クフレの悩み
演習場を出て、一本道を全力で駆ける。
クフレの姿はどこにも見えなかったけど、不思議と居場所が分かるような気がした。
途中にあった広場や建物は全て無視して、頭に浮かんだその場所へ向かう。
「ここ、だよな……」
やがて辿りついたその場所は、俺たちがさっきまでいたV班の部屋だった。
静かに中に入る。
クフレは部屋の隅で小さくなっていた。その隣に俺も腰を下ろす。
「……何しにきたのよ」
こちらを見ずに、ボソッと呟く。
「ちょっと話がしたいと思って」
「アタシはしたくないんだけど。…………一人にしてよ」
まあ、そう言うだろうとは思っていたさ。
「嫌だね。俺は君と話すまでは、ここを動かないから」
「一体何のつもり? 何の権利があってそんな事言ってるの?」
明らかにイライラした様子で睨んでくる。
「約束、覚えてないとは言わせないぜ。負けたら何か一つ、言うことを聞くって。その権利を今使う。俺は君と話がしたい」
「……お節介なやつ」
そうは言いつつも許可してくれるみたいだ。約束を反故にしたりしないあたり、素直な子なのかも。
「あのさ、なんで今日はいきなり決闘だなんて言いだしたの?」
「あんたが気に入らなかったからよ」
うぐっ……特に何かした覚えは無いんだけどなぁ?
「あんたは、男なのにV班にいるってのも気に入らないし。何より、新入りのくせに、フィヨル班長から期待してるなんて言ってもらえて……」
「うん……俺だって、まさか女の子ばかりの班だなんて聞いてなかった訳だけど。と言うか、後半は完全に僻みだよね?」
そんな理由で、いちいち決闘を申し込まれてたら命がいくつあっても足りないよ。
「うっさい! アタシはきっと、みんなから嫌われてるんだ……」
「嫌われてる……?」
「そうよ……。アタシはこの班に入ってから結構経つけど、今まで一体も魔族を倒せてないの。だからみんなも、アタシの事を心の中じゃ使えないって思ってるよ……」
「なるほど、だから新入りの俺に勝って自信をつけたかった。そういうこと?」
「うん、そう。……だから、あんたにはちょっとだけ悪いことしたなって思ったけど、負けちゃったからもう忘れた!」
そう言って、そっぽを向いてむくれてしまった。
なんだ、かわいいとこもあるんだな。エルダには及ばないけどね。
「俺から見たら、誰もそんなこと思ってる人は誰もいないと思うんだけど。それよりも、魔族を倒せないって、何か理由があるの?」
「……アタシは、魔族が怖い。戦場で目にすると足がすくんじゃって、動けなくなっちゃうの。だから、いつもみんなに守ってもらってばかり……」
その話を聞いて、俺は思わずクスッと笑ってしまった。
そのことに怒ったのか、クフレは顔を真っ赤にして掴みかかってくる。
「な、なんで笑うのよ! あんたが聞くから答えたのに!」
「い、いや、ごめん。別に馬鹿にしたとか、そんなんじゃないんだ。ただなんか似てるなぁって」
「……あんたとアタシが、似てる?」
クフレはきょとんとした顔になって尋ねる。
「うん。俺も、今でこそさっきみたいな力が使えるようになったけどさ。これまでは俺もゼウス様やバルド、エルダや色んな人に守ってもらってた。自分が情け無く思ったりしたよ。」
「……あんたも苦労したのね」
「まあね。だから、君の気持ちは分かるんだ」
そう、と俺の服を掴んでいた手を放して、クフレは元の姿勢に戻る。
そして小さな声で聞いてきた。
「アタシはどうすればいいと思う?」
「簡単だよ」
俺がそう言うと、期待を孕んだ眼差しを向けてくる。
「俺の友達になってよ」




