君のとなりに
「少しだけ、私の話を聞いてくれますか……?」
エルダは俺のことを抱きしめながら語り始めた。
「私もね、今のあなたと一緒なんだよ」
俺とエルダが一緒? どういうことだ?
「まだ言ってなかったよね。私が何を司る神なのか。……私は《ヴァルキリー》、戦の女神としてこの世界に存在していたんだよ。つまり、魔族と戦うためだけにつくられた存在なんだ」
「えっ……」
エルダが、戦うためだけにつくられた存在だって? だったら、どうして……。
「そう。変だよね。戦の女神のくせに、何でこんな戦線から離れた土地で薬なんか作ってるんだって……」
俺の驚いた様子で察したのだろう。エルダは、俺の言おうとした言葉を自ら口にする。
「私も、この世界に顕現したばかりの頃は、前線で戦ったよ。それが、それだけが、わたしがここいる理由だったから。でもある時、敵の剣を利き腕にもらっちゃってね、もう重いものは全然持てなくなっちゃったの。戦えなく……なっちゃったんだよ。自分がね、ここにいる理由が無くなっちゃったんだ……」
表情は見えなくても、今どんな顔をしているのかがわかる。
思い出すのも辛いだろう。
それでも、俺に話してくれた。
「私はまだ、このユグドのために戦っていたかった。でも、それは叶わない。それを受け入れた上で、私はノドンス先生の下で薬のことを学んだの。このまま、自分が消えてしまうのが嫌だったから。まだ、誰かの役に立ちたかったから」
そして、エルダは俺を抱いていた手を離して、しっかりと俺の目を見て言う。
「私がマナトさんを助けた理由はね、あなたにも、ここにいるという事を諦めて欲しくなかったからなんだよ。マナトさんも、この世界にきた理由が見えなくなってしまったかもしれない。でも、だからこそ、諦めないで欲しいの」
……エルダは、俺と同じなんだと言った。
でも、それは違う。
俺はユグドを救うために、この世界へやってきた。だけど、結果としてその使命を果たすことができなくなってしまった。そして、俺はその現実から目を背けて、逃げてしまった。
だから、彼女は俺とは違う。
「俺も……なれるかな。エルダみたいに、強く」
「なれます。私にだって、マナトさんの怪我を癒すことができたように」
そう言って、いつもの柔らかな笑顔を向けてくれる。
ああ、この子はなんて美しいんだろう。
見た目だけではない、心が、今まで会った誰よりも強く、優しい。
胸の中に暖かい物が溢れていく気がする。
俺も力になりたい。
誰かのためじゃなく、目の前の少女のために。
「ねぇ、エルダ」
「はい」
「俺は、君の力になりたい。ずっとそばにいて支えていきたい」
だから……
「俺と、結婚してくれませんか」