(19)
ゴクリ……
相変わらず超絶神兄様のご自宅は素晴らしい。
小学生以来久しぶりの高級豪邸を恐るおそる見上げ、花子はとてつもない緊張に思わず喉を鳴らした。
「花子さん大丈夫、俺がいるんだから」
優しく手を握りしめ微笑を浮かべる神兄に、覚悟を決めコクリと頷いた。
「行こう」
「う、うん……」
花子は手を引かれるままに神兄宅へ足を踏み入れた。
「まあまあいらっしゃい花子ちゃん! なんて久しぶりなのかしら」
玄関ドアを開けて早々、なぜかすでに待ち構えていた神兄母に大歓迎で迎えられた。
「こ、こんにちはお母さん……長らくご無沙汰してしまい申し訳ありません」
相変わらず愛情豊かな神兄母にぎゅうぎゅう手を握りしめられながら、何とか挨拶を返した。
「本当に懐かしい…………花子ちゃんが急にいなくなっちゃって、うちの家族は今まで毎日お通夜状態だったのよ。本当に本当に帰って来てくれてありがとう!」
決して冗談ではないらしい…………神兄母はハンカチでひたすら悲痛の涙を拭い始めた。
「母さん、花子さんが困ってるよ。もうそのくらいにして」
「あらあら……ごめんなさいね。さあどうぞ、早く中へ上がってちょうだい」
ようやく涙を収めた神兄母に促され、とうとう花子は再びガチガチ緊張状態で後に続いた。
「君か、うちの家族を今まで毎日通夜状態にしたのは」
やっぱり決して冗談ではなかったらしい…………花子はリビングに入るなり、すでにソファでふんぞり返って待ち構えていた神兄父にさっそく怒られた。
栞の言っていた通り、見るからに頑固で傲慢でとんでもなく傍若無人そうなお父上だ。
あまりの恐怖に花子はビクリと跳ね上がり、ブルブルと身体を震わせた。
「父さん、来て早々何ですか。挨拶くらいちゃんとして下さい」
すぐさま花子の肩を抱き寄せ安心させる神兄は、ふんぞり返る父親に礼儀がなっていないと厳しい口調で叱りつけた。
「う、うむ…………すまない、さあこっちへ」
神兄に叱られあっという間にしゅんと小さくなった神兄父は、ようやく神兄と花子を向かいのソファへ促した。
頑固で傲慢でとんでもなく傍若無人な父でも可愛い息子には弱いらしい。
花子は神兄と並び恐るおそるソファに腰を下ろした。
「父さん紹介します、俺の奥さんの花子さん。すでに入籍済みですから」
何てあっけらかんとした紹介の仕方だ神兄! やっぱりすでに入籍済みだった事実を堂々さっそく公表してしまわれた。
「は、はじめまして……鈴木花子です」
花子も観念してご挨拶すると、さっき息子に叱られしゅんとした神兄父が再びふんぞり返った。
「君か、うちの息子をこんな腑抜け者にしたのは」
再び怒られた花子はあまりの恐怖にビクリと跳ね上がり、ブルブルと身体を震わせた。
「父さん、俺が腑抜け者なのは花子さんのせいじゃありませんよ。これ以上花子さんを責めるなら、もう二度と父さんには会いませんよ」
すぐさま花子の手を握り安心させる神兄は、ふんぞり返る父を厳しい口調で脅しにかけた。
「う、うむ…………すまなかった、まあそう怒るでない」
神兄に脅されあっという間にしゅんと小さくなった神兄父は慌てて息子をなだめ始めた。
頑固で傲慢でとんでもなく傍若無人な父でも可愛い息子にはめちゃくちゃ弱いらしい。
「さあさあそんな固くならずに、皆でケーキでも食べましょう!」
一向に和まないリビングに突然入ってきた神兄母は、その手にお茶とケーキを用意し持ってきてくれた。
大きな苺がたっぷりのったケーキはおそらく神兄母の手作りだろう、相変わらずとても美味しそうだ。
「はい花子さん、あーん」
「あらあらまあまあ」
再びようやくふんぞり返ってきた父とニコニコ微笑ましく見つめる母を前にして、神兄はいつもと変わらず自ら花子にケーキをあーんと食べさせた。
何を考えてるんだ神兄! ちょっとは場の雰囲気を考えろ。
花子は青褪めながら、おバカにも条件反射であーんと口を開けてしまった。
「ふん、情けない。すっかり嫁の尻に敷かれおって」
「まあまあいいじゃありませんか。はいお父さん、あーん」
不甲斐ない息子に文句をつける神兄父を宥めながらあーんとケーキを差し出す神兄母と、あーんと口を開け平然と食べさせてもらう神兄父。
まるで花子と神兄そっくり逆バージョンではないか。
頑固で傲慢でとんでもなく傍若無人な神兄父は神兄そっくりの超絶美形イケメン。
そんな神兄父を喜んでお世話する栞そっくりの神兄母。
どうやら神兄は外見が父似、性格は母似であったらしい。
何ともおかしなものだと不思議顔で神兄家族を眺める花子自身も神兄の奉仕を平然と受け取るあたり、外見は平凡地味母良子似、性格は実はイケメン父似であることを今だ気付いていないのだった。
こうして無事神兄両親にも結婚を認められ、花子の17年にわたる超絶イケメン神兄からの逃亡はとうとう無事失敗に終わった。
とにかく結婚おめでとう花子!!
超絶粘着ストーカーイケメン神兄の最後が静か過ぎて不気味なので、近いうちオマケを投じたいと思っています。
呆れず最後までお付き合い下さいました読者の皆様、本当にありがとうございました。