第6話 不毛な戦い
初のバトルシーン!
今回で終えるつもりが、あまりに長く気力落ちしたので二回に分けます。
最初からディクシアには戦う気など毛頭ない。だから、怪我人を出すことを良しとしなかった。
少年は、小回りの利く小柄な体躯を駆使し、右から上、上から下と縦横無尽に短剣を振るう。また、その一撃一撃は、正確にディクシアの急所狙ってきていた。
そのことを末恐ろしく思いながらも、なかなか有効な手段に出られないでいるディクシア。
戦闘のプロである彼の武器──レイピアは、突くことに特化しすぎている。故にその素早い動きに対応しきれず、攻撃を防ぐことに手いっぱいになっていた。
……いや、実は当てること自体は簡単だ。しかし、手加減に失敗してそのまま刺し殺してしまう可能性があったのだ。
だが、ディクシアも伊達に王族の護衛騎士を名乗ってはいない(本当は名乗ったことなどないが、この際それは置いておく)。守りに徹している間に、少年の動きを見極める。
(──ここだ!)
振り上げた際の一瞬の隙をつき、少年の短剣を跳ね上げた。
そのままレイピアは狙い通りに、少年の短剣の柄の末尾にある輪を通り、簡単にすっぱ抜いた。
──キィンッ
と甲高い音をたてて天井に突き刺さる。上手く弾けたおかげか、かなり深く刺さり、そう簡単に取れそうにない。ましてや……
「クッソ!やられたっす!!」
身長のあまり高くないあの少年に取ることは不可能、ディクシアはそう判断したのだ。
思った通りの動揺ぶりを見せる少年、このわずかなチャンスを逃すわけにはいかないと、ディクシアは出入り口へと走り出す。
しかしそう上手く事は運ばない。
「……逃がさないっすよ」
ヒュッと顔の横を何かが掠めた。痛みより先に濡れた感覚が頬を伝う。……血だ。
振り返ると少年は奇妙な形……まるでトランプのスペードを薄く細く引き伸ばしたような金属片を手にしていた。
昼間のそれとは違い、抑えることをやめた本気の殺気をその身に纏い、心底冷え切った瞳でこちらを見据えている。
「……フッ」
少年は予備動作 0 で大量の金属片を放つ、その数およそ三十枚強。
「…………!!?」
ディクシアは慌ててそれらを空中で一薙ぎし、叩き落す。だが、当てそこねた数枚が体中に刺さってしまった。
鋭い痛みとともに、強烈な痺れが全身を襲う。どうやら金属片には毒が仕込まれていたようだ。
ディクシアの気がほんの一瞬、怪我の方にそれる。その刹那の隙に少年は一気に間合いを詰めてきた。
よろけるディクシアの首に腕を押し付け、そのまま壁と挟んで押さえつけると、今度は金属片を頸動脈の真横に当てる。少年はそのまま噛みつかんばかりの迫力でディクシアに迫った。
「あんたらはっ!いつもそうやって他人のことを好き勝手して!!俺だけじゃなくアニキにまで迷惑かけるのか!!?」
(――……ち、がう……これは、自分が……)
少年は酷く誤解している。だが、その弁解をしなかったのは自分自身だ。ディクシアはようやく自分の犯した本当の過ちに気がついた。
(すみません、イレミア様、アリス殿……。自分は、ここで終わりのようです)
もはや抵抗すまい、と思考の働かなくなった頭で思う。そのときだった。
「……シフォン、だめだ。……この人は、君の仇じゃない……」
「アニキ!?どうして、ここに……」
突然驚き、慌てる少年。
ディクシアの閉じかけた目に映ったのは、黒いローブを纏った、穏やかな気配の男だった。
一応言っておきますが、主人公はアスティオです!
彼は次回少し出ますが、本当の活躍はまだまだ先になりそう……