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 この度めでたく母の良子が結婚することになった。

 花子はすでに17歳、高校2年の春の事だ。

 あらかじめ宣言しておこう、相手は決してイケメンではない。

 1度ならず2度までもイケメンからの酷い裏切りに遭いボロボロに傷ついた母だったが、ようやくようやくイケメン愛から完全に目を覚ましてくれたらしい。

 母と共に訪れた店で紹介された母の結婚相手となる男性は見るからに平々凡々、普通のおじ様だった。

 平凡地味母にピッタリお似合いのおじ様は、母の職場の同僚だという。

 見た目も穏やかで優しく、実際とても良い人らしい。母がまだ仕事に慣れない当初、とても親切に面倒を見てくれたそうだ。

 もちろん花子は二つ返事で大賛成し、無事母は結婚する運びとなった。

 そして喜ばしい事がもう1つ。花子には義父だけでなく、なんと義弟までできてしまった。

 義父と一緒に紹介された少年は、義父と亡き奥様の一人息子だという。

 花子より2歳年下の少年の名前はハジメといい、中学3年生だ。

 最初に母から聞かされた時は戸惑いと不安が大きかった花子も、ハジメと会ってすぐに安心した。

 義父そっくりなハジメはとても良い子だった。





「花子姉ちゃん、どうかな」

 ハジメが照れくさそうに披露してくれた制服姿を、花子はニコニコと微笑ましく見つめた。


「似合う似合う、ハジメちゃんカッコいいよ」

 拍手と共に褒めるとようやく自信も生まれたらしい、ハジメは安心したように笑顔を浮かべた。

 

 明日はとうとう義弟のハジメが高校に入学する。

 ハジメはこの1年間頑張って勉強したお蔭で難関志望校に無事合格し、家族皆で喜んだ。

 努力した本人も相当嬉しいのだろう、今夜花子にお願いされ制服姿を披露してくれたハジメは今からソワソワと落ち着きがない。


「ハジメちゃんも高校生かぁ……」

 1年前初めて出会ったハジメを思い出しながらしみじみ感慨に浸った花子は、ハジメからおかしそうに笑われた。


「大袈裟だなぁ、全然変わってないのに」

「そんなことないよ、ほら」

 花子がハジメの傍に近寄り背比べをすると、やはりもうハジメの方がわずかに大きかった。

 出会った当初のハジメは花子より小さかったのだから、ずいぶん成長したものだ。


「まだまだ全然小さいよ、俺なんて」

 悔しそうに顔を歪めたハジメは、コンプレックスの身長にずいぶん悩んでるらしい。

 おそらく今160cm程の身長は今春高校生男子になるにしては低いが、それでもこの1年で5cmは伸びたはずだ。

 ハジメがこんなに身長を気にするのも仕方がない。

 中学でバスケット部に所属していたハジメは、やはり小さいせいで相当苦労したらしい。

 誰よりも努力し練習を頑張っていたのに、結局3年間一度もレギュラーには選ばれなかった。

 ハジメは何も言わないが周りの部員達からもからかわれ、おそらくイジメに近い扱いを受けていたのだろう。

 この1年間、ハジメの近くにいた花子は何となく察していた。

 花子とハジメは似ている。

 バスケットも勉強も人一倍頑張っていたハジメを花子はちゃんと見ていたし、ハジメだってそうだ。

 いつも花子姉ちゃんと呼んでくれて、花子を慕ってくれる。

 純粋で心が優しくて、誰よりも可愛い弟だ。


「じゃあハジメちゃんがもっといっぱい大きくなれるように、私も頑張って毎日お弁当作るよ」

「え! 本当?」

 花子が落ち込むハジメを元気づけるため弁当作りを張りきると、ハジメも嬉しそうに驚いてくれた。


「ハジメちゃん、高校入学おめでとう! 部活頑張って」

「ありがとう……花子姉ちゃん」

 花子の弁当も励ましもよほど嬉しかったのか、感受性の強いハジメはうっすら涙を浮かべた。

 そんなハジメを見つめる花子も嬉しくなり、ニコニコと笑顔を浮かべた。



 1年前母が結婚し、花子は今家族4人でマンションに暮らしている。

 今春高校3年生となる花子の学校は頭の良いハジメと違いそこそこレベルだが、特に大きな問題もなく毎日元気に通学している。 

 今も相変わらずイケメン恐怖症の花子だが、周りは女子一色の女子高なのでイケメンを避ける必要もなく、とても平和で安泰だ。

 中学に入学してから徐々に話ができるクラスメイトも増え、ごくわずかだが友人を作ることもできた。

 優しい義父とハジメとの関係も良好で、家族4人毎日笑って暮らしている。

 小学生時代は母のお蔭で大変な経験もさせられたが、花子は今毎日がとても幸せだった。



 結婚後それまで勤めていた会社を辞めた母は、今はパートとしてスーパーで働いている。

 母の帰りは遅くいつも8時を過ぎ、義父も同じ頃に帰宅するので、皆揃って食べる夕食も比較的遅い時間だ。

 特に部活動もアルバイトもしていない暇な花子が母に代わって夕食を作るのも、当たり前のことだ。

 バスケ部に所属し毎日身体を動かすハジメがいっぱい食べてくれるので、作り甲斐もあるものだ。

 花子は学校帰りにスーパーで買い物を済ませ、今日も夕食を作るためキッチンへ向かった。

 冷蔵庫の中身と今日購入した食材を見つめ、しばしメニューを考える。

 今日のメインはハジメの大好きなハンバーグで決まりだ。

 鼻歌混じりで機嫌よく料理に取り掛かると、しばらくして玄関からバタバタと騒々しい足音が響いた。


「花子姉ちゃん、ただいま!」

「おかえり、どうしたの? 慌てて」

 息を弾ませ勢いよくキッチンに入ったハジメに、何事かと慌てて視線を向けた。


「いいからちょっと来て! 紹介したい人がいるんだ」

 興奮状態のハジメは嬉しそうに笑い、花子の手を引っ張り始めた。


「え! お客さん?」

 たった今帰宅したばかりのハジメと一緒に来たらしい来訪者に、花子も思わず慌ててしまう。

 戸惑いながらハジメに連れられ、玄関へ向かった。




(………………ひ) 

 声にならない悲鳴を上げた花子は、突然我が家に姿を現したアレを恐怖の目で見つめた。


「先輩! うちの花子姉ちゃんです!」


 不幸にも今日の日、新たに巡り会ってしまったらしい目の前の超絶ド級イケメン美男子。


 ハジメの先輩だった。

 

   

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