二つの希望
「マナトさん。助けに来ました」
薄暗い牢屋の中に、突然現れた少女。
その笑顔が、絶望しかけた心に希望をもたらした。
「お前、どっから湧いて出たァ。この牢の周りにゃァ見張りをなァん体もつけといたんだけどなァ?」
しかし、男は動揺を見せたのは最初だけで、すぐに不敵な笑みを浮かべる。
「その見張りの方々はゼウス様がお相手なさっています。すぐにこちらへ来ていただけるかと思いますよ」
「なっ……! ゼウス様って、なんでこんなとこに⁉︎」
男よりも俺の方が事実に驚いていた。ユグドの最高神が自ら前線に出てくるなんてこと、あり得るのか?
「ハッタリじゃァなさそうだ。そォでもしないと丸腰の小娘にここへ進入することなんてできねェからなァ」
男は冷静に状況を推理する。
……手強いな。言動とは裏腹に思慮深さも持っているようだ。
「流石ですね。あなたの事は調べがついています。魔族軍強襲部隊隊長ベリト、そうですね?」
「そォの通り。それを知っていながら、のこのこやられにィくるなんて、やっぱ馬ァ鹿ばかりだなァ!」
より殺気を強くするベリト。
しかしエルダも、策もなく敵の懐へ飛び込んでくるはずもなく、俺に小さく耳打ちをする。
「……マナトさん。思っていたよりも厄介な相手です。今の状況を逆転するには、あなたの力が必要です。例の神を生む力、それを使う以外に活路はありません」
「……でも、あの晩以降、一度も使えていないんだ」
それしか方法がないのは分かっている。けど、発動のさせ方だって分かってないから、失敗する可能性だって……。
俺が躊躇していると、牢の中に大きな声が響く。
「なァにゴチャゴチャくっちゃべってんだよォォォ!」
激昂したベリトは再びナイフを構えなおした。そして即座に地面を蹴り、襲いかかってくる。
「まずはお前からだァアアアアアアアアアアアアアア!!! 女ァアアアアアアア!!!」
まずい。ベリトは俺じゃなくエルダを狙って来た。俺はもちろん、エルダも武器は持っていない。真っ向から来られては、なす術もなくやられるだろう。
このままじゃ…………いや、違う。やるしかない。
「エルダ!!!」
叫び、彼女へと手を伸ばす。
エルダもまた、手を伸ばして互いの手をとった。
俺は今まで何度も助けてもらった。だから今度は……
「今度は俺が守る!!!」
握った手に力を込める。ありったけの魔力と想いを乗せるために。
「あっ……」
エルダが小さく息を吐く。その瞬間、彼女の指にあるアザが眩い光を放つ。
「なにィッ!」
ベリトが強烈な光に目を焼かれる。突進していた足が止まった。
光がベリトとエルダの間で弾ける。そして……
「呼ばれて飛び出て!」「ジャジャーン!」
陽気な掛け声と共に双子の女の子が姿を現わした。
「なんだァ、こいつら。まァた増援か? まァいい、こォんなガキ共さくゥっと……」
新たな闖入者に驚きはしたものの、余裕の表情で近づくベリト。そして、掲げたナイフを双子めがけて振り下ろす。
しかしその刹那、双子の姿が消える。
「……ガハッ」
ぐらり。肺から咳をするように息を吐き出して、地に伏したのはベリトの方だった。
「見えねェ……このガキ……何しやがった……!」
ベリトはヒューヒューと苦しそうに呼吸しつつ、殺気のこもった視線を双子に向ける。
「大丈夫、峰打ちだよ!」「ただちょっと痛いかも?」
日本刀を一本ずつ携えた双子が答える。
痛いなんてもんじゃないだろう。魔族軍の隊長が一撃で倒されるほどだ。
「お前ら……何者だ……。お前らには、関係……ねェだろ……」
「「関係ならあるよ!!」」
自信たっぷりに揃った声で言う。
「「だってわたし達は、パパとママを守るために生まれたんだもん!!」」




