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決起


「待ってください、班長」

背後から声がかかる。

それは俺もよく知った者の声だった。

「どうしたんですか? もう消灯時間ですよ?……クフレちゃん」

「それは班長もじゃないですか……」

どうしてクフレがここにいるのか。

そんなことはもうどうでもよかった。

「クフレ……」

「ごめんね、マナト。あんたと班長が話してるの、聞いちゃったんだ」

それはなんとなく察していた。

しかし、それ以上に気になるのは……

「どうして、みんな来たんだ……?」

今この場にいるのは俺たちとクフレだけではなかった。

ベルガさんなどを含めた班のメンバー全員がそこに集っていたのだ。

「どうしてって、そんなの決まってるじゃない」

誰かが声を上げる。

「そうだよ! ウチだって戦えるよ!」

それに続くようにしてベルガさんが言った。

これを皮切りに、次々と声が聞こえてくる。

フィヨルさんは……フィヨルさんはどう感じているのだろうか。

振り返って彼女に目を向ける。

「あなた達……これは正式な出撃ではないんですよ?」

かすかに震えながら全員に問う。

それは怒りの感情なのか、それとも……。

「これはあなた達とは関係のないこと。私の勝手な思いから来た私闘なんですよ」

ですから、とフィヨルさんが続ける。

「私はあなた達を巻き込みたくありません。どうか、分かって……」

フィヨルさんの気持ちは少し分かる。

きっと彼女はみんなが大切だから、大好きだから尚のこと自分に付き合わせるわけにはいかないと思っているのだろう。

過去には、エルダに怪我を負わせてしまったこともある。

その負い目から、自分が認めた相手にだけ協力を申し入れようとしたんだ。

しかし、

「分かりません!」

クフレが叫んだ。

「アタシ達は、みんなフィヨル班長を信頼してます。だからこうして全員集まった」

クフレはここにいる班のメンバーの気持ちを代弁するように話す。

その姿には、自信をなくして落ち込んでいた彼女の面影はどこにもない。

「もっと班長も、アタシ達を頼ってください! 巻き込んでください!」

うっすらと涙を浮かべる。

決して大きな声ではなかったが、クフレからは確かな意思が感じられた。

彼女の言葉にメンバーが頷く。

一拍空いたのちに、一言。

「アタシ達、対魔族部隊V班はフィヨル班長と共に戦います!」

……すごいな、フィヨルさんは。

これ程までの信頼を得られているなんて。

ここに来て日の浅い俺では知りえない出来事がたくさんあったのだろう。

そうして培われた関係はこんなにも強固だ。

「後悔しても……遅いんですよ……?」

「しません!」

「もう二度と、戦えなくなるかも……!」

「構いません。そんな覚悟は、軍に入るときに済ませましたから」

フィヨルさんが息を飲んだ。

そして、一つため息を吐く。

「分かりました。……みんな、行きますよ!」

「「「「「はい!!!」」」」」

暗い夜道を全員で移動する。

その道程は月の光に照らされ、輝いていた。

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