第7話 非情な結末
な、長かった……
バトルシーンってやっぱり難しいです……
時間はディクシアとシフォンとの戦いの前に遡る──
「アニキは隠れていてくださいっす!」
突然、後ろに立つ青年を見るやいなやシフォンが叫ぶ。
状況が全く掴めていないアスティオは、言われるがままベッドの向こう側へ身を隠した。
シフォンはそれで安心して青年の方へと走っていってしまった。
だが、本当はシフォンが飛び出していった後、ドアの横に移動し二人の戦いをこっそり見ていたのだ。
なぜなら、シフォンが怪我をしないか心配だったから。
シフォンが強いことは分かっている。それでも、アスティオは心配なのだ。
ハラハラしながら戦いの行方を見守るアスティオ。そして、そこに違和感を感じた。
(……あれ?相手の人……本気じゃ、ない……?)
シフォンの短剣を弾いたとき、青年は追い打ちをかける様子はなく、むしろ自ら退散しようとしているようだった。
しかし、シフォンがそれを許さない。どうやら激情に流され我を忘れかけているようだ。
昼間のことを知らないアスティオはシフォンがそこまで怒りを露わにする理由は分からない。だがそのとき、青年のマントにとある模様があるのが見えた。
大波とクジラの描かれた紋章……間違いなく【海の王】のエンブレムだ。
なるほど、アスティオは理解が追いついた。
シフォンは王族に強い恨みを持っている。彼の相手は直接王族に名を連ねる者ではないだろうが、それを守る立場にある者。
自分の嫌いな存在を守ろうとする彼が心底気に食わないのだろう、と。
しかし、だからと言って今、彼が為そうとしていることは絶対によくないことだ。
(やめさせなくては……!!)
そしてアスティオはシフォンの元に駆け寄る。
シフォンはその姿を見て驚きに目を見開き、その手に持っていた金属片を取り落としたのだった。
そして時は戻る。
ディクシアは朦朧とした意識の中で、シフォンという少年の殺気に迷いが生まれたことに気がついた。次第に押さえつける力も弱まり、そして最終的に自分と距離をとる。
酸素を求め、慌てて深呼吸するとむせてしまった。
(助かった、のか?)
少年の視線はこちらに向けられたままだが、再び仕掛けてくる気配はなかった。と。そこに、
「誰だ、こんな夜中に騒がしい奴は……」
入口の方から聞こえる男の声。その人物は、ゆっくりとした足取りで、こちらへ向かってきているようだ。
姿を現したのは大あくびした壮年の小太りの男、この宿の主人だった。
「ったく……勘弁してほしいね、煩くて寝れやし──」
男はそこではたと気がつく。そこにあったのは、天井に刺さった短剣や地面に転がる鋭利な金属片、飛び散った血の跡……。いつもの風景とはかけ離れたものだった。
(これは夢か?)
ふいに客にした覚えがない奴──ディクシアだ──が、その手からカランッと何かを落とした。拾い上げ、よく見ると細長い剣のようだ。
「ヒ、ヒィイッ」
それが現実に起きていることだと気づくと情けない悲鳴を上げ、レイピアを投げ捨てて、受付の方へ走っていった。おそらく警備隊に連絡するためだろう。
(……これは、まずい……)
ディクシアは慌てた。警備隊を呼ばれて困るのは少年達も同じようで、「待ってくださいっす!」と言って追いかけて行ったのが見えた。
(……今のうちに、逃げなければ……!!)
ディクシアはいまだに荒い呼吸を押さえつつ、足を引きずりながら宿を飛び出す。
「おいっ……!待てぇ!!」
少年の必死の制止の声が後ろに聞こえる。逃げ切った、ディクシアの頭の中はそのことでいっぱいだった。
だが、少年は気づいていた。彼が逃げて行った闇の中に潜む、さらに深い闇を纏う恐ろしい何かの存在に。
だから、止めようとしたのだ。
しかし、ディクシアがその忠告に気づくことはなかった。
その何かは獲物の気配に気がつくと、彼がよろけた瞬間あっという間に襲いかかる。
それはまるで、影が人を飲み込んだようだった。
「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!」
通りの向こうからかん高い悲鳴が響く。
やがて、潮が引くように何かが去った後には、俯せのまま全く動かなくなった男の姿があった。




