プロローグ: 山の上の魔道士
山の上にある、やけに広いお屋敷。
そこの縁側に限りなく黒に近い深緑色の髪色に、限りなく淡いエメラルドグリーンの目をした男が座っていた。
薄い唇から、ぷう、と大きなシャボン玉が吐き出される。
そのシャボン玉は、たちまち形を変えて行き、遂には恐ろしい相貌の魔物に変化した。
地に足をつけた魔物ーーーもといシャボン玉は、自らを吐き出した主人とも言える男に向かっていった。
友好的ではないのは敵意むき出しのその雰囲気から見て取れる。
お''お”おおおおお、と身の毛もよだつような雄叫びを上げ凶悪な歯をむき出しにし、男の顔とあと数センチというところで、その魔物の脇腹に鋭い蹴りが打ち込まれた。
それを見て笑っている男に、やれやれと言ったような声色で魔物を蹴った男が言った。
「ミドリさん!勝手に魔物作らないで下さいって、いつも言ってますよね!?あなたのその勝手な行動が生態系を壊したらどうするんですか!?ていうか、もし今俺が倒さなかったら、ミドリさん、食べられ…るわけないっすよね。すいません。」
金髪で朱色の眼の色をした男だ。
軽薄そうな見た目とは裏腹に、言っていることは至極真面目だった。
「僕はキイチの特訓のつもりだったんだけど。」
キイチと呼ばれる男の説教を、全く意に介していない様子のミドリと呼ばれる男。
それどころかニッコリと笑いかけている。
「え、俺のためだったんすか!?」
「んなわけないじゃん。ただ暇だったしちょっかいかけたかっただけ。」
「もう、からかうのやめて下さいよ!とりあえずもうそんな適当に魔物作らないでくださいね!?あなたクラスの人だと簡単に作ったやつも割と強いんですから…。さっきのも、結構硬かったですよ!」
「うん、ていうかさ。」
「話逸らそうったって無駄ですよ!決めました。今日こそは俺の心労を分かってもらいます。大人しく話聞いてもらいますよ!」
「えー、あー、うん。」
「そうと決まったら中に入りましょう!外も寒いでしょうし、どうぞ!」
「あー、ありがと。」
(あの魔物、山を下っていっちゃったけど…まあ、いいか。)