第10話 不安の的中
アリスとイレミアが歩き始めてしばらくすると、地面に何か落ちているのを見つけた。
……どうやら融け落ちたロウが固まったもののようだ。
普通、燭台のロウソクは融けても簡単には地面に落ちない。アリスは、これはディクシアが残した道しるべだと気がついた。
「彼はこの路地を通ったみたいですわ」
アリスが静かにそう言う、それをイレミアは感心したように見ていた。
基本的にアリスは仕事が早い。それゆえにイレミアがアリスが仕事をしているところを見たことがなかったのだ。
ちなみにディクシアもけっして遅いわけではない。ただ立場上イレミアのフォローをすることが多かったため、イレミアはディクシアが仕事をしているところを見ることは少なくなかったのだ。
(やっぱりアリスって優秀なのね……)
イレミアはふいに昼間の少年に言われた言葉を思い出した。
──俺はあんたみたいなバカ娘と一緒になんて御免だね。
あの時は、自分が王族であることだけに腹を立てているのだろうと思っていた。だけど本当は……
(私は一人で勝手に動いて二人を困らせた。あいつはそのことを嫌がってたのね……)
なんて軽率だったんだろう、そう思いイレミアは今更ながら少し反省した。
途中まで、二人はその痕跡を簡単に追って来ていた。
だが十五分もすると、だんだんと落ちているロウの間隔が広がってきて、探すのに苦労し始めていた。
アリスの中で不安が広がっていく。
まるで、口に中に砂があってそれがずっと残っているかのような不快感……、それに加えて先の見えない泥沼にゆっくり沈んでいくような気持ち悪さ。
女としての勘が、そしてなにより騎士としての本能が最大の警鐘を鳴らしていた。
(……この先に、一体何があるというのですの!?)
もし、主たるイレミアの身に危険が及ぶというなら……今すぐにでも引き返すべきだ。
自分にとって最優先すべきは彼女の命なのだから……。しかし──、
数秒の逡巡の後、アリスは覚悟を決めた。
「早く……、早く行きましょう!」
イレミアは強く頷いた。
二人は狭い路地を走り出す。右へ左へと何度も何度も曲がりながら複雑怪奇な道を駆け抜けた。
やがて広い道に行きあたると、道向かいの建物から出て来るディクシアが見えた。
足を引きずり、よろけているその姿は無事とは言い難いが、生きていることに比べればその程度の負傷はまだマシなものだった。
建物の中から怒号が聞こえる。何を言っているかは分からないが、とにかくディクシアを連れ帰れればこちらの勝ちだ。
「ディ──」
アリスが呼びかけた、そのとき
突如、背後に迫る悪寒、すぐ横を過ぎていく黒い存在。
アリスは途端に気づく、彼が明かりを持っていないこと、その理由、そしてその存在の正体。
「…………!!!!!??」
驚愕の顔を浮かべ、それに呑み込まれていく弟。もうすべてが手遅れだった。
「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!」
一瞬の出来事に彼女ただなす術もなく立ち尽くすしかなかった。
ここまでが長かった……。
Wordで書き溜めていたストックも使い果たしましたので次回分からは短くなるかも?
でも、そろそろ主人公活躍します!




