終結
「また来たよ!」「今度こそ倒しちゃうから!」
可愛らしくも威風堂々とした雰囲気に包まれ、腰に差した刀を抜く。
「そうだ。それで良い」
ハデスもまた、深い夜色の剣を構えた。
真正面に向き合う二対の刀と一本の剣。
それらはまるで、光と闇が互いを塗り潰さんと、その濃さを競っているかのように凄惨で美しかった。
「我は、お前たちを待っていた」
「待っていた? どういう事だ」
「ふん……すぐに解る」
その時、わずかにハデスの重心が下がった。
来る!
反射的に身構える。
「「参ります!!」」
両者が地を蹴る。その衝撃で床は崩れ、風が巻き起こった。
キンッ
硬い金属の弾ける音。
耳を劈く音の波が鼓膜を容赦なく打ちつける。
「疾い!」
フィヨルさんの声をかろうじて聞き分けられた。
ギンギンギンッ
次第に加速していく剣戟は、もはや残像が残るレベルで展開される。
俺たちでは目視する事すら叶わない高次の戦い。俺にそこへ混じっていく力がないのが口惜しい。
だけど今は、信じて見守るしかない。
「やあああ!」「これで、決める!」
一歩距離を置いたライテとリンデ。次の瞬間、左右に分かれて襲いかかった。
「甘い!」
しかし、ハデスは一瞬で魔法陣を構築すると床を叩いた。
せり出して来た石の壁に遮られて、致命傷を与えることができない。
「ハデスーーまだこんな力が残っていたのか」
「……マナトさん、それは違うと思います」
「エルダ?」
「見てください、ハデスさんの口元」
エルダが指差した方を見る。
すると、そこには小さな変化があった。
「血、か」
ハデスは双子と戦いながら、血を吐いていた。口の端から流れる一筋の血から、奴の内臓にダメージがいっているのは明らかだ。
やはり回復なんてしていなかったんだ。痛みに耐えながらライテとリンデの猛攻を受けている。
「おじちゃん、どうして?」「どうしてまだ戦うの?」
「五月蠅い……」
「もう止めようよ!」「死んじゃうよ!」
ライテとリンデが叫ぶ。
けれども、ハデスは立ち上がった。
「それで良い」
垂れた血を服の裾で拭うと、さらに言葉を繋げる。
「お前たちは、ただ俺を斬り伏せる事だけ考えれば良い。然すれば全てが上手くいくだろう」
ハデスが構える。
今までで最高の殺気を放ちながら。
「いいんだね、おじちゃん」「いくよ、おじちゃん」
「来い。勇者の力とやらを見せてみろ」
これで最後だ。
この一撃で決まる。
確信はないが、本能が俺にそう告げている。
だったら、やる事は一つ。
「エルダ、フィヨル班長。ありったけの魔力を二人に!」
「はい!」
「ええ!」
全身から力が抜けていくのが分かる。目を開けていられず、ゆっくりと身体を床に横たえた。
俺が最後に聞いたのはどちらかが倒れた音。
それを境に、意識は遠くへと飛んでいった。




