キオナティとソファ
幕間です。
キオナティ姉さんがソファにこだわる理由(笑)
とりあえず書き上がりました……!!
キトにてエフケヴィン家の屋敷に泊まった翌朝──アリスとイレミアはキオナティの部屋から出てきた。ドアの前には、すでにディクシアも待機している。
「おはよう、ディー」
アリスの言葉に無言で会釈するディクシア……相も変わらず彼は寡黙だ。アリスはそんな弟を微笑ましく見ている。(その辺について一人っ子であるイレミアは分かりかねているが)
「あらぁ、皆々様。おはようございます」
そこへ突然声がかかる。一同が振り向くと、この屋敷の主・キオナティ=エフケヴィンの姿があった。
貴族の娘たちが着ているようなドレスより地味で落ち着いていて、町娘が着ているワンピースなどより少し派手目で動きやすさを重視した装い。
その上、薬師としての仕事柄か一部が緑に染まったエプロンをしている。
目を見張るほど眩しい金髪は、首もとの方でくるりと団子に纏められ、簪でとめられていた。
「おはようございます、キオナティ殿。昨夜は泊めていただき、ありがとうございました」
「いぃえ、私も楽しいですから」
クスクスと少女のように愛らしく笑うキオナティは、やはりどことなく彼女の弟──シグラスではなく、アスティオの方──を彷彿とさせる雰囲気がある。
そう、具体的に表すと……抜けてるというか、天然というかというところだ。
「しかし、貴女もこの屋敷の主たる者ですわ。
いくら客人である私たちの為とはいえ、ソファで寝るのはいかがなものでしょう?」
今日もアリスの指摘が耳に痛い。
イレミアが実家にいた頃も、よく変なところで寝てはこうして小言を言われたものだ。イレミアはそれが自分を思っての言葉だと分かっているので、反論出来なかった。
目の前の華奢……とは少し違うが、ふんわりとした女性ならどう返すのだろうか。イレミアはだんだんと興味が湧いていた。
「確かに貴族なら見栄のためにも必要かも。来客も多いし。
……でも、今の我が家は準貴族位からも外されたただの大きいだけの家、もとい屋敷ですよ?
ベッドは患者用と自分たちので十分かと」
滅多に人も来ないですから……と僅かに表情に哀愁を漂わせながら答えたキオナティ。
薄々思っていたが、彼女も中々どうして喰わせ者らしい。──そこに地で天然さを織り交ぜてくる分、攻略がアリスより難しそうだ。
イレミアが彼女の評価を考えているうちに、彼女は語気を荒げでずぃぃっと一同に迫った。
「それにっ!ベッドを増やしちゃったら、ソファで寝るための言い訳がなくなっちゃう!」
「「……へぁ?」」
思わず怪訝な反応を見せるアリスとイレミア。珍しくディクシアも少し表情がひきつっている。
キオナティはなおも興奮したままで、とある昔話を語り始めた。
キオナティがまだまだ小さな子供で、シグラスが赤子だった頃──。
その日は久しぶりに父が家に帰って来る日だった。
当時生きていた母はあらゆる方法で父と連絡を取っており、父が帰ると知った一ヶ月前には背にシグラスを体面でキオナティを抱えながら小躍りしていたほどだ。
かくいうキオナティも父の帰りは待ち遠しかった。
母と一緒に作った押し花を早く見てほしかったから。これも薬師としての修行の一部だと、後で知った。
だが、いざ帰ってきた父はというと、着のみ着のままの状態で応接室のソファに寝転がりイビキをかきはじめたのだ。
が、この行為もこの家では珍しいことでもない。
「またなのね」という母の苦笑を聞きながらキオナティはブスッとむくれていた。
「ねー!パパって何でいっつもソファでねちゃうのよ!」
数時間して夕食を前にようやく目覚めた父の腹の上に乗り、キオナティはその小さな手で父の広い額をベチベチ叩く。
父は娘の可愛らしい仕草に微笑みながら、一瞬の逡巡の後あっさり答えた。
「夕飯の痕に寝っ転がってみりゃ分かるさ」
「……そのあと、父に言われた通りにすると私はすとんっと眠りに落ちたわ」
そのソファ、実は父が魔導士になったあと母からプレゼントされたものだったらしい。
ところどころに癒し効果のある薬木や香木、綿の中にもいろいろな薬効を持つものが絶妙なバランスのもとで組合わさっているという、売れば小さな家が帰るほどの価値を秘めた一品。……ちなみに制作の監修は母だった。
それまで普通のベッドでしか寝たことがなかったキオナティは衝撃を受けると共に、ソファの虜となり果てたのだ。
以来、月に一度はソファで寝ている。
「……は、はぁ」
イレミアはキオナティの話した昔話に、何とも言えない顔をしていた。……どう反応すれば正解なのか。
ふと隣を見上げるとアリスの口角がピクピク動いている。
きっと彼女も似たようなことを考えているに違いない。
「……あらら、ずいぶん話こんじゃった。
キトの図書館はもう開いてるから、早めに行ったほうがいいよ」
その言葉に我に返った一同は、再び軽い会釈をして早々にその場をあとにしていった。キオナティはそんな三人にヒラヒラと手を振り見送っていた。
ちなみに、一同が喋っていた間、ディクシアはというと。
(……そういえば何でこんな話してたんだ?……図書館は行かないのか?)
などと内心で、ぼんやりそんなことを考えていた。彼が見上げた空は、もう日も高くなり始め、爽快な青色をしていた。




