第33話 死神の真実
書ききった……
きっと、たぶん、次回『帰郷の章』完結予定です……
──ドラグレイナとは。
約十年前に突如姿を表した【空の王】の少女。別名・《子守唄の歌姫》
その姿は文字通りヴェールに包まれており、【空の王】の中でも上位の者しか見たことがないとされる謎多き存在。
一方で彼女は閉鎖的な【空の王】一族には珍しく、積極的に各地を回り、多くの国民の前でその美しい歌声を響かせている。
なお、一部では先王の忘れ形見なのではないか、とまことしやかに噂されている。(ちなみに現王は先代の双子の弟であり、先代はすでに亡くなっている)
「ド、ドラグレイナ様が……この絵本を!?」
呆然とした一同の沈黙を破ったのは、意外にもシフォンだった。それもそのはずで、このメンバーの中では唯一ちゃんとした地方庶民の出自なのだ。(イレミアは言わずもがな、フローガー姉弟は貴族出身、エフケヴィン姉弟も準貴族家庭でアスティオは謎)
一般的な国民の間では“ドラグレイナ様”こそがもっとも敬愛すべき王家の君である。謎は多いが、それを上回るほどに人々を惹き付ける声を持っている。
言葉しかり、歌しかり。
甘美なるそれを一度でも聞いた者たちに、──今でも自分の心を掴んで放さない、それはまるで神のみぞ為せる奇跡の御業である。とまで言われるほど。
シフォンも実はとある都市に滞在していた頃、一度だけ直接彼女の歌を聞いたことがあるのだ。
やはり、その旋律に心惹かれるものがあったのをよく覚えている。
(……でも、一体なんでっすか?)
確かに、この都市はある一定の者たちにとっては『聖地』であり、『オアシス』でもある。だが、王家の者が気安く来れる場ではない(本来ならイレミアも)。その上、何かしらの物を寄贈していること事態が異常である。
少なくとも、旅の間にかの方が他に歌以外何かを与えたという話は聞かない。
そもそもなぜ、この場所なのだろうか。
……首都にもそれこそ最高レベルの図書館はあるのにも関わらず、だ。
「不思議なことにさ、その本の寄贈式の時に彼女はこう言ったんだ。
“これは私ができる最大の贈り物です。来るべき時に、正しく使われることを願っています”
とさ。
聞いてた連中は、揃いも揃って首を捻ったたんだが、そのときに俺らは一瞬だけ目があった気がしたんだ。……思えば、その“来るべき時”とやらは今なのかも知れねぇな」
だから、と前置きしてシグラスはアスティオの肩に力強く、そして優しく手を置く。
その行為の意味を図りかねたアスティオはまるで何も知らぬ幼子のようにこてん、と小首を傾げた。
それをみて微笑ましく思ったエフケヴィン姉弟は、眼差しは真剣なままに穏やかに告げた。
「アスティ、首都へ行きなさい」
「……これは俺らの予感だが、きっとそこにお前の求めるものがあるはずだ」
どこか確信めいた言葉。
だが、彼らはそれ以上を告げることはない。アスティオは一度瞑目し、大事に噛み締めるように口を結ぶと、次の瞬間目を見開いて、深く頷いた。
「……あ、でもその前にいいでしょうか?」
ここでアリスが思い出したように口を挟む。一同は何事かと彼女を振り返ると、そこには困惑が浮かんでいた。
まるで、言いにくいことを指摘するように……。
「次の場所が決まったのは、百歩譲ってよろしいとしますわ。しかし、我々はあくまで忍ぶべき身の上です。……それでも姫様は酷く認知度が低いため同行することも可能ですわ。でも」
彼女はアスティオに視線を向けるとさらに眉間のシワを深くして続けた。
「──そちらのアスティオ様は、現在指名手配中ではなかったのでしたっけ?」
「「「「「……あぁっ!」」」」」
ディクシアを除く一同の声が見事にシンクロした。
2年前——。
心底敬愛していた師が亡くなった後、一人で旅を続けていたアスティオは、あるとき道に迷い、食料も尽かせ行き倒れてしまっていた。
そのとき、彼は近くの村に拾われたのだ。
だが、その村は何故か【呪い】に触れた者たちが大勢いた。
とある理由で【呪い】から師を助けることができなかったアスティオは「今度こそ」と村人達を助けようとした。
だが、彼が近くの森の【精霊】に交渉に言っている間に事件は起きた。
──通称・“化け物狩り”。
それは【呪い】に心を殺され、人の身のままに獣と化した者を殺す集団。……そこには初めから殺し以外の救いの慈悲はない。
その村は、“化け物狩り”に見つかり、家という家は火をつけられた。
そして、何故か村人はほぼ全員殺されてしまう──そこにはまだ【呪い】に罹ってない者もたくさんいたにも関わらずに、だ。
【精霊】より異常を知らされ、慌てて戻ってきたアスティオは、そのときまだ生きていた(とはいっても、皆重傷者ばかりである)者だけでも助け出そうとした。
だが、それすらも叶わず、アスティオ自身も殺されそうになる。
目の前に迫る凶刃──その瞬間、アスティオは唐突に意識を失う。
数時間後、彼が再び目を覚ました時には“化け物狩り”は全滅していた。
そして、自分には村人が殺されたときに被った血のほかにおびただしい量の新たな血が染みついている。
「……ぼ、くが…………僕が、やっ……た……?」
アスティオは身に覚えのないことへの恐怖と、村人たちへの深い自責の念に駆られ、思わず村だったその場所から走って逃げ出す。
偶然にもその姿を見た周辺の警備騎士の一人が、怪しんで村へ向かうと、そこは血の海だった。
その後すぐに参考人としてアスティオの捜索が始まったが、何故か一ヶ月も経たぬ間に指名手配される。
そのときの騎士がアスティオの見た目の特徴が、グラス=アフォという作家の空想小説『死神』と酷似していると証言したため、その手配書には『死神』とつけられた。
手配理由は“村を一つ壊滅させ、それを止めようとした者達まで殺した。”という、過去に例を見ないほど残虐きわまりないものだった。
結果100万アウルームという多額の賞金首になったのだ。
不幸中の幸いか。
その村は、【大地の王】の領土の最西端という辺鄙な場所にあり、手配書は主に【大地の王】領内に配られた。
そのため、【海の王】の領民たちは“死神”の存在をあまり知らない。
「……ここまでが、僕が知ってること。……全部、【精霊】たちに、教えてもらった……」
もちろん村を壊滅させたのは自分ではない。だが、もしも“化け物狩り”を殺したのが本当に自分だったなら、自首して全ての罪を受け入れるつもりでいた。
しかし、【精霊】たちは口を揃えて“濡れ衣を着させられたのだ”と言い張った。
【精霊】は決して嘘を吐かない、真っ直ぐな存在。
そして彼らはアスティオに、“奴らに捕まるな”と警告していた。アスティオは【精霊】の言葉に従い、誰にも見つからぬよう密かに森の中を歩いていた。
……シフォンと再会したのは、そんなときだった。
「……似てるはずだぜ、『死神』がよぉ」
シグラスは突然、がくりと俯いて微かに自嘲気味に笑った。事情を知っているらしいキオナティはそんなシグラスに射殺すような絶対零度の冷たすぎる視線を送っていた。
「なぁ、アスティ。お前、実は気づいてるだろ」
「……たぶん、だった。……ずっと、確証は、なかった……」
でも、と言葉を噤む。おろおろと視線を惑わせる彼を見てシグラスは苦笑しながら、ポフンッと頭を撫でた。
「ごめんなぁ、アスティ。──『死神』のモデルは、お前だもんな」
その言葉にぎょっとする一同。
シグラス曰く、作家グラス=アフォは自分の名前の“シグラス”と父方の姓“アフロォート”を合わせた“シグラス=アフロォート”から“素人”を除いて作ったペンネーム。
彼は──小説家だったのだ。
彼の作品では大事な登場人物を、自分の身近な人々から(許可を得た上で)イメージを膨らませて作り出す。
『死神』に出てくる死神の容姿のモデルは当時幼かったアスティオだったので、成長した今、その容姿が似ているのは言うまでもない。
ちなみに、登場人物の創造方法については各作品のあとがきにも書かれているのだが……。
「俺んとこに捜査の手が伸びなかったのは、“グラス=アフォは年齢、性別、容姿ともに謎”って設定を守っていたからだな!
出版社でさえ、俺のことは教えてねぇし」
つまり、偶然だった。
「でも、実際問題。どうするわけ?まさか、どこぞのお偉いさんに『僕はやってません!』とかなんとか言う?そんなの通じないよ!」
イレミアの言葉で全員がげんなりする。
そう、現状は全くもって変わっていないのだ。
せっかく目の前に表れた唯一の手がかりを前に立ち往生を余儀なくされたアスティオはもどかしさで頭が一杯になっている。
シフォンはそんなアスティオを見て、必死に思考を回転させた。
(何か俺にもできることは?何か……今の状況を変えられれば……って!)
あ!っと声をあげたシフォン。一同は驚いてもれなくシフォンを振り返る。──シフォンの顔には笑みが広がっていた。
「イケる!この方法なら、きっと──」
そして、彼はそのまま言い放った。




