第2話 第二貿易都市・パーレダス
アニィマーレ大陸の北東部に位置する、第二貿易都市・パーレダス。
土地の3割以上が海に面しているその都市では、他の都市のみならず、水平線の遥か向こう側に存在する遠い異国とも貿易が行われている。
やり取りされているのは物だけではない。技術や文化、噂程度の簡単な情報さえも価値があると見なされれば売り買いの対象となるのだ。
そのため、パーレダスでは古き良き伝統と新鮮な異文化とが交わり、毎日が祭りであるかのようなきらびやかな喧騒に包まれ、他にはない自由な世界が広がっていた。
その様子を見た周囲の都市からは、【明りの絶えない都市】とさえ呼ばれていた。
そんな中──、
「あーっ!もーっ!!一体全体、何なのよーっ!?」
パーレダスの中心街にある、大衆酒場《タッビーナ》にて大声で叫ぶ浅葱色の髪の少女。
その様子を向かいの席から見守ろ若い男女は、互いに顔を見合わせるとひどく疲れたように深々とため息を漏らしていた。
余談だが、周囲の客は誰かが大声を上げるくらいはよくあることと気にも留めていない。むしろ騒がしいこの店の中では少女の声は小さいぐらいだった。
「イレミア様、いけませんわ。そんな野獣のように叫んでは……」
赤い髪の女性がそうたしなめると、少女は女性にイライラをぶつけるように再び叫んだ。
「だってだってアリス!昼間のあいつ……、何なのよ!?あの態度!!しかも私のことをバッ──」
と、そこで言葉を詰まらせると今度はごにょごにょと小声で一言二言文句を呟いた。
「あぁっ、思い出したらまた腹が立ってきた!」
むきーっ!と言わんばかりに雄叫びを上げる主を見て、アリスはなぜこうなったのかを思い出していた。
ことの始まりは、半日ほど前……ちょうどお腹も減る昼時。
そのとき、彼女はぎゅうぎゅうに物が詰まったリュックを背負い、にぎやかな中央通りをよろよろと歩いていた。
そのあまりの重さと、空腹のイライラでアリスが何気なく呟いてしまった一言が原因だった。
「に、荷物が多すぎですわ……。あぁ、どこかに良い荷物持ちがいないかしら……?」
その言葉にイレミアの瞳が怪しげにきらりと光ったのをアリスの同僚・ディクシアは見逃さなかった。
「…………!!」
慌ててアリスに忠告しようとするも、時すでに遅し。
次に二人がイレミアの方を向いたときには、そこに彼女の姿はなかったのだった。
アリスはあまりのことに一瞬呆然となったが、すぐに我に戻るとディクシアに素早く指示を出す。
「……ディー、私が荷物を持ってここで待ちますわ。あなたはイレミア様を」
「…………(こくり)」
ディクシアは無言で頷き、アリスに荷物を預けると素早く走り始めた。