第1話 旅する二人
「アニキ、アニキ!」
アスティオは全身を強く揺さぶられる感覚で目を覚ました。
体を起こし、ぼんやりと見回すと、辺りは完全に暗くなっており、鬱蒼とした木々の間からこちらを見つめる夜行性の生き物達の視線が感じられた。
「もー!いつまで寝てるつもりっすか!?」
背中の方で小言が聞こえる。
ゆっくりと振り返ると、灰茶色のクセ毛を揺らした少年が怒ったような……いや、本気で怒った顔でアスティオを睨んでいた。
「……すまない、シフォン。また夢を見てたんだ……」
若干寝ぼけた顔のままそう言ったアスティオを見て、シフォンと呼ばれた少年は諦めたように軽くため息をつくと、持っていたランタンと固そうな黒パンをアスティオに突き出した。
「そろそろ移動するんで、明かりつけてくださいっす」
アスティオはこくりと頷くと、ランタンを受け取り、静かに両手を添えて、小さく言葉を呟いた。
「マギィ・リィト・クライン……」
その瞬間ランタンを中心に風がわずかに渦を巻く、まるで見えない力がそこに収縮されているかのようだ。その力は、周りの木々をさわさわと揺らし拡大し続ける。
やがて、ランタンの中に小さな光が現れると、風は次第に収まっていった。
シフォンは深緑色の瞳で浮かび上がった光の玉を見つめると、嬉しそうに笑う。
「やっぱり、アニキの魔法はキレイっすね!」
と、先ほどまで怒っていたことなどとうに忘れたように爽やかな顔をしている。
当人であるアスティオは、そんなシフォンを見ながら黒パンをもそもそと頬張っていた。そして、時間をかけてパンを食べ終えた頃には頭がはっきりしてきていた。
「……ところで、次の都市まであとどれくらい……?」
ふいに気になってシフォンに聞いてみる。
すると、その言葉を待っていたかのようにキラキラと輝いた表情でシフォンは地図を取り出した。そこには森を縦断する形で赤い線が引かれていた。
「今はだいたいこの辺っす。前の所を出たのが3日前っすから、あと2日はかかるっすかね!それから──」
シフォンが示したのは、森の中心部より北の場所。
そこからさらにまっすぐ北に歩いて森を抜けると目指す都市へと続く大きな道にあたる……それは、シフォンが導き出した最短距離だ。
しかも、それが分かったていたとしても実際に迷わずに通れるルートではない。
これは見る者が見れば、道案内人の非凡さがすぐにわかるものなのだが……。
もちろんアスティオはそんなことには気づかない。
説明を聞き終えると「そうか」と呟き、埃を払いながら立ち上った。
それから、おもむろに天を仰ぐとほんの一瞬、祈るように目を瞑る。
「……行こう」
「ハイっす!」
そして、二人は深い闇に沈んだ静かな森の中を、ひっそりと歩き始めた。




