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 しきりにブルブルと身体を震わせる花子だったが表情だけは素面を装い、テーブル前で固く正座した。

 まるで生きた心地がしない、ここ数年すっかり忘れていた感覚が悲しくも今日再び蘇ってしまった。

 花子の右向かいにはすっかり高揚した様子のハジメの姿が、そして左向かいには安住の地である我が家に突然侵略してきた超絶イケメンが行儀よく正座している。


「まさか本当にうちに来て下さるなんて…………先輩! 今日はどうぞゆっくりしていってくださいね」

 いまだ興奮冷めやらぬハジメは瞳をキラキラ輝かせ、向かい合う先輩を夢のように見つめた。


 ハジメ曰く、何でもこの素晴らしいお方はバスケ部の先輩で、普段自分などが話しかけてはいけない雲の上の先輩なのだそうだ。

 思い返せばハジメは入部して間もないここ最近、「3年の先輩に神様がいる!」とすでに崇拝状態でしきりに神関係の話ばかりしていた。

 「へえ……そんな近くに神様が」なんて呑気に感心していた花子だったが、やはり神様は人外、超絶的にイケメン様だったらしい。


 しかしなぜ突然雲の上の神様が下界の我が家に…………。


「実はさ、さっき部活終わりに友達と花子姉ちゃんの話をしてたんだよ。うちの花子姉ちゃんのハンバーグは最高に美味いって自慢してたら、ちょうど先輩も聞いていてくれたらしくて…………ぜひ花子姉ちゃんのご飯を食べたいって、わざわざ家まで来て下さったんだよ」

 ハジメは花子の心の疑問をなぜかグットタイミングで懇切丁寧説明してくれた。


 つまり、花子のハンバーグが気になって神先輩はわざわざ下界に降臨なされたってこと?

 つまり、花子メシが偶然イケメンにヒットし釣り上げたってこと?

 つまり、花子がイケメンを呼び寄せ…………。


 ブツブツと独り言を心で呟きながら暗く俯いていた花子だったが、暫くしてさっきからどうにも気になる神先輩の壮絶に麗しい横顔を、決して気付かれぬようさっとチラ見した。

 再び素早く俯き、悶々と思考を巡らせる。


 …………似ている。

 すでにかなり昔のこと、記憶もおぼろげだがやはり酷似している。

 今まで決して忘れることができなかった遠い過去の人に、今再び思いを馳せた。


 いや、でもまさかと自分の疑念をすぐさま打ち消した花子は、内心思わず苦笑した。

 そんなはずないではないか。

 第一こんな遠い場所にいるわけがない。

 花子の勘違いに決まってる。

 

「花子姉ちゃん、先輩って今寮暮らしなんだよ。地元はここから遠くて、なかなか帰れないんだって。だから余計花子姉ちゃんのご飯が楽しみだって。そうですよね? 先輩」

 良い子のハジメはまたまたグットタイミングで懇切丁寧に神先輩事情を説明してくれた。


 ハジメの言葉に恐怖も一瞬忘れた花子は、思わず左向かいの神先輩をマジマジと見つめた。

 花子の不躾な視線に気付いたらしい神先輩は同じく花子を見つめ、優しく笑みを浮かべた。


「花子さん、久しぶり」

 

 …………どうやら花子の勘違いではなかったらしい。


 相も変わらず超絶イケメンなそのお姿、正真正銘間違いなくモンスター栞兄だった。





 

「まあまあ! あの栞ちゃんのお兄さん? すごい偶然ねぇ」

 すでに母と義父も帰宅し皆で夕食を囲む中、母はたった今ハジメから知らされた事実に心底驚いたようだ。

 若干母の顔が紅潮して見えるのは激しく驚いたせいで、決して目の前のイケメンは関係ない。

 そうだよね? お母さん…………。


「オレもさっき聞いてビックリしたよ。まさか先輩と花子姉ちゃんが知り合いだったなんてさ」

「本当、人の巡り合わせはわからないもんよねぇ」

「きっと我が家とは縁がある証拠だよ。先輩、今後もうちのハジメと花子ちゃんをよろしく」

 ハジメと母そして義父までも、突然我が家に現れ共にハンバーグを食べるモンス……神先輩にしきりに感動し、喜んで歓迎した。


「こちらこそよろしくお願いします。それよりも今日は突然訪ねてしまって申し訳ありません。ずうずうしく夕食まで食べさせていただいて」

 謙虚な神先輩は礼儀正しく花子とハジメの両親に挨拶し、恐縮しながら詫びを入れた。


「何言ってるんですか先輩! 大歓迎ですよ」

「全然気にしないで。いつでも気軽に来てちょうだい」

「寮暮らしなんだろ? 家族と離ればなれなんだから、うちでゆっくりすればいい。なあ? お母さん」

「そうよ、遠慮しないで。どうせなら毎日うちで夕食食べていけばいいじゃない。ね? ハジメちゃん」

「先輩ぜひそうしてください! 家族皆大歓迎です。ね? 花子姉ちゃん」

「(……え)」

 とうとう問い返しさえも困難となった花子の顔に、すでに生気はない。

 ただただ神に洗脳されゆく我が家族が怖ろしかった。


 怖ろしくて何も答えられない花子を、隣に座る神先輩が窺うようにのぞき込んだ。


「花子さん、いい?」

「……は、はい」

 花子の勝手なお口は今なお健在だったようだ。

 健気にも許可を求めるイケメン様のお願いを決して拒絶できない…………なぜこうなった。




 

 その日から花子とハジメと両親、そして神先輩を新たに含む、家族愛と恐怖が複雑に絡み合った摩訶不思議な夕食タイムが始まった。


 今日も神様のお食事を震える手で作らせて頂く花子の元に、部活終わりのハジメと神先輩が帰ってきた。


「ただいま、花子さん」

「……お、おかえりなさいませ」

 なぜか「こんばんは」ではなく「ただいま」と挨拶してくるとってもフレンドリーな神先輩に、花子も決して逆らえず脅えながら挨拶を返した。


 


 突然我が家にやって来た超絶イケメン神先輩が栞兄だと判明した当初はダブルなショックに呆然とした花子だったが、しばらくしてようやく現実を受け入れつつあった。

 そして今やはり気になるのは、すでに遠い過去となった栞の存在である。

 ハジメと同い年だから、今年高校1年生となったはずだ。

 おそらく当時幼かった栞は花子のことなど、とうに忘れてしまったに違いない。

 今だ栞を思い出しては胸が苦しくなる花子は、今栞がどうしているのか知りたい気持ちも大きかった。

 けれど自分から神先輩に尋ねる勇気などあるわけなく、結局今だ栞の現状を知らない。

 いつかまたどこかで会えるだろうか…………そんな夢のような想像を頭にかすめては少し悲しくなる最近の花子だった。


 


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