第16話 森の歌声
星明かりも届かぬ森の深奥に、歌声が響き渡る。
美しい音色にどこか儚げな悲しさが織り交ぜられたそれは、誰が聞いても惚れ惚れするものだった。
だが、ここにそれを聞く人はいない。
なぜならこの場所は、誰も入れない、入ってはならない不可侵領域とされていたのだから。
「……お願い、皆……」
歌声の主──アスティオは、静かに願う。その瞳は何も見えない、暗い闇の方へ向いていた。
すると、どこからか蛍火のようにちらりちらりと【精霊】が舞い込んで来る。
それもひとつではない。数十…いや、数百にも及ぶ【精霊】が、地上に天の川を作っていた。
それらはアスティオの声に応えるように、しきりに彼の周りを飛び回る。
「……すまない。……皆、ありがとう……」
アスティオはそう呟くと、静かに涙を流した。
やがて夜明けが近くなると【精霊】達は、闇に熔けるように消えていった。
「……急がなくては」
ローブの袖で目元を拭うと、アスティオはくるりと踵を返し、森の外へと駆け出した。
「アーニーキー?森に行くなら言ってくださいっすよ!」
「……本当にすまない……」
アスティオが帰ってきたのは、昼過ぎだった。
シフォンは目が覚めてすぐにアスティオがいないことに気がついた。
慌てて都市中を探し回ったが見つからず、宿に戻り途方にくれていると、宿の主人に役所の方から連絡が来たと言われたのだ。
そして今、シフォンとアスティオは役所の迷子室にいたのだった。
「もーっ!アニキは方向音痴なんすから!勝手に外に出たらヤバイって何度言ったら……」
「……シフォンが、疲れてると思って。……それで、起こしたら、よくないから……」
アスティオは【精霊】に認められている特別な人間だ。
夜の間は【精霊】達が案内してくれるので、簡単に森に出入りできる。だが、パーレダスの側の森──スパエラの森は広すぎた。
森の深奥に入ることはできたが、そこを出る前に【精霊】達が“眠ってしまった”のだ。
それで迷ってしまい、都市に戻るまで半日かかったのだった。
(探す方がよっぽど疲れるっす……)
シフォンはそう思ったが口には出さない。それがアスティオの精一杯の心遣いだと分かっていたからだ。
「それで?【精霊】達はなんて?」
「……『助けてあげてもいい。だけど、来るなら今夜で』って。……とりあえず、許可は降りた……」
「そうっすか……じゃあ俺、今から準備してくるっす!」
宿の前に着くとシフォンはアスティオに部屋で寝てるように言うと、来た道を戻り店のある中央通りへと走っていった。
「……いってらっしゃい」
眠たげに手を振ると、アスティオは宿に戻り部屋に入った。
隣のベッドで眠る青年と、その看病をしていたのだろうか、横で突っ伏して寝てしまっている女性を交互に見やると、優しく呟いた。
「……大丈夫。絶対、助けるよ」
アスティオは自分のベッドに潜り込むと目を閉じる。
しばらくは、ウトウトしながら今夜のことに思いを馳せていたが、やがて、小さな寝息をたてて眠ってしまった。




