これを読めばスマホでキャラクターイラストを描けるようになる、かもしれない 〜自分だけのキャラクターを形にして友達に差をつけろ!〜
日曜日。帰宅部のわたしは中学校に行く用事もないから、いつもだらだらしている。ぶっちゃけまじめに勉強するような性格じゃないしな。床に寝転がってピッキーを食べながら、『小説家になれたらいいな』というサイトで時間を潰してる。楽しいなぁ、青春の無駄遣いは。
「よっしー、来たよー!」
「うぃーす」
遊ぶ約束をしていたひなのが遊びに来た。幼なじみだからわたしの部屋にも顔パスで入れる。ひなのの容姿は可もなく不可もなくという感じだ。眼鏡と肩の上まで伸びた髪。特徴といったらそれくらい。はっきり言ってしまえば地味。まあわたしも人のことは言えないけど。同じ地味同士、性格も似てるところがあるから、昔から馬があった。
「んで、何か悩みがあるって言ってたけど?」
「うん、実はね」
ひなのはわたしの隣に座って、おもむろにピッキーを五本口に突っ込んだ。なんてもったいない食べかたをしやがる。わたしは机の上に広げていたピッキーをかき集めた。
「あたし、『小説家になれたらいいな』に小説を投稿し始めたんだ。それでね、登場人物の絵を描いて小説に載せようと思って」
「ほーん。いいんでね?」
ある程度絵心があるなら、絶対に挿絵は載せたほうがいい。なぜなら文章で長々と説明するよりも、絵なら一目で理解してもらえるからだ。人物もプロ並みに描けて、背景も描きこめるという人ならなおさらだ。羨ましすぎて禿げる。なぜそんなに上手いの? 化物なのか? 爪の垢をくれないか? 煎じて飲むから! お願いします、何でもしますから!
もちろん絵なんていらない! 自分で想像したい! という人もいるだろうが、そういう人は少数派だと思う。おっと、これはあくまで個人の意見だ。
「でもひなのって、絵描けたっけ?」
「昨日の夜描いてみたよ」
なんでこいつら白目剥いてるの? こわっ。
「これを見てどう思う?」
「すごく……棒人間です。でも書いてるのはコメディだよね? ならこの絵は逆に個性になると思うよ。読者にシュールな笑いを提供できるかもしれない」
ひなのは涙目になる。
「違うの! シリアスなファンタジーなの! アンドロイドの女の子が主人公で、牢屋に入れられたり暴力を振るわれたりして苦労する物語なんだけど」
「ええ……。あんた病んでるの? わたしが見てないところでいじめられたりしてる?」
「違うよぉ。女の子が泣いたり傷ついたりする姿が好きなだけ。興奮するよね」
「なにそれ……引くわ」
今日初めて幼なじみの闇の深さを知った。つーか需要ないだろその小説。現代社会はストレスにあふれているというのに、誰が好き好んで重い話を読みたがるんだよ。……まあ個人の自由だからいいけどさ。
「あたしの画力はご覧のありさまだから、よっしーに絵の描きかたを教えてほしいの。お願い!」
「わたしも難しい絵は描けないよ。背景とかわけわかんない宇宙空間になるし。でも、人物だったらどうにか描けるかな」
ひなのから登場人物の特徴を聞いて、自由帳に描き始める。
「まず適当にあたりを描くだろ?」
「ふんふん」
「んで、ペン入れをして人物の完成だ」
「ここまではわかるな? この程度の絵ならデッサンを続けていけばすぐに描けるようになるぞ。慣れないうちは好きな漫画の模写でもいい」
「うーん。わからないけどわかった」
つーか複雑なポーズの描きかたはわたしもまだわからん。わたしはランクで言えばまだ“顔だけしか描けない人”なんだ。今適当に考えたランクだけど。
「次は色を塗っていく。このときパーツ分けして色を置いておくと作業がしやすいぞ」
「これが主人公なの?」
「ううん。この子は主人公が通うことになる学校の友達だよ。女の子が好きなの」
「ええ……。その設定いる?」
「いるよ! 複雑な人間関係は小説の面白さを底上げしてくれると思うの」
「そうか……?」
あまりに複雑にしすぎると、収拾がつかなくなりそうな気がする。感想欄に『登場人物が余計』と書き込まれることになるかもしれんぞ!
「学校編では主人公が初めて人を好きになったり、三角関係になったりして、青春に焦点を当てた内容なの」
「闇鍋ってレベルじゃねーぞ」
なんで牢屋に入ったり暴行されたりした主人公が、唐突に学校に入学して青春してるんだよ。物語の雰囲気統一しろよ。
「まあいいか。次は薄く色をつけるぞ」
「ベースの色より若干濃い色で塗ってくれ。はっきり色を塗ると青年イラストっぽい雰囲気になるぞ」
「目がチカチカしてきた……」
「スマホを見ながら顔突きあわせて説明してるからな。しかたない」
「こんな調子で絵を描いてたら視力落ちちゃうよ」
「まあな。自慢じゃないけど最近は五メートル先の人の顔を判別することができない」
「ヤバい奴じゃんそれ!」
みんな! スマホで絵を描くときは適度に休憩しないと、わたしと同じように視力の低下で苦しむことになるぞ! 後悔しても知らんぞ!
「次は影をおいていくぞ」
「ここでどれだけ丁寧に塗ったかで、完成度が変わる! ……かもしれない」
「どんな色で塗ればいいの?」
「簡単なのは、ベースの色をスポイトで取って、明度を調整して塗っていけばいい、と思う。最近は乗算を使ってるかな。乗算ってのは下の色と上に塗った色をかけあわせることで、これを使えば思いもよらなかった色が馴染んだりするから色々試してみるといい。次は濃いめの影だ」
「濃いめの影を塗るときは、首の下や髪の落ち影とかごく狭い範囲だけにしないと、暗くなりすぎるから注意な!」
「だいぶできてきたね。でもまだ目が死んでる」
「ここまでくればあとは仕上げだ。ハイライトを入れたり、頬とか唇にピンクを入れたり、目を生き生きさせる」
「こんなもんかな」
「わぁ、できた! よっしーありがとう!」
「あとでひなののスマホに送るよ。じゃあ今から絵を描く練習をしようか」
「上手く描けるかなぁ……」
「最初から上手く描ける人なんていないから大丈夫。練習していけば絶対に上手になるって」
どうだったかな? 君も練習して自分だけのキャラクターを形にして、友達に差をつけろ!
この塗りかたは絵が上手い人には参考にならないかもしれません。絵の着色はメディバンペイントさんのアプリを使用しています。
お読みいただきありがとうございました。