歓迎会
柔らかい。
俺の頭が柔らかい何かに包まれている。
「お目覚めですか。マナトさん」
「うん……エルダ、何やってるの?」
今、俺の身体はベットに横になっている。
エルダは、そんな俺を見下ろすような位置にいる。
そして、柔らかい。
この三つの条件から導き出されるのは……
「マナトさんが疲れてるみたいでしたので、膝枕を」
「ひ、膝枕」
まさか、エルダに膝枕をしてもらえる日が来るとは! ……ああ、俺のお嫁さんの太ももはなんでこんなに気持ちいいんだ!
俺が感涙に噎いでいると、エルダが心配そうな顔で覗き込んでくる。
「あの。もしかして、迷惑でしたか……?」
「いやいや! とんでもない! むしろご褒美だよ!」
「よかった。気持ちいいですか? マナトさん」
「うん。今まで生きてきて、一番気持ちいいよ」
エルダの手が俺の頭を撫でた。
使ってしまった魔力が戻って、訓練の疲れが取れていく気がする。
「……俺、頑張るから」
「何をですか?」
「もっともっと強くなるよ。俺が強くなれば、ライテとリンデもずっと俺たちと居れるだろ? そして、魔族を倒したらさ。一緒に暮らしたいんだ。四人で」
「……素敵です。マナトさん」
「エルダと、双子ちゃんと、ずっと一緒に居たいんだよ、俺」
「私もです。……だから、私も精一杯、マナトさんを支えますね。これからも、ずっと……」
「エルダ……」
「マナトさん……」
「あ、あー。ゔっうん!」
俺たちの唇が重なりかけたその時、すごく大きな、わざとらしい咳払いが聞こえてきた。
「あのー……晩ご飯、できたん、だけれども……」
声の方を向くと、耳まで真っ赤にしたクフレが立っていた。
「あ、あー! 晩ご飯ですね! 行きましょう、マナトさん!」
「う、うん」
こちらも真っ赤になったエルダに促されるまま、食堂に向かう。
「ちょっと待って。エルダ、先に行ってて」
「は、はい。では、お先に……」
クフレに見られたのが恥ずかしいのか、俺がそう言うと足早に行ってしまった。
「……ねえ、クフレ」
「……なによ」
「……いつから聞いてた?」
「……『俺、頑張るから』の辺りから」
恥ずかしいとこバッチリ聞いてやがった!
「あんたも……なんて言うか、あれね」
「あれ?」
「……なんでもないわ。早く行くわよ。もう、みんな待ってるんだから」
なんだか気になったけど、俺はすたすたと早足で行ってしまうクフレを追いかけた。
食堂に入ると班のみんなはもう全員席についているようだった。
「あら、いらっしゃい。マナトさん」
「フィヨル班長。すみません、お待たせしてしまって」
「いえ、いいんですよ。魔力が無くなってしまったのですよね? もうお身体は平気ですか?」
「はい。ゆっくり休めましたので」
「それは何よりです。それでは、マナトさんも席についてください」
そう言われて、俺は一つだけ空いていた席に座る。
……エルダとクフレの間か。知ってる人が隣で助かったな。
フィヨルさんのいただきますの合図で、みんなが一斉に食事を始める。
「うわー、なんだか豪華だな」
「すごいでしょ。今日はマナトとエルダの歓迎会だから、特別に豪華なんだ!」
目の前の料理を見て思わず呟くと、向かいの席に座ったベルガさんが嬉しそうに話す。
「ベルガはな、こんなに女子力低そうな感じなのに、料理がめちゃくちゃ上手いんだ」
「うっさいよクフレ! ウチだって、好きで女子力低めな感じでいるんじゃないやい!」
「まあまあ。……でも本当に美味しいよ、これ。すごいですね、ベルガさん」
「ありがとう! ああ、マナトはクフレと違って優しいわー」
「悪かったな、優しくなくて。今度からお前と試合するときは、もう手加減してやんないから!」
「手加減なんかいりませんー! 今日はたまたま勝てただけで、偉そうにしないでくださいー!」
「なんだとー!」
今にも喧嘩を始めてしまいそうな二人。
にも関わらず、相手にしていない様子のメンバー達。
「マナトさん、気にしないでくださいね。この二人のこれは、いつものことですから」
「いつもこんな感じなんですね……」
ベルガさんの隣に座っているフィヨルさんも、注意することなく平然としている。
「あ、そういえば一つ気になった事があるんですけど、聞いてもいいですか?」
「ええ、もちろんです。何でしょうか?」
「あの、フィヨル班長の『謀殺姫』みたいな二つ名って、みんな持ってたりするんですか?」
その瞬間、空気が凍り、隣で騒ぐクフレとベルガさんも大人しくなってしまった。




