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ここへ来た意味は

「……あー、雨か。……こっちの世界でも雨って降るんだな」

もうどれだけ走ってきただろうか。

たくさんあった大きな建物は、走っている途中で見えなくなった。

計測の結果をバルドから聞くなり研究所を飛び出して、それからどこだかもわからずにここへ来ている。

そのバルドの話によると、“俺の抗魔力はこの世界にいる誰よりも低い”という事らしい。

魔領デミスに最も多く存在する下級悪魔にすら及ばないという。

「これからどうしろっていうんだよ……」

いきなり連れてこられた場所で、傘なんて持っているはずもなく、雨で身体中が冷え切っていた。

辺りがだんだん暗くなって来ている。いよいよ帰り道がわからなくなった。

「……全く、我ながら馬鹿だよな」

平凡な日常からこの世界に飛び込んで、勝手に勇者だなんて舞い上がって……。

自嘲するように呟くと、

「そうだね、君は馬ァ鹿だと思うよ」

急に背後から声をかけられ、驚いて振り向く。同時に腹部に激痛が走った。

見ると腹から鈍く光る刃が突き出ている。

「こんな時間に一人で出歩くなんてサ」

声の主は刺した剣を俺の身体から乱暴に引き抜くと、後ろへ距離をとった。

「……っはぁぁ…………」

痛みに耐えきれずうずくまる。身体は冷えていたはずなのに、腹を押さえた手から自分の血の暖かさが感じられる。

「あいつ、マァズそーだからお前らが食べちゃっていーよ」

俺を刺した男が言うと、その後ろからぞろぞろと小さくて不気味な怪物が現れた。

ゲェゲェと不快な音を出しながら勢いよく俺の周りに群がってくる。

身体から多くの血が流れ出て、逃げる力はもうない。

死を覚悟したその時、目の前の怪物の一体が吹き飛んだ。

次の瞬間には先ほどまで怪物がいた空間に、光を放つ美しい少女が立っていた。

「大丈夫ですか。痛いでしょうけど、もう少しだけ我慢してくださいね」

そう言うとマナトの身体を抱え上げた。だが、仲間を倒された怪物達が少女に襲いかかろうとする。

「ヤァめときな。お前らじゃあ何もできないよ」

男の声で怪物達が動きを止める。

少女は全く動揺した様子もなく、堂々としている。

「分かっていただけて嬉しいです。あなたも近寄らないでくださいね」

言い終わった時にはものすごいスピードで運ばれていくのが分かった。

「もう大丈夫です。絶対に死なせはしませんから」

意識がぼやけていく。

俺を安心させようと、柔らかく微笑む彼女に返事をすることもできない。

ただ少女に守られることしかできない自分が、悔しかった。


目がさめるとベットの上に横になっていた。

すぐ横に目を向けると、昨日俺のことを助けてくれた女の子が椅子に座って眠っている。

すぅすぅという寝息が聞こえてきそうなくらいよく眠っている。おそらくずっと俺のことを看ててくれたんだろう。

「……それにしても綺麗な子だ」

透けるように綺麗な肌に整った顔立ちが、この子も神様なんだろうと自然に感じさせる。

窓から差す光を浴びて、長いブロンドの髪がキラキラと光っている。

もっと近くで見たい。

そう思って身体を起こそうとすると、

「痛てっ!」

チクッとした痛みについ声が出てしまった。刺された腹部には幾重にも包帯が巻かれている。

まだ動かすべきじゃないか。再びゆっくりと横になる。

すると、起こしてしまったのか少女の身体が小さく動いた。

「……んん、……ふぁ……むにゅ……」

なんかすごくかわいい声が聞こえるぞ……。

「あぁ…………はっ! 寝てしまってました……。あの、おはようございます。お身体は大丈夫ですか?」

「ああ、まだちょっと痛むけど、だいぶいいよ」

「そうですか、本当に良かったです」

にこっと笑って言う少女。

俺は命を助けてもらった上に、看病までしてもらったのか……。そうだ、まだお礼を言ってない。

「えっと、まずは助けてくれてありがとう。本当に助かった。君がいてくれなかったら、今頃は……」

そこまで言うと、少女はふんわりと俺の手を握った。

「いいんです、お礼なんて。私が勝手にしたことですから。ですので、本当に」

手を握ったまま上目づかいで見つめる少女。その愛らしい仕草にドキッとする。

「私はエルダと言います。あなたの名前も教えてください」

「あっ、そうだね。俺はマナト。よろしく」

「はい。マナトさん。それではもう少しお休みになってください。後でお薬を持ってきますから」

そう言ってエルダは部屋を出ていこうとする。

「ま、待って!」

俺は思わず彼女を引き止めていた。

「これだけ教えて欲しいんだけど、どうして俺を助けてくれたの?」

この問いかけに、彼女は少し考えて、

「……すみません。秘密ですっ!」

ほんのちょっと顔を赤くして、部屋を出て行ってしまった。

俺の手には彼女の手の温かさが残っていた。

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