうしてあの父親は、ここまで息子のことが気に入らなかったのだろう。普通、血を分けた肉親をここまで憎むなんてことはありえないし、個人的にもそうあってほしくない。
多分、彼は恐れていたのだ。自分とは違う価値観を持つ息子に、自分が負けたと思うのが、彼にとってこの上ない恐怖であったのだ。
何故だろうか。
鷹宮家の先代は広大な土地を残してこの世を去り、相続税対策をしていなかったせいでかなりの税金を国に納めなければならなくなった。お陰で先祖代々の土地の多くを失い、そのことについて鷹宮の祖母は激怒した。
彼女は残った土地……いわば労せずして受け継いだ他人の土地であるのだが……それを活用して事業を起こし、かなりの財産を築くに至った。だがそのやり方は周囲からの批判を浴び、相当の恨みを買い、晩年は誰からも相手にされずひっそりとこの世を去った。
さて、この祖母というのがどんな人物だったのか、伝聞でしかないから想像するしかないが、あの鷹宮父を生み出した人物だと考えれば、なんとなく想像がつくのではないか。
おそらく彼女は、江戸時代からの名家に嫁ぎ、大富豪の妻としての誇りを持っており、自分のことを時代が時代なら一国の姫かなにかだと思っていたのではなかろうか。
当然、自分以外の人間とは身分が違い、そんな神たる自分に対して口答えなどもってのほか、子供は親の言うことを聞いていればそれでいいのだと、支配することを第一に考えただろう。
事業を始めれば社長である自分に酔いしれ高圧的に振る舞い、唸るようにある金で他人を従わせ、弱っている人間がいれば、助けるより寧ろ攻撃の対象が出来たと喜んだのではないか。
そんな振る舞いを菩提寺の住職に窘められると、彼女は自分が攻撃されているとヒステリーを起こし、先祖代々の大事な菩提寺と関係を切ってしまった。その証拠に、彼女は多額のお布施をしている自分に口答えするなど許せないと言っていたはずだ。
攻撃的な人間ほど、攻撃されるとひどく狼狽するものである。攻撃しないとこっちがやられると、無駄に恐怖を感じて、より神経質に行動する。何か口を挟もうとすれば、威圧し、大声を出し、脈絡もなく話題を変え、はぐらかし、とにかく相手を黙らせる。
こういう人間に育てられたら、その子供はどうなってしまうだろうか。
子供の頃から不必要に威圧され、勝手な理想を押し付けられ、分不相応な期待をされ、口答えは許されない。自分の考えを持つことは許されないのに、人生の要所要所で、ことあるごとに難しい判断を迫られる……しかしそれで成功しても手柄は親のものだ。
そんな窮屈な生き方をした子供は、やはり親と同じような運命を辿るのではないだろうか。高圧的で権威主義者で、金や学歴に異常に執着する。その場の勝ち負けだけに拘り、平気で嘘をつき、後でバレても一向に気にしない。それが鷹宮父である。
彼は伝統のある名家に生まれ、父親はどうだったか知らないが、少なくとも高圧的な母親に育てられ、気の休まらない毎日を過ごしていた。名家にふさわしいとされる生き方を強要され、それから外れることは決して許されない。
彼は母親のことを憎んでいただろう。その証拠に、彼女の葬式をあげずに直葬している。普通、いくら生前の本人が菩提寺と揉めたからって、葬式まであげない理由はないだろう。菩提寺に謝りに行くか、それが出来なくても、せめてイオンの葬式くらいはするはずだ。
彼は母親が死んで本心からせいせいしたのだ。これでようやく自由を手に入れた。そしてすぐにこう考えた。これからは自分がこの鷹宮家の家長であり、自分は王様になったのだと……
鷹宮栄一はそんな父親に育てられ、おそらく父親と同じような窮屈な人生を歩まされていたはずだ。東京大学に入り、家業とも言える外務省に入り、エリート官僚として出世コースに乗る。そのためだけに生まれたと言って過言ではないような、勉強漬けの毎日だったに違いない。
ところが彼は社会に出た瞬間に挫折した。親の言う通り外務省に入ったら、そこでパワハラに遭い、心を病んでしまったのだ。
鷹宮父はそれを責めた。自分の息子がこんなことでへこたれるとは情けない、今まで苦労して育ててきたのは、タダ飯を食らわせるためじゃないと、精神を病んでいる息子をいじめ続けた。
そんなことをすれば、息子は余計に社会に出ていくことが困難になるに違いないのに、そうすることしか出来なかったのだ。きっと、それはストレス解消も兼ねていたのかも知れない。鷹宮父の性格を考えれば、外にいくらでも敵が居ただろう。日々たまり続ける鬱憤を、無抵抗の息子をいたぶることで簡単に解消できるのであれば、これを利用しない手はないのではないか。
彼にとって家族とは自分を輝かせるための踏み台でしかないのだ。彼の母親がそうしたように。
だが、その関係はある日唐突に終わりを告げた。
5年前、空から隕石が落ちてきて、東京は困難に見舞われた。その過程で社会はガラリと変貌し、移民が大量に流入し、そしてベーシックインカムが導入された。
それによって引きこもりだった鷹宮栄一は、自分はなんて駄目なやつなんだという自縄自縛の考えを捨て去ることが出来たのだった。穀潰し、うんこ製造機と言われたところで、もう誰の力を借りることもせず食べていくことが出来るようになったのだ。
気楽になった彼は、今まで誰にもカミングアウトすることが出来ず、特に親には絶対バレないように、こっそりと続けていたゲームにのめり込んでいった。高校時代の映研での経験を役立てて、動画を作りユーチューブで公開し、徐々に交友範囲を広げていった。今の時代、家から一歩も出なくとも、友達を作ることは出来るのだ。
その結果、みるみる元気になっていく息子を見て、父はどう感じただろうか。普通なら喜びそうなものだが、彼は寧ろ逆だった。それまでは体のいいストレス解消のためのサンドバックだった息子が、自分に口答えするようになったのだ。
ユーチューバーという職業も気に食わない。こんなのは誰にでも出来るただのお遊びで、社会でも底辺がやるような仕事である。なのに周りにちやほやされていい気になっているのはおかしい。早く目を覚ませ。そう言って息子の足を引っ張ろうとしたに違いない。
だがもはや自分を取り戻した栄一は、父の言うことなど聞き入れるはずもなく……鬱憤が貯まる中でついに息子は父親の年収を越えてしまった。
その事実があの父親にどのくらいの衝撃を与えたかは想像に難くない。彼は本心から息子とユーチューバーを憎んだことだろう。あんなことをやってる奴らは社会の底辺で、ゴミで、この世で生きていることさえ害悪だ。だから、こんなバカげたことはさっさとやめて定職について真面目に働け。この頃から息子との口論は激しくなっていっただろう、しかし、そう説教する度にこう言い返される。
「どうしてだ? おまえより俺のほうが稼ぎがいいのに」
鷹宮父は権威主義者だ。名家に生まれ、個人では使い切れないほどの財産を相続し、目の上のたんこぶだった母親も死んで、今では誰よりも偉いはずだった。だが、そんな彼は息子のその一言に何も言い返せない。何故なら彼を偉人たらしめているのは、彼の能力ではなく、金の力でしかないからだ。彼は金を持ってるから偉いのであって、金がなければ誰からも相手にされない、平凡な人間でしかないのである。
だから、ある日、自分が見下していた相手に追い越されたことにひどく動揺した。あの、自分にとっては足手まといでしか無かった息子が、自分よりもずっと他人に評価されるようになってしまったのだ。
誰よりも自分のほうが偉いと思っていなければ、自己を保てない父のストレスはどんどん募っていった。だがもう、それまで都合よく使っていたストレス発散の道具はない。悔しい。許しがたい。なんとかしてあいつを貶めてやることは出来ないだろうか。だけど、もうどんなに足を引っ張ったところで、息子の自信は揺るぎないだろう。
この屈辱、どう晴らせばいいだろうか……
と、その時。彼は閃いた。
そうだ、自分には息子が二人いる。
こっちはクズの兄貴とは違って、父親の言うことをよく聞いて、父親と同じような人生を歩んでいるエリートだ。兄はもう手遅れだが、こいつを自分の思うがままに操縦して、自分の欲求を満たすことにしよう。
そうして彼は、あるときから、栄二郎に執着するようになっていった。栄一が死んでから度々見せる、死者をこき下ろし、弟を持ち上げる醜い態度はこうしてかたち作られたのである。
それは果たして、弟にとってどれだけのストレスだったろうか。
父と長男の確執の影で、弟である鷹宮栄二郎は、引きこもりとなった兄と同じような人生を歩んでいた。子供の頃から高圧的な父親に勉強しろと言われ続け、東大に入り、縁故採用で外務省に入省する。傍目にはエリートコースまっしぐらである。
ところで、改めて考えてみよう。鷹宮父のような男は、家の外ではどういう風に思われているだろうか?
おそらく相当嫌われているだろう。上司や権威者に対しては、それなりに敬意を払っていただろうが、部下や弱者に対しては、おそらく高圧的に接していただろうから。
兄である栄一が入省してすぐにパワハラに遭ったのも、思い返せば父親の影響だったのではなかろうか。鷹宮父は省内でも相当の恨みを買っているはずだ。そんな男の息子が、たまたま自分の部下として配属されてきたら、恨みに思っている者はどういう行動に出るだろうか。
同じような人生を歩んでいる弟も、もしかしたら兄と同じ運命をたどっていたかも知れない。少なくとも、あの父と兄のこともあって、入省してからの風当たりは相当強かったのではなかろうか。それでも、引きこもりになった兄を見ていた彼はそうならないように、パワハラに遭おうが何されようが、なんとかその場に踏みとどまっていた。
ところがそんな時に、息子を一方的に恨むようになった父親がちょっかいを掛けてくるようになった。何かにつけて栄二郎のやることなすことに口を挟み、自分の思い通りにさせようと画策する。もしかしたら同じ省内にいることで、何かやったかも知れない。親の七光りで栄転などしたら、その人物がどのように思われるか、想像に難くない。
きっと社会人になったばかりの男には、耐え難いほどのストレスだっただろう。
ところで、話はだいぶ前に遡る。ナナの因子に取りつかれやすい……超能力者とは、一体どんな人間がなりやすいか覚えているだろうか。超能力者は10代後半から、せいぜい30歳くらいまでの若者で、承認欲求や依存心が高く、情緒的に不安定で精神病質。つまり、精神的に参っている人間がなりやすい。
鷹宮栄二郎は正にそんな人物ではないか。
もし、彼が超能力者であったなら、一体どんなことが起きるだろうか。
彼は仕事と家庭のストレスで思い悩み、ある日頭がイカれてしまう。その原因となった父親のことを相当恨んでいただろう。もしかしたらカウンセリングに通っていたかも知れない。仕事を休めと言われたかも知れない。だけどそんなことは出来っこない。エリートが精神面の不調を理由に休養をとるのは自殺行為だ。出世コースから外れてしまい、もう元には戻れない。何より、あの父親が何をするか考えると気が気でない。
だから精神面の疲労のせいで、体調に支障をきたしていても、彼は仕事を辞めることは出来なかったし、周囲に悟られまいとして明るく振る舞うしかなかったろう。相当無理をしていたのではないか。
そんな時……もしも超常の力に目覚めたとしたら……彼は一体どうしただろうか?
おそらく、父親を殺そうとしたのではないか。あの日、縦川雲谷が憶測したように、超能力を使えば殺人の証拠は残らないはずだ。
そしておそらく、栄二郎はそれを実行しようとした。だが彼もまた縦川と同様に、超能力と言うものを良く知らなかった。超能力は、人体に直接危害を加えるようなことは出来ない。もし仮に、それを使って人を殺そうとするなら、間接的な方法を使わざるを得ない。
だから栄二郎が父親を殺そうとしても、それは必ず失敗する。彼はその失敗の原因を、自分の道徳心にあると考えるだろう。なんやかんや言って、親殺しというのは精神的禁忌に触れるから、躊躇してしまったのではないかと。
それで踏みとどまればまだ良かったかも知れない。だが彼は、もうそれを躊躇うほど、精神的な余裕が無かった。だから何度も繰り返した。何度も……何度も……
きっと鷹宮家ではおかしな現象が度々目撃されたことだろう。見ようによっては、魔法でも起きてるんじゃないかと思ったに違いない。
さて、2ヶ月前……
秋葉原の騒動で、本物の超能力者を目撃し、下柳にそいつらの特徴を伝え聞いた鷹宮栄一は気づいたはずだ。彼は最近、自分の周りでおかしなことが立て続けに起きていたことを思いだす。そして精神的に追い詰められて、参っている人物にも心当たりがあった。
彼はその疑念を胸に、家に帰り、栄二郎を呼び出して尋ねたことだろう。実は今日、秋葉原で超能力者というものを初めてみたんだけど……
閑話休題。