仲間
巨大な門の中に入ると、そこには多くの魔族兵が待ち構えていた。
その中に圧倒的な雰囲気を纏った男が一人、空中から俺たちを見下ろしている。
「……また来たのか。フィヨル」
厳かな声色。
思わず鳥肌が立った。
「私は何度だって来ます。……ハデス、あなたを倒すまでは」
フィヨルさんが目を釣り上げて睨みつける。
しかし、ハデスには動揺どころか余裕さえ感じられた。
「勇ましいな。……今度は連れが多いようだが?」
「……それが、どうしたんですか?」
フィヨルさんが問い返す。
「いや何。ただ我は、お前たちを心配してやっているだけの事だ。犠牲は少ない方が良いのではないか?」
そう言って、俺たちを見回す。
ハデスは完全に見下しているようだ。
「馬鹿にしないでください!」
フィヨルさんが叫ぶ。
「みんなは、私の大切な仲間です! 犠牲なんかではありません!」
……そうだ。
フィヨルさんの言う通り、俺たちは魔族にやられに来たんじゃない。
全員が彼女の言葉に頷いた。
「そうか……仲間、か……」
「そうです。私は、あなたとは違います」
フィヨルさんが言うと、一瞬ハデスは辛そうな顔になった。
そしてすぐにまた元の表情に戻り、俺たちに背を向ける。
「では、犠牲では無いと言うならば行動で示すのだな。我の元まで辿り着いて見せよ」
ハデスはそれだけ言い残すと、遠くに消えた。
だが、ふと辺りに目をやると魔族兵が俺たちを囲むように牽制している。
「マナトさん……」
「分かってるよ、エルダ」
俺の服を軽くつまんで注意を促してくれる。
しかし、これはかなりの数だぞ……。
それに奥からまだまだ増えてくる。
「ライテとリンデを呼ぶか……」
彼女たちの力があればここを突破できるだろう。
エルダの手を取ろうとしたその時、
「待ちなさい、マナト。あんたはハデスのために魔力を残しておきなさい」
クフレから声がかかった。
「それに、あんたの力がなくてもこんなザコ共アタシが倒すわ!」
そう言って彼女は腰に下げた剣を抜く。
しゃらん、と音を立てた刀身はまるで星のような輝きを放っていた。
「でもクフレ……お前、魔族が怖いんじゃ……」
そうだ。先日、彼女は確かにそう言っていた。
しかし、
「そうね……今でも怖いわ」
「だったら、俺が……」
「でも、アタシがやるの!」
俺の言葉を遮って、彼女は続けた。
「フィヨルさんは、アタシを仲間だと言ってくれた。あんたを守るこの役目だって、アタシを信用して任せてくれた! ならもう怖さなんて関係ない! アタシがあんたを守るんだ!」
叫び、クフレが駆ける。
あの日、部屋の隅でうずくまっていたクフレの面影は、もうどこにも無い。




