彼女の正体
「私は元々、神ではありません」
「え……」
フィヨルさんが、神じゃない?
神族として顕現したんじゃないってことか?
それじゃあ、どうやって魔族軍に入ったり、魔法が使えたりするのだろうか。
「……どういうことですか?」
あまり深く話をしている時間はないことは分かっているが、聞かずにはいられなかった。
「そうですよね。誰だって混乱すると思います。何と言っても、当事者の私が誰より驚いているんですから」
ふふっと自嘲気味に笑うと、フィヨルさんは続けた。
ハデスは静かに彼女を見守っている。戦闘の意志は感じられない。
「マナトさん、私はあなたと同じなんですよ」
「同じ……?」
何のことだろうか。思い当たる事がない。
「私も、こことは別の世界からやって来たんです」
その言葉に、俺は身を乗り出した。
フィヨルさんもユグドを救うためにここへ来たっていうことだよな? 俺以外にもそんな人がいたなんて。
「厳密に言うと、ちょっと違うんですけどね。私はマナトさんのように正規の召喚を経てこちら側に来たのではないんです」
という事は……
「召喚されていないのにこちら側に来てしまった、と言うことですか?」
信じられない。そんな映画みたいな出来事、本当にあるのだろうか?
いや、正規の召喚も映画みたいなものか。そう考えたら意外と不思議に感じる事はなくなった。
「はい。ですから私は神でも、ましてやヴァルキリーでもありません。……これはまだ誰にも話した事がないのですが、今からあなたにお教えします」
フィヨルさんはそこまで言い切ると、区切りをつけるように一呼吸置いた。
「本題に入りましょう。ーー私がなぜ、ユグドに命を狙われていたのか。そしてなぜ、ハデスがユグドに敵対したのか」




