まりかが欲しいといったのはお弁当箱です
さてまりかはお弁当箱にであえるでしょうか
翌日。
まりかはるんるんしながら
待ち合わせ場所に立っていた。
きぃ先輩と逢える。
それだけで。
心ははちきれそうなほど
どきどきわくわくしていた。
「行ったことゎないマジカルワールドもこんな感じなのかしら」
まりかの妹と両親は幾度となく訪れたという
マジカルワールド。
まりかは一度も連れていってもらったことはない。
ときどき、TV(といってもこっそり観ている)に映るマジカルキャラクターに
うっとりどきどき思っているのはまりかの内緒だ。
一度、こっそり、お兄ちゃんが
まりかにお土産を買ってきてくれた。
お兄ちゃんはたいして行きたくなかったらしい。
それでもまりかは連れていってもらえない。
公人先輩が待ち合わせ場所に指定したのは
まりかの最寄の駅のロータリーだった。
きょろきょろわくわくうろうろ。
あきらかに挙動不審なまりかは
どきどきしながら色素の薄い
青白い頬をときめかせた。
「・・・・・・・・・・先輩まだかなぁ」
その時。
きゃっと両手を頬にあてるまりかの前方に
「君がまりか・・・・か?」と
怜悧な美貌を漂わせた男性が問いかける。
「え…えぇとっ。え?」
目の前に見知らぬ男性がいる。
見知らぬ人だが周囲の視線を一身に受けるほど
いわゆるイケメンの部類に入る人種である。
えーっと、誰だっけ?この人。知り合い?
男性はとまどうまりかに構わず
つま先からてっぺんまでを
値踏みするように
眺めまわし
ふっと馬鹿にしたように息をはくと
それから言った。
「で?」
まりかは透明に近い
褐色の瞳をぱちぱちさせた。
「呼んでくるように言われたんだけど、君はなんだい?
一体誰なのかな?もしかして
公人の弱みでも握ってる、とか?」
まりかはさらに驚いて、瞳を見開き
目の前の怜悧な男性を見つめた。
あぁこの人は
まりかのことを見るに堪えないといった瞳をしている。
この視線にまりかは痛いほど見覚えがあった。
まりかの父親も母親の祖父母も妹も
妹の友達も
皆こんな瞳でまりかを見つめていた。
まりかはわくわくした気持ちが
風船のようにしぼんでいくのを感じた。
「ご……ごめんなさい。」
失礼します…
と虚ろな視線で踵をかえす。
作り笑いもしなかったのは
楽しみにしていた反動が大きかったから。
まりかと休日
待ち合わせしてくれる人なんて
いるわけもない。
「ジャスミンちゃん」
なんて呼びかけるのも
気まぐれなだけ。
お日様みたいな公人の声が
まりかの耳にリフレインして
じわっと涙を浮かべた。
きぃ先輩がまりかと待ち合わせしてくれるわけないっっ
きぃ先輩はまりかに同情したんだっっ
胸があんまり痛すぎてそ場を走り出そうと
つま先にチカラをこめたまりかに
「ま、待てっっっ」
怜悧な美貌の男性は慌てたように呼び止めた。
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「だから好きなものを選べばいいだろうっ」
あれから数時間経過しただろうか
どうしてこうなった…?
まりかは子犬のようにくーぅんと耳をたらしていた。
もとい
困っていた。
ふかふかの重厚なソファ
目の前の大理石の美しいテーブルには
所狭しと
ある物体が並べられている。
それは、
まりかの
お弁当箱・・・・・・・・・・・・・・。
あれから
駅前で
泣きながら立ち去ろうとした
まりかを呼び止め
もとい無理やり呼びつけ
「どこに行くんだ!」と半ば理不尽な怒りを
押し付けれた後。
まりかは、男の背後のリムジンに
無理やり押し込められ
何やら豪奢な
いわゆるデパートメントストアらしきところに連れて行かれた。
滅多にお出かけを
したことがないまりかは
状況を忘れ
わくわくどきどきしながら
男に慌てて駆け寄る店員ともども
何やら豪奢な個室に連れて行かれ
ふかふかクッションに身を沈めながら
クリームソーダなる
まりかが飲みたくて飲みたくて
憧れた飲み物を片手に持たされ
ひたすら目の前に次から次と
並べられる物体を見つめていた。
その名も・・・・・・・・・・・・・
お弁当箱、である。
「お前はこれが欲しかったのだろう!!!好きなだけ選べっ」
「えっえっええーと・・・・」
確かにまりかはお弁当箱が欲しかった。
それは、いつも一人ぼっちのまりかと一緒に
きぃ先輩が過ごしてくれる理由でもあったから。
きぃ先輩がせっかく食べてくれる
あんまり見栄えもしないおひるごはんを
少しでもきぃ先輩に似合う器に入れたいなぁと思ったから。
でも・・・・・・・・・・・・・
「あ、あの、ごめんなさい。これ、いいです」
まりかはまたもや眦に涙をじわっとにじませながら
目の前の美丈夫に頭を下げた。
だって、きぃ先輩と逢えると思ったからここに来た。
別にお弁当箱だけ欲しかったわけでない。
しかも
しかも
まりかの目の前にあるお弁当箱が立派すぎる!!!!!!!
(これが本音!!!)
「っ。なっ。」
うーん?