進撃
「……見えました。あそこがそうですね」
先導するフィヨルさんが目的の地点を指をさして示す。
「あれが魔領デミスへの入り口……なんですか……?」
100メートルほど前方にあったのは、俺たちの身体より遥かに高い門。
一帯を塀で囲まれたデミスに入るためのものだ。
重苦しい錆色のそれは、まるで俺たちに帰れと言わんばかりに固く閉ざされていた。
「はい。他にも突入する手段が無い訳ではありませんが、正面から派手に進入する事で、ハデスに私達の存在をアピールする事ができます」
「確かに。隠れて近づいたとしても、ハデスの周りには近衛がたくさんいて逆に不利になってしまう事もあるかもしれないですね」
「そういう事です。……おそらく彼は私達を舐めている事でしょう。私は、過去に一度敗れていますから」
唇を噛んで悔しさを見せるフィヨルさん。
その時、俺の後ろにいるクフレから声がかかった。
「でも、今回は負けません」
「ウチの力でブッ飛ばしてやりますよ!」
続いてベルガさんも我慢できないといった風に叫ぶ。
その様子に、やれやれと呆れた表情でクフレが呟いた。
「まったく……これだから脳筋女は……」
「な、なんだとクフレ! ウチは脳筋なんかじゃない!」
「じゃあゴリラ」
「ゴリラ⁉︎」
……二人はこんな状況でもケンカを始めてしまった。
でも、変に気負った様子はないからその点は安心できる。
「シッ! ……みんな静かに!」
フィヨルさんが人差し指を口に当てる。
全員が瞬時に口を結ぶと、門から音が響いてきた。
ゴゴゴゴ…………
唸りを上げ、門が開いて行く様子がうかがえる。
「……今がチャンス、ですね」
エルダが言う。
「ええ! 全員、状況開始です!」
フィヨルさんが突撃の号令を発する。
すると、前衛に配置されたベルガさんの率いるチームは素早く門へと駆けていった。
「ベルガ! ヘマしないでよ!」
「ウチを誰だと思ってるのさ、クフレ!」
例の二人はチームが異なるため、手短に言葉を交わし、別れる。
次に遠距離からの攻撃やサポートを担うフィヨルさんのチームが出た。
「マナトさん。マナトさんは、私達の切り札です。ですから、私達を信じて時が来るまで後方で待機していてください」
「はい!」
班長の指示の通り、俺は最後方で待機だ。
みんなが戦っている中何もできるないのは歯がゆいが、それでいい。
俺には敵の大将を倒すという最も重要なオーダーが出されているのだから。
「マナト! アタシ達も出るわよ!」
俺の護衛役を任されたクフレに続いて、俺とエルダも適度に前のチームとの距離を保って進む。
……賽は投げられた。
もう後戻りはできない。
俺たちの手で魔族を討つんだ。
そう心に刻んで、エルダの手を引き、走り出した。




