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入隊


『対魔族部隊V班』

扉の入り口に掛けられた札には、太めのゴシック体でそう記されていた。

「わたし達の班はここですね。わたしもここに来たのは久しぶりですから、ちょっとドキドキしてます」

エルダは懐かしそうに目を閉じて感じ入っている。

そういえば、エルダは元は軍にいたから、前に来たことがあるんだろうな。

新品の軍服の乱れを直して、髪も軽く整える。

「……よし。行こう、エルダ」

深呼吸をして、気合をいれる。

そして、そのままドアノブに手をかけて一気に開いた。

「おはようございます! 今日からこちらでお世話になる……」

部屋に入るなり元気よく挨拶する。見渡すと、中にいた数名の女性隊員がこちらを見ている。

……顔を真っ赤にして、下着姿で。

「「「キャァァァーーーーーーー!!!」」」

「マナトと言います! 失礼しましたあああああああああ!!!」

全力で扉を閉めた。

心臓がバクバクして、額から変な汗が出てくる。

「マナトさん! ちゃんとノックしないとダメですよ! V班は女の子しかいないんですから!」

こちらも真っ赤になっているエルダ。俺としても、覗きをするつもりなんて全くなかったので、必死に言い訳をする。

「いやまさか、着替えてるなんて思わないし! ……てかそれ以前に、ここって女の子しかいないの⁉︎」

「当たり前じゃないですかぁ! ここはV班ですよ⁉︎」

「いや、V班だからって女の子しかいないとは限らないじゃんか!」

「限りますよ! 原則的に、女の子しか入れない班なんですから!」

「だから何でそんな…………いや、ちょっと落ち着こう」

いつの間にか熱くなり過ぎてた。お互いに深く深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

「それで? 何で女の子しかいないの?」

「V班だからですよ?」

ダメだ。会話が成り立たない。

でも、エルダも意地悪をしている様子はない。

……V班だから? …………ああっ! まさか!

一つの答えが閃いた。

「ねえ、エルダ。V班ってもしかして第5班的な意味じゃないとか……?」

「はい。『ヴァルキリー班』です」

納得。ギリシャ数字の5じゃなくて、ヴァルキリーのVか……。

俺、リアルで初めて軽いアンジャッシュ風コントを経験しました。本当にあるんだね、こんなこと。

「ごめん、俺が勘違いしてたみたいだ」

「いえ、いいんですよ。わたしもちゃんと説明しなかったのが悪いんですから」

俺が謝ると、エルダも仲直りしてくれた。

「それじゃ、誤解も解けたことだし、ちゃんと隊員の子に謝りたいんだけど……」

俺が行っても、きっと開けてくれないだろうな〜と悩んでいると、エルダが扉に近づいていった。

「じゃあ、今度はわたしがいきます」

そう言って、コンコンと優しくノックをする。

「先ほどは失礼しました。お着替えは終わりましたか? きちんと謝りたいので、ここを開けて頂けませんか?」

すると、ちょっと間が空いてから静かに扉が開いた。

「失礼します。さっきは本当にすみませんでした! わざとじゃないんです。許してください!」

中に入って、誠心誠意、心を込めて頭を下げた。

「顔を上げてください。私たちも、ちょっとびっくりしただけですので」

優しそうな、それでいてちょっと色っぽい声の女の人だ。頭を上げると、エルダとは違うタイプの美人さんがこちらを見ていた。

「私はこの班のリーダーをしています、フィヨルと申します。今日から仲間になる、マナトさんですね? バルドさんから話は聞いていますよ」

「はい。よろしくお願いします」

「こちらこそ、貴方には期待していますよ。そして、こちらが班のメンバーの子達です」

顔を見渡すと、男の俺に戸惑ってはいるみたいだけど怒っているような様子はない。

……一人を除いて。

うわぁ、すごい睨んでる。これまた美人だけど、勝気そうな子だなぁ。

「それと、こっちが……」

ひとまず無視して、エルダの紹介もする。すると……

「エルダーーー!」

後ろにいたエルダの姿を見ると、フィヨルさんがエルダに飛びついていった。

「お、お久しぶりぶりです。フィヨル班長」

「フィヨル班長なんてやめて。前みたいに、おねーちゃんって呼んでー」

エルダがフィヨルさんに、もみくちゃにされている。

デレデレだ、フィヨルさん。エルダが助けを求める視線を向けてくる。

エルダは世界一可愛いから気持ちはわからんでもないが、女同士は止めづらいから頑張ってくれ。

……そうした騒動はありつつも、顔合わせが終わり、解散になった。

今日は訓練は午後かららしいから、エルダに演習場とかを案内してもらおう。

そしてエルダを探していると、女の子に声をかけられた。

この子は……さっきは睨んでた子だ。確か名前は、クフレって言ったっけ。何の用だろう?

「あの……どうかした?」

また怒らせても嫌なので、なるべく刺激しないように質問をする。

すると、クフレは俺を指差して言った。

「アタシと決闘しなさい!」

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