希望の光
支えにしていた剣を床から抜き、切っ先を俺に突きつける。
「何言ってるんだ! もう勝負は終わっただろう?」
ボロボロの身体で、尚も向かって来ようとするハデスに言った。
それに、まだ俺はどうしてお前がフィヨルさんに敵対したのか理由を知らない。それを聞くまでは、奴を倒すなんて……。
「終わっただと? なぜそう思う? 我はまだ生きているぞ」
不遜な態度を変えず、挑発めいた事を口にするハデス。
こいつは一体何がしたいんだ。どうして彼女の気持ちを理解してやらない?
そう思ったら無性に腹が立った。
「お前はもう戦える身体じゃないだろう! いい加減にしろ! もうこれ以上フィヨルさんを苦しめるな!」
俺は力の限り怒鳴った。
さすがに魔力も限界に近づいているのか、頭も痛くなってくる。それでも俺は叫ぶ事を止めなかった。
「お前はさっきの話を聞いていなかったのか? フィヨルさんの、お前に死んでほしくないって気持ちが分からないのかよ!」
「マナトさん……もう……」
後ろからフィヨルさんに裾を引かれる。その顔には半ば諦めの感情が垣間見えた。
「でも!」
それでも俺の怒りは収まらない。
しかし、
「五月蠅い」
ハデスは先ほどと少しも変わらない姿勢で続ける。
「お前たちはここへ何をしにきたのだ? 我を殺すためだろう。然らば戦え。それ以外の結末はあり得ない」
……もう言葉は意味をなさなかった。
言われてみればそうだ。俺たちはハデスを、魔族の王を滅ぼすためにここまでやって来た。それならば、奴の言う通り決着をつけるしかない。
「本当に、それでいいんだな?」
「良いに決まっている。我も、お前たちにとってもな」
「そうか、分かった」
俺は少し奴から距離を取って、エルダに話しかける。
「エルダ、やるしかない。もう一度力を貸して」
「はい。私はいつでもマナトさんの側にいます」
お互い、自然に手を取り合う。
そして、暖かい彼女の体温が俺の身体を巡る。枯渇しかけた魔力を全身から掻き集め、全て左手薬指のアザに注ぎ込んだ。
「……ぐっ」
しかし、足りない。
エルダの身体が放つ光は弱々しく、明らかに魔力が不足している事を証明していた。
どうする、このままじゃハデスを倒せない。
考えろ。俺は何をしたらいい?
とその時、俺のもう一方の手を何かがふわりと包んだ。
「大丈夫です、マナトさん。私の魔力も使ってください」
「フィヨル班長……」
「今、あなたの身体に魔法陣を書き込みました。これで私の魔力をあなたへと送ります。……倒しましょう。ハデスを」
ぐっと力が込められた瞬間、力が漲る。
これなら双子を呼ぶことができるはずだ。
「エルダ!」
「お願いします!」
二人ぶんの魔力の供給を受けた彼女の身体は、太陽のように明るく輝いた。
一瞬の閃光。
そして目を開ければ、そこには俺たちの希望を纏った二つの命がハデスと対峙していた。




