こくご
「切ないよ。どんなに手を伸ばしてもあなたには届かない、そう思うとまた涙が込み上げてきます」
今日は何しようか。
そんな相談が始まろうとしていたとき、倒置がそんなことを言い出した。
哀しい微笑みを浮かべて、長い綺麗な髪を靡かせて。
その姿には、シャープは勿論他の皆も見惚れてしまっていた。
少年も少女も、彼の美しさに目を離せないでいた。
「ど、どうしたの? いきなり変なこと言い出して、らしくないな」
一番見惚れていたシャープが、一番最初に我を取り戻した。
戸惑いながら、言葉の意味を問い掛ける。
「この時間が終わってしまう、それが寂しいのです。ぼくはずっと、ずっと一緒にいたいのに。終わりが近付いてくるのが、怖いんです」
大きな瞳を潤ませて、それでも微笑みながら言う。
彼がこうゆうことを素直に言うのは珍しい。
それは、他の誰よりも倒置を見ていたシャープが最も感じていた。
「大切な時間は去って行くけど、大切な人は去って行かないよ? お互いに想い合っていれば、きっとどこかでまた逢える。根拠はないけれど、わたしは信じている」
ぽつりと、独り言のように色彩は言った。
彼女のその言葉により、皆は感動回的なのだと判断した。
そう、倒置の罠に嵌ったのである。
彼は前日一人ストーリーを練り、その通りの”演技”をしているだけなのである。
堪える涙も少し赤くなる鼻も、髪を靡かせる風すら彼が作ったものだったのだ。
「泣いてんじゃねぇ、男だろ? いつまでも友達だから、悲しむ必要なんてないっての」
素直に倒置を励まそうと、短距離走は優しく声を掛けた。
それは、倒置にとっては嬉しいことではなかったのだが。
他の人がいいことを言ったら、その人にいいところを持っていかれてしまうと考えたからだ。
だから負けないように、彼はカッコいい言葉を並べた。
きれいごとではなく、的確に胸を打つであろう言葉を並べた。
「皆、これからもぼくと……」




