第36話 歌姫と黒銀
すいませんでした!
所用により一週間ほど携帯やらパソコンやらが使用できず、報告なしで投稿できませんでした……orz
以後は気を付けます。
風に靡く淡いプラチナブロンドの髪。
まだ幼いながら、人形のように表情の消えた顔は彼女の神聖さを引き立てて。それでいて、その黄金色の瞳は獣を彷彿とさせる鋭さがある。
────美しい。
なんて、ありきたりな言葉だろうか。
だが、目の前の彼女を表現するにあたり、それ以上に相応しい言葉はないだろう。
余計な飾り言葉など、むしろ邪魔でしかない。
今、彼女と自分との距離は、手を伸ばせば届くほど近い。
だが、彼女はまるでここにいない──例えるなら、決して触れられない絵の中にいるように思える。
……実際、自分は檻の中にいて、触れられないのだが。
「何しに来た?……こんな場所、貴女のような方が来られる理由もないだろう」
我ながら、なんて冷たい声だろうか。……一応、彼女は自分の身内なのに。
彼女と自分は、従兄妹同士。
初めて会ったのは、つい先日のこと……六年に一度の《真化の儀》のとき。
彼女は軟弱な先王の落胤として蔑まれ、自分は現王の嫡男として敬われていた。
周りの者たちの視線は冷ややかで、連れてきたはずの父でさえも彼女を「卑しい、忌み子」と罵倒した。
そして、自分は──挨拶に来た彼女のことを見もしなかった。
だが、いざ儀式が始まると皆の見る目が変わった。
今や彼女は唯一無二の聖なる姫君となり、自分はこうして最初から無かったもののように捨てられ、罪人よろしく牢屋にいた。
だから、お互いの立場が急変してから、こうして直接話すのは初めてだった。
王宮の地下の巨大な檻の前に、侍女も兵士も連れずたった一人で来た彼女。息が詰まりそうな、死と恐怖が染み着いたこの場所に、なぜ来たのか。
彼女の行動全てが分からない。
だが正直、彼女は憎い。
つい数年前まで田舎に引き篭もっていたような娘が認められ、今まで後継として誰にも負けないよう必死に生きてきた自分が、どうして。
これが運命だと言うのなら、あまりにも残酷だ。
「……ごめんね」
彼女は申し訳なさそうな声音で、か細く呟いた。
途端に無表情は剥がれ、年相応のあどけなく、それでいて今にも泣きそうなものへと崩れた。
そして、彼女は語った。……彼女の知る、世界の全てを。
「あ、なたは、一体──?」
それを聞き終えて、思わず零れた問い。
彼女はスッと目を細め、儚げな微笑みを浮かべながら答えた。
「私はフィー。フィルシェリア=テロス=プシュケレイニャー。
この物語の先を知る者であり、終わりをもたらす……【鍵】」
紡がれた、名前。……自分の覚えてる限りでは、“フィルシェリア”しか合っていない。確か彼女にミドルネームは存在しないし、ファミリーネームに至っては、そんな家名は存在しないはずだ。
彼女はおもむろに檻に手を翳す。瞬間、鍵穴からガチャリと音が響き、錠前が落ちる。
そのまま彼女は自分の元へと牢屋の中に入る。同時に自分を縛っていた鎖が砕け散った。
座り込む自分に、伸ばされた手。華奢で、掴んだら壊れてしまうように思える。
「あなたはイレギュラーとなり得る器。……だから、助けに来た」
感じた違和感は呑み込んで、自分は彼女の手をとった。ほんの僅かに彼女の魔力を感じ、瞬きした瞬間に景色は変わっていた。……転移魔法を無詠唱で使ったのか。
ここは王宮の屋上だ。……何度も来たことがあるから、よく覚えている。
地下牢では時間が分からなかったが、今は真夜中。月もない、純粋な星明かりだけの空だ。
「逃げて、ノヴォルーニエ。逃げて、あの子に伝えて」
彼女は小さな巾着袋を投げ寄越した。
その中身は、知らない。が、布越しの手触りで、何となく予想はついた。──それが、どれ程の価値を持つものかも。
「あの子、とは?」
これほどの方が気にかける者とは、一体誰だろうか。……自分は、それが気になった。
「あの子……アスは、私の希望の星。そして、もう一人の私。
彼の今の名はアスティオ。
そして、真名は──」
自分は、その名をしかと心に刻み込んだ。
これから進む先は、闇の世界。
空に広がる無数の輝きの中から彼の者を探さなければならないのだ。
これは、本来の道筋から外れる行い。故に自分は、もう二度とこの地に戻ることは叶わない。
だが、それでもいい。
彼女の語る、終末の世界には自分は存在しないのだから。……もう、自由になってもいいだろう?
「……ありがとう、フィルシェリア殿。
貴女の願い、救われたこの命に懸けて、必ずや果たしてみせましょう」
自分は飛び立つ。
過去に己を慕っていた者共に、親に、王に、──そして、何より自分自身に、嫌われた身に成り、漆黒の空へと飛ぶ。
「最後に聞きましょう。
……貴女には、この姿がどう映っておりますか?」
すると、彼女は微笑んだ。呟きにも似た、微かな答えと共に、静かに……美しく微笑んでみせた。
自分はその答えに一筋の雫を落とし、夜闇の中に消えた。
それが嬉しさゆえだったのか、彼女の行く末を想ってなのかは、いまだに分からない。
「とても、羨ましい。
私とは正反対に、自由で美しい。黒銀の雄々しい龍の姿です」
新章突入です!
ここからは混乱事項がたっぷり出てきますので、悪しからず。




