りか
「私はこんな戦い、反対ですよ。まだ、認めた訳ではありません。ただ認めてないけれど、手を抜くつもりもありません」
普段の微笑みを消して、かあさんは笑った。
口ではそう言いながらも、彼女は大好きだから。そんな戦いが。
だから、微笑む訳ではなく笑っていたのだ。
「プライドを取るか、命を取るか大切な選択ですよ? 敗北を認めて命乞いをすれば、心優しい私は救って差し上げます。しかし、判断が遅れたり無駄なプライドを取ってしまえば。……死ね」
低い声を出してはいるものの、やはり彼女の声はロリボであった。
それが更なる恐怖を生み出しているのだろう。
本当に容赦のないかあさん。彼女は、殺してもいいくらいの気持ちだったのだ。
彼女自身が死んで欲しいと願う訳ではない。
『どんな手を使ってでもいいから、さっさと決着を付けろ』
そうやって指示されてしまったのだ。
これ以上もたついていれば、自分が危なくなってしまう。
そう考えると、かあさんは相手を陥れることに何も感じなかった。
自分より相手を大切にするほど、彼女はバカではなかったんだ。
「それでは、さようなら。敗北を認めて下さること、信じています」
そう言ってかあさんは、自分だけガスマスクを装着する。
そして試験管の口を開けた。
中からは刺激臭のある気体が吹き出す。
皆、一瞬で気分が悪くなった。
因みに、倒置は試験官が出て来た瞬間に降参している。
「助けて。ねえ、助けて。けほん、けほんけほん」
殆んど経たずに、パイは助けを求めた。
始まる前に負けを認めるのはさすがに悔しかった。
しかし彼は、自分の限界を知らないバカではなかった。
負けず嫌いなのか強いのか、他の人は結構戦おうとしていた。
戦おうとはしていたが、ミスターはすぐにギブアップ。
色彩もこれ以上は死ぬと思い、かあさんに助けを求めた。
残っているのは四人。
墾田永年私財法、シャープ、短距離走、かんな&玉結び。
負けたくない。その思いで、苦しみを耐え続けていた。
助けてくれ。その一言で救われると言うのに、耐えようと努力していた。
「もう無理みたいね。助けて貰えるかしら」
そして玉結びも降参の言葉。
残り三人の戦いとなった。
「はっはっは、はっはっはっは。もっと苦しめ、もっともっと」
最早かあさんは故障状態である。
キャラなど忘れ、苦しむ姿を眺めて笑っていた。
楽しそうに、楽しそうに笑っていた。
「……ケテ」
遂に意識が遠退いて来て、さすがの墾田ちゃんも助けを求める。
「なんですって? もっとはっきり言ってくれないと聞えませんよ。さあ、大きな声でどうぞ。貴方は私にどうして欲しいのでしょうか」
しかしかあさんは、そう簡単に救ったりしない。
時間が経つに連れて彼女は壊れていき、ドSレベルは上がっていく。
耐え続けるほどに、更なる屈辱が科せられる。
「あたしを助けて下さい」
悔しそうにしながらも、墾田ちゃんははっきりと言う。
負けず嫌いではあったが、自分の実力を量れないような奴ではない。
高いプライドを今だけは捨てて、完全なる敗北を認めた。
「お救い頂けないでしょうか」
その後すぐにシャープもギブアップして、遂に残りは一人となった。
それでも短距離走は負けなかった。
苦しそうな顔も見せず、笑い続けていた。
そしてそれがかあさんは気に入らなかった。
気に入らなくて、酷く気に入った。その強さを手に入れたいと思った。
「オレは負けないぜ? いくら待ったって、助けなんか求めない。こんなの、無駄だと思うけどな」
声もはきはきとしていて、元気そのものであった。
「ありえません。無駄だなんて、ありえません」
短距離走の姿に驚き、かあさんは一旦気体を全部掃除する。
すぐになくせるように、それ用の薬品も用意してあるのである。
ただ全員がギブアップしてから使うつもりではあったが。
「本日は、申し訳ございませんでした。短距離走さんには敵いませんでしたが、皆さんは敗北をお認めになられたということで宜しいのですよね」
ガスマスクを外し、嬉しそうに楽しそうにかあさんは笑う。
「皆さん、これからも私と……」




