しゃかい
「昨日は本当に死ぬかと思ったわ。殺しに来るとは、そこまでなんて驚いたわよね」
かあさんの方をちらっと見て、なぜか勝利したかのように墾田ちゃんは言う。
「ルールなんてありませんし、醜く戦えとそちらが仰いましたし。危険があるから私は反対しておりましたが、決まってしまいましたし」
俯きがちにそう言って、最後にペロッと舌を出した。
突然のその行動に、つい墾田ちゃんも許してしまいそうになる。
可愛い、そう感じてしまう。
「でもでも、本気で死に掛けたんだから! 謝るくらいしなさいよ」
一瞬緩んだ顔を戻し、墾田ちゃんは怒鳴るように言う。
しかし、それに負けるようなかあさんではなかった。
「勝負です。勝負に負けたからって、貴方は勝者に謝罪を求めるのですか? 素晴らしいです」
かあさんのその言葉に、墾田ちゃんは返すことが出来なかった。
これ以上言っても、更にカッコ悪くなるだけだと気付いたからだ。
「本当に墾田永年私財法ちゃんは負けたと言える? むしろ、最初から戦おうともしなかった君の方が弱かったんじゃないかな。敗北、なんじゃないかな。僕はそう思うよ」
睨み唸る墾田ちゃんの姿に限界を感じ、パイは救出に入る。
似ているところもあるので、パイはかあさんが嫌いではなかった。
嫌いではない。それでは、大好きな墾田ちゃんには当然勝てないが。
大好きな人を守る為なら、嫌いな人は勿論嫌いでない人でも潰す。
大好きな人の為ならば、好きな人が相手だって容赦はしない。
「それとも、薬品をばら撒いた方が強いとでも? それくらいだったら、僕だって出来るよ。なんなら、本気で殺しに掛かってもいいけど。どうかな」
墾田ちゃんの前に立ち、パイはきつくかあさんを睨み付ける。
そしてかあさんも、パイのことをきつく睨み付けた。
いつも柔らかく微笑むか、故障して大笑いかの二人。
その二人が笑顔でないのは、とても珍しいことであった。
それほどまでに、墾田ちゃんは人を変えたということだ。
笑顔の仮面を剥がし、本物の顔を出してあげる。
それは最早、特技と言ってもいいくらいであった。
ただ、優しさは知っていても手加減は知らないが。
「ありがとう、準備は出来た。そんじゃ、さよなら」
パイにお礼を言った墾田ちゃんは、最後にかあさんに笑顔を向ける。
かあさんは眠りに就いた。
「皆、これからもあたしと……」




